特集 伝達物質と受容体
1.アミノ酸 興奮性
グリシン部位のコ・アゴニストとしてのD-セリン
著者:
井上蘭1
森寿1
所属機関:
1富山大学大学院医学薬学研究部分子神経科学講座
ページ範囲:P.352 - P.353
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[用いられた物質/研究対象となった受容体]
D-セリン,NMDA/NMDA受容体(グリシン部位)
N-methyl-D-aspartate(NMDA)型グルタミン酸受容体チャネルは,中枢神経系における興奮性シナプス伝達,シナプス可塑性,神経回路発達,神経細胞死などにおいて重要な役割を担う。NMDA型受容体(NMDAR)は,GluRε(NR2)とGluRζ1(NR1)サブユニットが組み合わさり非常に活性の高いイオンチャネルを形成するが,チャネルの十分な活性化には,GluRεにグルタミン酸が結合すると同時に,GluRζ1のグリシン結合部位にグリシンあるいはD-セリンが結合する必要がある。従って,グリシンやD-セリンはNMDARのコ・アゴニストと位置づけられている。グリシン部位への刺激は,NMDARチャネル活性化に必須であるとともに,NMDARのグルタミン酸結合能の上昇,脱感作現象の減弱,ならびに内在化の亢進を引き起こす。グリシン部位は,通常状態ではコ・アゴニストにより飽和されていないことが示唆されており,グリシンとD-セリンはNMDARの機能をダイナミックに制御している可能性がある。
生体を構成するタンパク質は,L体アミノ酸のみから形成されており,哺乳類にD体アミノ酸は存在しないと長い間考えられてきた。ところが,ラット脳にD-セリンが豊富に存在していることが橋本らにより1993年に報告され,脳内D-セリンの役割が注目された1)。