icon fsr

文献詳細

雑誌文献

生体の科学59巻6号

2008年12月発行

文献概要

実験講座

バイサルファイトショットガンシーケンス法の開発―全てのシトシンのメチル化状態を解明することを目指して

著者: 三浦史仁1 大力亮1 伊藤隆司1

所属機関: 1東京大学大学院新領域創成科学研究科情報生命科学専攻

ページ範囲:P.561 - P.570

文献購入ページに移動
 DNAの構成成分であるシトシンのメチル化は,遺伝子の発現制御に大きくかかわっている。メスの哺乳類細胞中で起こるX染色体の不活性化や,父母由来のアレルのいずれかが特異的に発現を抑えられるインプリント現象,がん細胞におけるがん抑制遺伝子の発現抑制,組織特異的な遺伝子発現抑制など,シトシンのメチル化が深くかかわっている生命現象は多い。こういった生命現象の研究は,メチル化シトシンを検出する技術の進歩と並行して発展してきた。数年前までは,このようなメチル化シトシンの解析対象は主にゲノム上の特定の領域に限られていたが,近年,DMH(differential methylation hybridization)法1)やMeDIP(methylated DNA immunoprecipitation)-Chip法2)などのマイクロアレイの応用技術の登場により,ゲノム全体のメチル化状態をおおよそ把握できるようになってきた。しかし,これらの技術は,プローブ長や標識したDNAの断片長にその解像度を支配され,決して全てのシトシン残基のメチル化情報を個別に得ることができない。メチル化解析において配列に拘わらず個々の塩基のメチル化状態を知るための唯一の技術は,1992年に開発されたバイサルファイト(Bisulfite:重亜硫酸)処理DNA断片の配列決定法(Bisulfite Sequencing:BS:図1)3)である。

 ゲノム上の全てのシトシンのメチル化情報を個々の塩基レベルの解像度で得ようとする要求は,シトシンのメチル化が関わる生命現象の重要性を考えると当然のことである。しかし,BS法によるメチル化解析ではメチル化の頻度情報が重要になり,場合によっては2本鎖ゲノムの両側の鎖をそれぞれ配列決定する必要があり,さらにはさまざまな状態間でその比較をする必要がある。つまり,ゲノムワイドなBS解析を行おうとする場合はゲノムの配列決定以上にリード数が要求されることを覚悟しなければならないのである。これまでは,サンガー法による配列決定に頼る場合は力のある複数の研究室が協力し合わない限り実現が不可能であった4)。しかし,短時間に従来の数桁上回る大量のリードが得られるいわゆる次世代シーケンサの登場でBS法によるショットガンシーケンシング(BSS)法の実現が可能となってきた。すでにシロイヌナズナではBSS法によりゲノム全体のメチル化状態を解析した報告がなされており5,6),マウスでは特定の長さの制限酵素断片だけを対象としたBSSによる解析結果が報告されている7)。われわれも独自にBSS法のプロトコールを考案し,アカパンカビをモデルにそのデータの有効性を確認してきた。本稿では,既存のBSS法で使用されている鋳型調整法を紹介し,その問題点を議論したうえで,われわれが現在開発中の新しい鋳型調整法を紹介する。

参考文献

8:459-470, 1999
37:853-862, 2005
89:1827-1831, 1992
38:1378-1385, 2006
452:215-219, 2008
133:523-536, 2008
454:766-770, 2008
437:376-380, 2005
16:545-552, 2006
29:1176-1181, 2008
126:1189-1120, 2006
29:E65-5, 2001
(Oxf) 48:261-262, 2004
11:409-415, 2004
18:469-476, 2008

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら