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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学6巻4号

1955年02月発行

雑誌目次

巻頭

年頭雜感

著者: 熊谷洋

ページ範囲:P.145 - P.145

 生体の科学も茲に生誕6年の春を迎えた。生物学の研究殊にその機能面からの追求に携る人々の真摯な研究発表と相互の理解などを希求して,畏友杉君と二人で本誌の発刊を計かくした6年前を思うと,月並の言葉ではあるが,かんがい無りようである。まじめな但し採算のとれない雑誌ということが出発の始めからのモツトーであり,又覚悟の上のことであつた。われらは,よきものは必ず売れるという信条を,その当時から今に至る迄もちつずけている。勿論その間には発刊所当事者のギセィ乃至奉仕が大きな支柱ではあつたが,本誌の性格を了解された多数寄稿者の熱意とひ護によることが第一の条件であつた。そのため今では,日本の生物学研究陣の一つの最高水準を指向している雑誌であると,ひそかに自負している。又編集陣にもすぐれた数人の若い学徒を加えたので今後の発展に一層の期待がもてるものと筆者は考えている。
 終戦直後の暗中も索,次で海外からのおくれをとりもどすための力走,更には馬車馬式の職人的修錬と,こゝ過去10年はまことに息切れする10年であつたが,本誌の発展経過にも見られる様に,昨年頃から次第に我が国の研究陣もゆとりをとりもどしたかに見える,それがあらぬか職人的修業への疑惑,生物学者としての反省などの問題が提起される気運が感知される。筆者も亦筆者なりに夢もある,朦想もある。答えにならぬ答に終るであろうが以下に筆者の朦想をさらけ出さう。

綜説

Mechanoreceptorにみられる電気現象

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.146 - P.153

 Ⅰ.緒言
 ふつうmechanoreceptorといわれる受容器をつぎのようにわけることができる。(ⅰ)触りに応じるtouch receptor,(ⅱ)持続的な圧または張力に応じるpressure receptorおよびtension receptor,(ⅲ)振動に応じる側線器と耳,(ⅳ)痛み刺戟に応じるpain receptor。(ⅲ)はあたえられる刺戟がたんに振動性のものである点から考えると,根本的のメカニズムとしては(ⅰ)にちかいとおもえる。さらにAdrian & Zotterman1)によつて実験的にあきらかにされた(ⅰ),(ⅱ),(ⅳ)のちがいは,たんに順応のはやさに大小があるというだけであつて;知覚神経衝撃を発生するメカニズムそのものに基本的なちがいがあるとは考えられない。ふつう,(ⅰ),(ⅳ)は順応がはやいのでphasic receptor,(ⅱ)は順応がおそいのでpostural receptorといわれている。したがつて,本文ではこれらをひとまとめにして,共通と考えられる知覚衝撃発生のメカニズムにつきロンドンにおいてJ. A. B. Grayとともに実験したことを中心とし,ちかごろあらわれた仕事と関係ずけてのべてみたい。

論述

ニコチン代謝

著者: 山本巖

ページ範囲:P.154 - P.159

 まえがき
 広くニコチンを中心とした研究は,Chemical Abstractsからこの題目を求めて收録された文献集1)(日本専売公社中央研究所,1950)を瞥見しただけでも,その内容の豊富さと,今日までに払われた先人のなみなみならぬ努力のあとを窮い知ることが出来るであろう。かつて宇賀田2)(1934)はその著「医学煙草考」に於て,広く当時までの関係論文を渉猟して,ニコチンが主役を演ずるこの草の常用による有害を必然的に警告せねばならなかつた。藥物習慣を研究する者の立場からすると私もNicotine-habitを一応,阿片アルカロイドなどによるAddictionと区別して考えることが正しいとする説3)に同意するものであるが,いずれにせよ,藥物が反覆長期に及んで摂取せられた場合の生体反応の変化を追求するに当つても,これら藥物の代謝様式に関する知見が要求される。
 さて,かゝる見地に立つて,注意深く,ニコチンそのものゝ代謝を眺めてみると,過去の業績は思いのほか乏しくて,くらやみの部分が多いように思える。私がこの方面の研究を行つているのも以上の理由につきる。以下,ニコチン代謝に関連をもつた若干の問題をとらえて,私たちの実験成果を織りまぜつつ,その概略を述べたい。

アルコール代謝

著者: 飯田正一

ページ範囲:P.160 - P.165

 Ⅰ.飮用されたアルコールの運命
 飲用されたアルコールの約20%は胃から,残りは腸管から迅速に吸收される1)。その吸收速度は色々な因子により左右されるが,その1つはアルコール濃度で今1つは胃の状態である。満腹時には吸收が遅く,空腹時には速くなるのは当然であるが,食物の中でも蛋白及び脂肪が殊に吸收を遅らせる2)。吸收されたアルコールは体組織の内に大体一様に拡散される。これを拡散平衡に達したと云い飮用後60〜90分を要する3)5)6)
 次でその90〜99%は体内殊に肝臓に於て酸化されアセトアルデヒド,酷酸を経てCO2と水とになる7)8)。その経過中にアルコールは1gについて7.1calのエネルギーを遊離する,そしてこれと同熱量だけの他の栄養素殊に含水炭素の燃焼を節約するのである9)。以上の反応速度は比較的遅く,且組織内にあるアルコール濃度とは無関係に殆んど一定した代謝率で行われる。では1時間にどれ位のアルコールが酸化されるかと云うと,大体男は7g,女は5.3gとされている33)。故に30%180ccのボケツト型ウイスキー1本を完全に酸化するには実に8時間を要するわけである。

Digitalis glycosideと核酸代謝

著者: 中塚正行

ページ範囲:P.166 - P.176

 まえがき
 1875年Withering1)により浮腫減退藥として紹介されたDigitalisが強心剤として,治療界に占める地位は甚だ重要であり,従つてこれに関する内外の研究報告は今尚枚挙に遑のない現状である。作用本態に就ては,神経系2)3,4),力学的機能5)6)7)8),心筋新陳代謝9)並びに酵素系10)等を中心に多数の報告があるが,未だ一致した見解には達していない。
 他面細胞の主要成分の一つである核酸は細胞化学的並びに遺伝学的に生命現象を維持するのに必要な物質である。化学的性状,物理学的性状及び生物化学的意義に関する研究の発展はめざましく,就中核酸の生合成及び酵素分解を巡る一連の代謝系は,Adenosinetriphosphate(ATP)等の高エネルギー燐酸化合物の代謝と共軛的関係があり,核酸は細胞核に由来する遺伝等許りでなく,生体の諸機能並びに生命の根源に直接又は間接の何れにもせよ,因果関係の存在する事は,近時先人により指摘されている。核酸と一連の関係を持つ,ATPは筋肉の收縮及び弛緩にあたり,Actomyosineと共に重要な役割を果している事は既にSzent-Györgyi11)等により確かめられた。

報告

モルヒネの試験管内分解

著者: 細谷英吉

ページ範囲:P.177 - P.181

 近年におけるモルヒネの藥理学的研究の中で劃期的なものは1940年Gross, Thompson and Vincent1)等及びOberst2)が夫々別個に発表した遊離モルヒネ(free morphine)と結合モルヒネ(bound morphine)についての報告であろう。それ迄は結合モルヒネに就ての概念が無かつたため遊離モルヒネの回收量のみに依り凡ゆることが論じられたのであつたが,それ以後は遊離及結合モルヒネの両者について単独或は比較的に探求するようになり,こゝにモルヒネ類の研究は新生面を拓いたのである。其後アイソトープの利用,又最近にはモルヒネ合成の成功(1952)もあり,抽出,定量法の進歩と相俟つて新知見が続出している状態である。
 不幸にして吾国では,この結合モルヒネの概念が文献として渡来する前後から鎖国状態となつたため,又終戦後は麻藥取扱が過度に嚴重になつたため,それ以前には優秀な業蹟が多数あつたにもかゝわらず,この方面ではあまり進歩が見られなくなつてしまつた。

無麻醉ラツテの電気的血圧測定裝置に就て

著者: 中尾健 ,   平賀與吾 ,   柳田知司

ページ範囲:P.181 - P.186

 血圧の測定法には観血的及び非観血的方法の二通りあるが,更に之等は各々直接及び間接法に大別される。直接法とは血圧及びその変動を圧力計に伝え,その指示又は記録が直接血圧値を示めすものであり,Fickのfeder manometerやHamiltonのmanometer等がその代表的なものである。間接法とは何等かの仲介的判定基準を設けて,それにより間接的に血圧を知る方法で,臨床に一般に常用されて居る聴診法は間接法の一つである。ラツテの血圧測定法として今日迄に報告されたものを表に纏めると表1の如くになる(表1)。私共の教室では従来橘・梅沢等13)がラツテの血圧測定に際しplethysmographを用いる方法を採用して居たが,比の方法は記録出来ぬ欠点があるので,今回電気的描記法を考案した。以下この新装置に就て説明し,併せて従来行なわれて来た各種ラツテ血圧測定法との比較検討を加えてみたい。

硫酸抱合に関する研究—硫酸抱合から見たアドレナリン,アドレナロン,ティラミンの肝切片による変化

著者: 佐藤徳郞 ,   鈴木妙子 ,   福山富太郞 ,   吉川春寿

ページ範囲:P.187 - P.190

 ラツテ肝を用い,アドレナリン,アドレナロン,ティラミン或いはその代謝産物にS35硫酸をマークしてペーパークロマトで展開してS35硫酸の量を測定した。Amine oxidaseを抑制すると云われているエフエドリン,marsilidを併用し,或いはamine oxidaseを充分働かせるためhomogenateで前処置をしてS35硫酸の分布の変化を調べた。
 その結果夫等のアミンに硫酸の結びついたもの,amine oxidaseが働いた—CHO物質,更に酸化を受けた—COOH物質の3種の硫酸抱合物と思われるものが見出された。
 アドレナリンは硫酸抱合を受けたものも顕著にamine oxidaseの作用を受ける処見を得た。

研究室から

東邦大学高田研究室

著者: 高田蒔

ページ範囲:P.191 - P.192

 「宇宙生物学」という全く目新らしい科学に,筆者の創始した絮数反応という定量法的血清反応を応用し,「対流圏放射腺」と名付けた前代未聞の高エネルギー性放射線の作用によつて生体内に生起するイオン化現象を,毎日健康男子の血液について測定を続けること既に満20年となつた。これまで延べ何万回採血したか,今では正確に数えることが出来ない。よくも頑張り続けたものだと吾ながらツクヅクと感心する。この研究は,生きている人間を精巧な一種の物理化学的装置と見做し,独得の方法を用いて新領域を開拓するものだけに,.最初のうちは日本の物理学者から異端者扱いをされ,言語に絶する妨害と非難を受けたのであつたが,今では誰一人として正面切つて反対しうる人は一人もいなくなつた。それは,この業績が着々とドイツやイタリアの学者の間に認められて来たからでもあろう。しかし。わが国内では,この重大の研究に温い手を差し述べて,物質的な援助を与えようとする篤志家は残念ながら,まだ一人も現われない。一番ひどいのは,絮数反応を公然と横領し,自分の姓名をつけ,自分の発見であるかのように見せかけて,しやあしやあと学界に発表している不徳漢すらある。これは臨床方面だけの応用であり,かつての竹馬の友でもあるので大目に見逃がしてやつてはいるが,陰でそれを非難しながら,面と向つて忠告をする人もいない。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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