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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学6巻1号

1954年08月発行

雑誌目次

巻頭

研究の公共性

著者: 本川弘一

ページ範囲:P.1 - P.1

 吾々は一般妥当性をめざして科学の研究を行つている筈なのに,科学者の中には案外に独りよがりが多い。殊に日本人はそうした傾向が強いのではないかと思う。それは年々歳々の学会に出かけても屡々見受けられる風景である。多くの人達は意識せずして独善をふり廻しているのであろうから罪は少ないとの理窟は成り立つかも知れないが独善を恥じないという風習が罷り通るということに対しては反省すべきものがあると思われる。
 卑近な例を取れば.学会の演者は司会者や聴衆のことなど少しも考えないで,ひたすら自分の研究を発表しようとする。そのため定刻を週ぎても口演を止めない。多くの人達に興味もなく,またさして大切でもなさそうなことを唯自分が骨折つたということを示さんがためにくどくどと述べ立てる。従つて何を云つているのかさつぱり分らないような口演が多い。

綜説

細胞からのヒスタミン遊離

著者: 山崎英正

ページ範囲:P.2 - P.12

 1927年にヒスタミン遊離の基本的問題に関する2つの重要な論交が出版された。1つはLewis及びその共同研究者たち1)のもので,人間の皮膚が広汎な種類の物理化学的刺戟に対して示す反応を詳細に記述し,これがヒスタミンと類似の化学的物質H-Substanceの遊離にもとずくものと推論される多くの証拠を呈示したもので,別の1つはヒスタミンが多数の組織に正規の成分として存在することを実証したBest,Dale,Dadley & Thorpe2)の研究報告であつた。Dale3)はこの結果にもとずきLewisのH-Substanceをヒスタミンであると認定した。
 それ以来,極めて多様の病的状態についてその症状の発生機序に含まれる直接的作用因子がヒスタミンであるという推論が屡々行われ,種々の場合にそれが事実であることが確められた。アナフイラキシー・シヨツク乃至アレルギー性反応においてヒスタミン遊離がおこり,その症状の発生に関与することについては今日異論はないであろう。熱傷をはじめ種々の物理化学的方法による組織傷害のほか,ある種の動物性毒素や化学的物質が外見的な傷害をおこすことなしに細胞から著明なヒスタミン遊誰を行う事実も知られている。そして,そのような物質の種類が次第に数多く見付けられつゝあることも新しく注意をひいている。炎症の機序におけるヒスタミンの役割も最近再び活溌に論議されている。

第4回綜合医学賞入選論文

筋收縮の力学的研究

著者: 眞島英信

ページ範囲:P.13 - P.27

 1.はじめに
 筋の主機能である牧縮という現象は本来機械的力学的なものであつて,その根底にある化学反応が最後的に解明せられたとしても結局化学的エネルギーの機械的エネルギーへの転化のメカニズム,即ち"力の起源"が問題となるであろう。又其の他の種々の收縮に伴う現象,例えば熱発生,光学的変化或は電気的変化等に関する成績も,筋に関する限り総べて短縮乃至は張力発生という力学的な現象との連関に於て併せ理解されるべきである。
 本論文に於ては著者の実験成績を中心として従来の研究に対する批判並びに整理統合を行い,收縮に対する新らしい統一された考え方を展開したいと思う。筋に関する力学的研究のうちには静止筋の性質を扱つた厖大なデータがあるが,本論文に於ては主として活動し收縮する筋に関する研究のみに主題を限局して述べることにする。

論述

筋の変形電流—伸展による筋の電動的効果

著者: 杉靖三郞 ,   深山幹夫 ,   藤田紀盛

ページ範囲:P.28 - P.36

 いとぐち
 筋をのばしたり,圧迫したりするとき,電動力があらわれ,また筋を曲げると,曲げた側と伸びた側とのあいだに,電位差があらわれる。これは,一般に細胞が変形するときにおこる電位の変化(発電)と関係があり,変形電流とよばれて,Edu Bois-Reymond(1849)以来,多くの実験がなされている。この変形電流については,J. de Meyer2)(1921)の実験がもつともよく知られており,変形のおこつた部位での電位は高まり,その大いさは大体1.5mV程度のものであるという。近時,Rothschuh3)(1949)は,従来の実験を綜説し,これを追試している。それによると,筋の伸展部と非伸展部との間には電位差があらわれ,de Meyerの結果と同様に,伸展部は非伸展部に対して,電気的陽性(+)になり,その大いさは,伸展の負荷が十分大きくなると,10〜15mVに達することも稀ではない。そして負荷が小さいときには,この陽性化は,負荷を取りのけると直ちに元にかえり,完全に可逆的である。また,心筋においては,筋条線(muscle strip)をもちいると,骨格筋と同様に伸展部は非伸展部に対して電気的陽性(+)になるが,心臓全体をもちいた場合には,逆に伸展部は非伸展部に対して電気的陰性(-)になるという。
 ところが,他の実験では,筋の変形電流は,伸展部は非伸展部に対して,電気的に陰性化するというのもある。

報告

カエル縫工筋の收縮にょる物質代謝の変化—Ⅰ.電気刺激法の検討

著者: 関根隆光 ,   田中公一

ページ範囲:P.37 - P.42

 筋收縮の化学機構を明らかにするための,それに伴う物質代謝の追求は今世紀の初頭に始まり,解糖過程の全貌を明らかにさせ,なかんずくATPの発見の契機となり,さらに收縮性蛋白としてのactomyosineの研究へと輝がしい発展をたどりつつある。
 筋收縮の諸代謝物質の定量的変化や筋の仕事量との関係についてはすでにMeyerhofやHillらの記念碑的な偉大な業績があるが,收縮時と回復時の諸物質量の変化の反応速度論的解析には至つていない。特にoxydative phosphorylationとの相関においては観察されていない。

動物の成長とホルモン作用

著者: 小山良修

ページ範囲:P.42 - P.45

 十数年前,私は小児科に於ける内分泌を調べていた際に小児の各内分泌臓器の重量的変化或は尿中に排泄せられるホルモンの量的変化,各臓器の組織学的変化等を年齢的に比較してみると,決して漸進的に変化して行くものでなく,或る年齢に於ては突然急激な変化を現わし階段的で,又,飛躍的であることに興昧を感じた。私は試みにその階段の年齢を1〜2歳 内分泌活動点6〜7歳 内分泌変動点10〜11歳 内分泌再活動点として,従来の小児期の分類を変えてみた。そして此の事に重点を置いて小児の内分泌に関係した各臓器の位置,組織機能等から内分泌の病気1),治療法等に就いて,まとめて小児内分泌として発表した。
 それ以来,臨床を離れた私は動物の威長に就いても,そのホルモン作用は又,同様な関係にあるのではなかろうかと考えていた。その為成長期にある幼若動物が一定の時期に至り突然性機能を現わして来るものとすれば,それ以前に性ホルモンを与えた場合に,いかなる影響を成長に及ぼすものであろうか,又一方,成長に関係のある脳下垂体を剔出し,或は骨に関係のある副甲状腺を剔出した場合,いかなる影響を成長に及ぼすものであろうかと考えて実験を試みた。その成績の一端をここに報告する。

瀘紙電気泳動法に関する研究—血清蛋白の移動度に就て

著者: 高橋勝三

ページ範囲:P.46 - P.48

 濾紙電気泳動法に関する報告は多いが,移動度を論じたものは少い。2,9,11,12,15)著者は主としてTiselius,Macheboeufの実験に沿うて血清蛋白質の相対移動度を求めたので報告する。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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