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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学6巻3号

1954年12月発行

雑誌目次

巻頭

大き過ぎる日本医学会総会

著者: 吉川春壽

ページ範囲:P.97 - P.97

 来年は4年に1度の日本医学会総会が京都で開催されるので,その分科会になつている各学会では早くも演題募集を締切つて総会本部にプログラム編成のため送つたところである。その演題の数はおそらく前回東京で開かれた時よりもまた増えているのではないかと予想される。分科会の数も前回よりもいくつか増して40を越している筈だから,会場の準備だけでもなかなか大変だ。地元の京都の総会本部の苦労は並大抵ではなかろうとお察しする次第である。
 このように日本医学会総会が年々大きくなつてゆくことは日本の医学がそれだけ盛になつた事を意味するのだから,大いに喜ばしいことにはちがいないが,このような総会の開催方法が果して適当かどうかというと,どうも疑わしくなる。各分科会即ち日本の主だつた医学関係の学会の総会が一時に一カ所で開かれるわけであるが,これだけ分科会が多数になり,参会者も万を越すというようなことになると,唯無統制に学会がよりあつまつたという感じで,結局開会式と閉会式がおごそかに,目出度く行われる事と特別講演が聞けるという点で総合された総会の面目を保つだけで,学会に出席する者にとつては迷惑な点が少くない。

綜説

神経分泌研究の現状について

著者: 佐野豊

ページ範囲:P.98 - P.104

 「神経分泌」と云う言葉は,我国では今日まだ比較的新しい感覚をもつて迎えられるが,既に諸外国ではこの分野の研究は文献の渉猟に遑のないほど,年々その広さと深さを増しており,昨年(1953)はナポリの Stazione Zoologicaに於て第1回万国神経分泌討議会が開催せられたし,本年(1954)はScharrer夫妻の執筆による「神経分泌」が,Möllendorff(-Bargmann)組織学全書中の一項として編入せられている。私は本年初め「脳と神経」6巻,1号に「神経細胞の分泌現象」と題して,やや歴史的な見地から,神経分泌について概説したが,その後ナポリから帰朝された榎並教授も,「科学」誌上に討議会の内容を中心として,綜説を発表されており,研究方面でも種々の大学でこの問題が取上げられている現状なので,今回は此処数年の間に行われた新しい業績をとりまとめて本誌の依頼に応じることにした。なお無脊椎動物の神経分泌については紙面の関係上本編ではふれない事とする。

論述

駆虫剤の作用機序—Santoninを主題に

著者: 板東丈夫

ページ範囲:P.105 - P.112

 まえがき
 一般に,駆虫剤といえば,蛔虫駆除藥に限らないし,蛔虫を対象とする場合にも,Santoninの他にHexylresorcinolのような殺虫作用を持つものや,Ficinのような蛋白分解酵素も含まれることになる。ここでは,その一つ一つについてのべることは避けて,蛔虫に対するSantoninの駆虫作用につき,その機序を論ずることとしたい。
 Santoninは,蛔虫にはたらいて,寄主動物の腸からこれを文字通り追い出す作用をもつ藥物である。何故にこうしたことが起るか,その作用機序の解明は,古くして,また同時に新しい問題であるといえよう。著者は,この問題に大きな興味を覚え,何とかしてこれを解決したいと考えている者の1人である。

藥物作用型式—濃度作用曲線の立場から

著者: 松本博

ページ範囲:P.113 - P.126

 Ⅰ.まえがき
 藥物作用機構を考察する一手段として,適用濃度と作用強度との関係曲線──濃度作用曲線(Concentration-action curve,以下C-A曲線)〔生体内実験の場合には用量作用曲線(Dose-action curve)〕──の形をグラフで調べ,これを一定の式で表現する試みは,これまで多くの人々によつて行われてきたが,未だ統一的な見解が得られているとは云い難い。1937年頃までのC-A曲線に関する諸家の業績も含めた定量藥理学の諸問題に就ては,Clarkが自身の批判的な見解と共に,そのすぐれた綜説1)2)にまとめているが,従来C-A曲線の考察には概して断片的なものが多く,その綜合的な把握にはなお物足りないものが感ぜられる。我々はC-A曲線に若干の知見を補遣し,その綜合的理解に幾分寄与し得た様に思うので,ここにこれまでの文献を参照しつつ,教室で得られた成績の概要を記してみたいと思う。
 C-A曲線を取扱う際,作用度の指標としては,悉無律的に判定される作用(例。生と死—死亡率)と累進的に測定出来る作用(例。筋の收縮高)の何れをとることも出来るが,以下に取上げるものはすべて後者(Concentration-graded action curve)に限定することを予めお断りしておく。

報告

脾臓リンパについて

著者: 八田博英 ,   岡田乾一

ページ範囲:P.127 - P.129

 脾臓のリンパは排出管とその純粋なリンパの採集に適する部位が明かでなかつたので,研究が乏しく,僅かに脾静脈の結紮により乳糜槽内への血性リンパの流入,灌流実験による色素の乳糜槽内への出現が観察されていたが1),その組成は不明であつた。
 一般に脾髄にはリンパ管がないとされていたが3),最近同部からのリンパ管が明かとなつた7)11)12)

筋弛緩因子とActin

著者: 横山稔

ページ範囲:P.129 - P.135

 筋收縮機構,特にactomyosin(以下AM)系に関する研究は多くの人々によつて取り上げられている。中でもA. Szent-Györgi1)2)3)4)等はAM系について,contraction cycle中,弛緩面にadenosinetriphosphate(以下ATP)のenergyが使われると主張し,一方H. H. Weber5)及びE. Bozler6)等は之と反対に,收縮面にAT Pのenergyが使われると述べている。われわれは7)8)9)10),AMの超沈澱とAM-ATPase activityが平行関係を有すること,並びにATP短縮したglycerol筋がPyrophosphateその他のchemical agentにより弛緩する事実等から,contraction cycleにおける收縮相はATPのenergyを伴うactive process,弛緩相はpassive processであるとの立場をとつている。
 飜つて contraction cycleに対するactinの意義に関しては,従来比較的等閑に附せられた観があり,僅にStraub11)12)13)14),Mommaerts15)16)17)等により,そのG-F変形の関与が強調されたが,これらはなお実証に乏しい憾みがある。

核電導体模型に於ける分極電圧の生成消失並に勾配に就て

著者: 石田絢子

ページ範囲:P.135 - P.139

 筋,神経等の被刺激性形体における形質膜の分極に関する問題は,興奮及び其の伝導に本質的な関係を有するものとして従来多くの人々に依つて論ぜられている。即ちNernstに始まる通電に際する形質膜の両面のIon集積即ち分極電圧が或る一定度以上に達すれば興奮が起ると推定されるもので,又坂本4)に依る筋又は神経線維の閾下の通電の開放に際して形質膜に分極が認められるとの報告,又松本2)の刺戟度に関する模型実験に於て銀板をRinger液に浸した際の分極に関しての研究等を挙げることが出来る。私も形質膜の分極が興奮の伝導と本質的な関係を有するだろうとの意図のもとにLillieの核伝導体模型類似の模型7)を用い刺戟電極即ち分極源電流を送る電極を中心に分極電圧の生成及び消失の勾配,及び分極電圧の配布の状態如何等についての実験を行つたので之を報告する。

——

第8回神経化学班談話会記事

著者: 佐野豊 ,   細谷雄二 ,   沖中重雄 ,   吉川正己

ページ範囲:P.140 - P.143

 口演要旨
 神経分泌に関する一般的事項について,哺乳類(犬,兎,ハムスター,豹),鳥類(アヒル),両棲類(蛙)の標本を用いて説明した。
 神経分泌物質は哺乳類,鳥類に於ては,視束上核及び副脳室核,両棲類では前視束核の神経細胞体内で作られる。これらの細胞は全てニツスル物質,神経原線維及び軸索突起を有する完全な神経細胞である。gomoriphilの物質が増加するにつれて,細胞体は大きくなり,Nissl物質はstaubigになる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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