文献詳細
特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
7.疾病
「進化医学」とは:疾患の統合的理解をめざして
著者: 服巻保幸1
所属機関: 1九州大学生体防御医学研究所遺伝情報実験センター ゲノム機能学分野
ページ範囲:P.474 - P.475
文献概要
高名な遺伝学者であるドブジャンスキーは「Nothing in biology makes sense except in the light of evolution」という名言を残した。事実,生物の成り立ちを理解するには進化学的な解析や考察が必須である。この考えを医学の領域に導入したものが進化医学(darwinian medicine, evolutionary medicine)である。つまり疾患の成り立ちを進化学の面から明らかにしようという学問といえる。この分野の重要性を数多くの具体例とともに示した「病気はなぜ,あるのか」の著者であるネシーとウイリアムズの言葉を借りれば,「何が(What)どのようにして(How)病気を引き起こすかが現在の医学の目指しているものとすると,進化医学ではなぜ病気があるのか(Why)」を問いかける。
例えば,アフリカで高頻度に見られる単一遺伝子病である鎌状赤血球症は,ヘテロ接合体ではマラリア感染に対して抵抗性があり,他の遺伝子型の個体より有利であるため(超優性),高頻度で維持されている(平衡選択)。一方,多因子病について進化医学で引き合いに出されるのがニールの倹約遺伝子型説(thrifty genotype hypothesis)である。これは2型糖尿病では,食物摂取やその利用を効率的に行う遺伝子型がその発症に関わっており,その遺伝子型は人類が過去の飢餓に脅かされる時代を生き延びてきた過程で選択を受けたもので,現在では急速な食料事情の改善やカロリー過剰摂取のため,疾患が引き起こされやすくなったという考えである。事実,アメリカのピマインディアンでは保護地域での豊富な食生活とともに糖尿病の有病率が増加し,糖尿病発症者が成人の30%以上にも達している。このような例はポリネシアのナウルの集団においても見られている。ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study;GWAS)などで繰り返し2型糖尿病との関連が報告されている転写制御因子7L2遺伝子(
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