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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学6巻5号

1955年04月発行

雑誌目次

巻頭

国際学会について

著者: 林髞

ページ範囲:P.193 - P.193

 国際生理学会は195年にアメリカで開かれ,次回は1955年にベルギーで開かれることにきまつている。戦争やその他の世界的な不都合がないならば,毎3年目毎に開催が予定されているのであるから次々回は1959年にどこかで開かれることになつて居る。そして,それを日本に招致しようという動きが,既に数年前から日本生理学会の評議員会のうちにある。そこで,私は生理学を愛するものの一人として,このことを考えもし,多くの同好の士に知つていたゞき度くもある。
 第一に可能性があるか。それはある。次々回の決定は1956年に開かれるベルギーの学会で,国際委員の意見で決定される為であるが,それは予め申し出て,考えて来て貰わねばならぬ。幸い日本学会から国際委員が出ている。それは久野寧教授で,外に国際委員を持たない国も多いが日本から当選者があつたことは,久野教授の今まで国際学会につくした前歴があると共に日本の生理学がやゝ認められているからでもある。そこで久野国際委員は,聞くところによると,アメリカでの学会で他日日本で引受けてもよいという発言をし,それが国際委員会では否定されなかつた。そこで,今度のベルギーの学会で,久野委員から,我々は久野委員の紹介で発言する日本委員(日本生理学会よりベルギーに派遺される委員。これは学術会議できまる)から申し出せば,ベルギーの後の国際生理学会が日本へ招致することが出来ることはまず予定されよう。

綜説

色の感覺の電気生理学的研究

著者: 問田直幹 ,   後藤昌義

ページ範囲:P.194 - P.203

 Ⅰ.まえがき
 5年前に間田1)は「色の感覚の生理学的研究」と題する綜説の書きだしに次のように書いた。
 近頃「シベリヤ物語」や「赤い靴」などの天然色映画を見つけてから普通の映画を見ると何となく物足りない感じがする。もし我々にカブトガニなどのように色の区別の能力がなかつたとしたら,この世はどんなにわびしいものになるだろう。更に実用的立場がら考えても色の感覚は我々の生活に重要な役割を演じているのである。古くからLeonard da Vinci,Newton,Goethe,Helmooltz,Maxwell,Schrödingerなどの碩学巨匠が色の問題ととり組んだのも故なしとはいない。光の波長が異るとなぜちがつた色の感覚が起るか。これは昔から物理学者,心理学者,生理学者の興味の的であり,又論争の中心となつた。そして今日でもまだはつきりとは分つていないのである。

論述

MucolipidとBial chromogen—組織の医化学

著者: 山川民夫

ページ範囲:P.204 - P.217

 1.前文
 私は1952年本誌(第4巻第3号113頁)に"赤血球のリピド──ヘマトシドとグロボシド—或る研究の記録—"と云う多少キザな題で,始めてから約2年間の私共の業績の概要を考察や感想を折まぜながら記述した。私はつねつね学術論文はその道の專攻学者が読んで役立つ為に出来るだけ詳述して,たとえ,無味乾燥であつても止むを得ないが,本誌の様な雑誌では,論文と錐も,肩の凝らない読物でなければならないと云う意見を持つているので,多少脱線し,時には失敗を打明け,或は自慢話めいてもそれは諒承されるものと信じている。一人の研究者がどんな考えで研究を始め,それが如何なる迂余曲折を経て進展して行くかは,同学の士にとつて,非常に知りたい事柄であるので,鳥滸がましい次第であるが,再び前著の続篇として漫然と書き続けさせて戴くことにする。何らかの御参考になれば望外の幸である。

嫌酒藥Disulfiramの藥理

著者: 赤羽治郞

ページ範囲:P.218 - P.224

 Ⅰ.緒言
 Disulfiram(Antabus),Tetraethylthiuram,disulfide。
 Disulfiramが嫌酒藥としてalcohol中毒患者にdlcohol禁断の目的で応用されるに至つたのは,1945年(Jacobson and Hald)以来のことであるが,現在では慢性alcohol中毒の治療法としては,精神科的療法と相まつて,ゆるぎのない重要な地位を占めるに至つている。

報告

フェノール類の肝切片による硫酸抱合(3)—クロールフエノール(P.M.O.)の変化について

著者: 佐藤德郞 ,   鈴木妙子 ,   福山富太郞 ,   吉川春壽

ページ範囲:P.225 - P.226

 クロールフエノールの代謝は従来余り明かでない。Williams等1)2)はクロールベンゼンを与えた。兎の尿から4-chloro-2hydroxyphenyl glucuronideを分離し,Mills等3)はラツテにヨードベンゼンを与え,尿よりペーパークロマトでP-iodocatecholと思われるものゝ硫酸抱合のspotを証明している。
 私共はp. m. oの3種のクロールフエノールを用い,ラツテ,いぬ,ねこの肝切片によつてS35)-硫酸と抱合させ,酢酸ブタノールで展開,ラヂオオートグラフでspotを確め,又ローリツツエン検電器でS35)の量を測定した。

昆虫間接翅筋の高速度活動と微小電位変動

著者: 池田和夫

ページ範囲:P.227 - P.231

 1.Odonata, Lepidoptera, Diptera, Hymenopteraの間接翅筋について活動電位とは異る微小電位変動を検索した所,Odonata, Lepidopteraではこれが認められず,DiPtera, Hymenopteraの多くは不規則な微小電位変動を起して居ることを認めた。
 2.この微小電位変動はDiptera, Hymenoptera等系統発生的に高い目に属する昆虫の間接翅筋に独特のものであり,
 3.高速度活動をするfibrillar inuscleに於てのみ認められる。
 4.この微小電位変動は筋原的なものであり,
 5.これが同調して規則的な放電となつて,間接翅筋の活動電位の放電頻度を決定するらしく.高速度活動をする間接翅筋ではかゝる。筋原的な放電頻度の決定が不可欠なものと思われる。

動物の発育とLogistic曲線

著者: 田波潤一郞 ,   吉田実

ページ範囲:P.233 - P.237

 動物の成長は受精卵紬胞の分裂に始るが,通常私達が測定出来るのは秀娩後或は孵化後の成長過程である。動物個体の成長は一定の定状状態(成熟)に達するまでの経過である。
 この成長過程を規定するものに先ず遺伝的な要素がある。次に広義の環境要素がある。即ち栄養,伝染病,外界の温度条件,輻射線,有毒ガス等の作用がある第2の要素が,人間の健康を問題とする衛生学の主要な研究対象となるわけである。

研究室から

脳のSlice

著者: 高垣玄吉郞

ページ範囲:P.238 - P.239

 組織HomogenateよりSliceの方がより生理的条件に近いものであり,実際に組織内に起つている反応を決定しようとするのに役立つ。このことは一般に信ぜられている所であるし,そのこと自身正しいことであろう。しかし,一歩立ち入つて如何なる点で生理的条件に近いのか,組織内の反応を決定するのに役立つと考える根拠はどこにあるのか,を検討して見るとそう簡単には済まない問題を含んでいる様である。
 Sliceでは細胞め大部分は破壊されていないと言われる。果してそうだろうか。他の臓器組織については知らないが,我々が用いている脳Sliceについて,その組織像を検討して下さつた当学解剖学教室の飯沼助教授はこんな脳組織は見たことがないと言われた。組織は死んで了つていることは勿論だし,生理的条件には及びもつかないとも言われた。ただ感心して居られたのは,かみそりの刃でfree-handで切つた切口が非常に鋭利であることと,我々が経験的に厚み0.35mmと言つているのが可成り正確に一定していることであつた。しかしこの死んで了つているSliceもWarburgの容器中でブドー糖を与えて振盪していると,1時間以上に亘つて一定の呼吸を行つている。Homogenateと異つて別に補酵素を補ってやらなくても,ブドー糖はGlycolysis→Krebs Cycleと完全酸化をうけているのである。

海外通信

滞米見聞記(1)—Cornell大学に於ける藥理学講座

著者: 橋本虎六

ページ範囲:P.240 - P.242

 離日して紐育に到着したのは9月1日。開講したのは9月16日であつたので,それ迄に充分食住の用意する間があつたのは幸いでした。それ迄に教室の一室に机も与えられ,又教室の人等々も紹介されて落着いて講義に出席する事が出来ました。講義は12月2日に最終試験が終了する迄続き,教室員も総動員で全力をあげて集中的に学生の振導に当ると云う有様で,研究の方はその間に少しづつ続ける程度でした。先ず第一に感じた点は学生の指導は極めて親切丁寧で,学生が質問があれば,如何なる時でも教授初め各教室員の所に来,その時は総ての対話も止めて質問に応ずると云うわけで学生優先です。ここの習慣として二人が討論或は対話して居る時に第三者が訪ねて来た場合辛棒強く話の終るのを待ちます。教授と云えどもおとなしく待つて居ます。所が学生の場合は特例で話を中途で止めても学生の質問に応じます。学生に又来る時間がないと云う事を考えて,学生が質問の機会を失うのを恐れて居ます。学生と討論して居る時は,誰れが来ようと全然話を中断しません。
 次に講義の分担ですが,教授から始りResearch fellowに至る迄,凡そBulltinにのつて居る人は総て何れかの分野を受持って講義をします。総計11名の講師です。分担は主任教授であるDrn.Cattell及びassociate Prof.Dr.Rikerが凡その腹案を作り,全教室員が集つてデモクラチツクに決定するのだそうです。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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