研究の戦略
境界形成とEph-Ephrinシグナル
著者:
渡邉忠由1
高橋淑子2
所属機関:
1カリフォルニア大学サンフランシスコ校
2奈良先端科学大学院大学バイオサイエンス研究科
ページ範囲:P.330 - P.336
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100兆以上もの細胞から成るわれわれの体が作られる過程においては,一つの受精卵から分裂によって細胞数が増えるだけでなく,それらの細胞がそれぞれ特定の性質を持つように分化をする。このとき多くの場合,先んじて細胞集団内に境界が形成される。この境界形成という体作りにおける戦略は,一定の細胞集団を物理的に別々の細胞集団に区分するという意義に加えて,発生を促すシグナルの発信源になることもある。ゆえに境界形成は,複数の組織や器官がバランスよく配置され,それぞれがともに調和のとれた生理機能を発揮するのに欠かせない現象といえる。中枢神経系の発生においても,大きな区分けがなされたのちに,それらをもとに細かい神経ネットワークが形作られていく。中枢神経以外にも小腸の柔毛のパターンや,脊椎骨および肋骨の繰り返しパターンも細胞集団内に仕切りができることによってできあがっている。これらの器官はそれぞれ独特な形態を取っているため,それぞれ異なるメカニズムで形成されているように思えるが,実はEph-Ephrin(膜結合型レセプターとリガンド)という共通した分子を介したシグナルによって,形作られている。今回はこれらの現象を例にとって,様々な組織や器官の形成の道標となり得る境界形成の機構について論じたい。