特集 脳と糖脂質
ガングリオシド研究における質量顕微鏡法の応用
著者:
井上菜穂子1
瀬藤光利1
所属機関:
1浜松医科大学分子イメージング先端研究センター分子解剖学研究部門
ページ範囲:P.240 - P.247
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親水基としての糖鎖と疎水基としてのセラミドを持つ両親媒性のガングリオシドは,多くの脊椎動物の細胞に存在し,細胞の分化や増殖あるいは接着の調節・制御に関わっていると考えられている1-5)。また,微生物やそれらが生産する毒素の受容体でもある。脊椎動物における糖脂質の主要な構成単糖は7種に過ぎないが,糖鎖構造の違いによって400種を越す分子種が知られている。また,同一糖鎖を有する糖脂質分子においても脂質部分に不均一性を示す。脂質構造,特に脂肪酸の分子種は,生体膜上での糖脂質の局在化,コレステロールやリン脂質あるいは受容体タンパク質との相互作用,膜上での糖鎖の配向を考察する上で極めて重要である。また,糖脂質由来の遊離セラミドが細胞機能を調節している可能性もある。つまり分子種それぞれが固有の細胞機能を担っている可能性があり,ガングリオシド分子種の詳細な局在解析が求められている。
質量顕微鏡法は,質量分析の解析の次元をこれまでの一次元から二次元へと上昇させ,物質の局在と構造情報を同時に知ることを可能にした新しい解析手法である。分離・精製を要さず,一度に数万もの分子の量的・位置的な挙動をターゲットを絞らずモニターできるのが特徴である。