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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学60巻6号

2009年12月発行

雑誌目次

特集 ユビキチン化による生体機能の調節

SCFユビキチンリガーゼによる細胞周期S期開始制御機構―S期開始制御におけるSCFCdc4の基質は何か

著者: 岸努

ページ範囲:P.514 - P.520

 染色体上の遺伝情報を正確に維持するためには,細胞周期の進行は厳密に制御されなければならない。細胞周期の進行制御において中心的な働きをしているのは,サイクリン依存キナーゼ(Cdk)と呼ばれるリン酸化酵素である。Cdkは細胞周期の各時期に特異的に発現するサイクリンと複合体を形成して機能する。染色体の複製が行われるS期に入るためには,S期サイクリン-Cdk(S-Cdk)が活性化される必要がある。S-Cdkの活性化はS期サイクリンの発現と,S-Cdkインヒビター(CKI)の分解により制御される。CKIの分解はSCF(Skp1-Cullin/Cdc53-F-boxタンパク質)ユビキチンリガーゼ1-3)によるユビキチン化を介して行われる。これまでこのSCFによるCKIの分解はS期開始に必須な制御であると長い間,考えられてきた。

 しかし近年,S期開始の制御においてSCFによって分解されることが重要であるタンパク質がCKI以外にも存在すること,すなわちSCFに依存したユビキチン化・分解を介した未同定のS期開始制御機構が存在することが示唆されている。これは出芽酵母においてSCFCdc4(F-boxタンパク質としてCdc4を持つSCF)によるユビキチン化を受けずに安定化する安定化型Sic1(酵母のCKI)を発現する細胞は,S期開始に大きく遅延が見られるものの生育が可能であるというCrossのグループの研究に基づく4)

核小体の機能のユビキチンダイナミクスによる制御

著者: 駒田雅之 ,   遠藤彬則

ページ範囲:P.521 - P.526

 核小体は,真核細胞のリボソーム生合成の場として古くから知られた核内で最大のコンパートメントである(図1)1)。核小体はリボソームRNA(rRNA)遺伝子のクラスターを含む染色体領域(nucleolar organizer region)に形成し,fibrillar center(FC),dense fibrillar component(DFC),granular component(GC)の三つのサブコンパートメントからなる。rRNA遺伝子はFCに局在し,FCとDFCの境界でrRNA前駆体がRNAポリメラーゼⅠにより転写される。その後,DFとGCにおける多段階のrRNA前駆体プロセシング,rRNAとリボソームタンパク質の会合を経て60Sおよび40Sリボソームサブユニットが構築され,それらは核小体から運び出されて細胞質で成熟80Sリボソームを形成する。また近年,核小体が細胞周期やストレス応答など,他にも様々な細胞機能を制御していることが解明され,その多機能性も注目されている2)。筆者らは,核小体に局在する新規の脱ユビキチン化酵素を見出し,その分子機能を解析している3,4)。本稿では,この解析を通して明らかになってきたタンパク質のユビキチン化と脱ユビキチン化による核小体機能の制御機構について紹介する。

CDKインヒビターp21の分解による細胞周期の制御

著者: 塩見泰史 ,   西谷秀男 ,   釣本敏樹

ページ範囲:P.527 - P.532

 細胞周期は,CDK/サイクリン複合体による周期特異的な因子の活性化と不活性化,進行過程に必要な因子の合成と不要になった因子の速やかなユビキチン化による分解がバランスよく機能して安定に進行する。この過程でのユビキチン化は大きく分けて二つのユビキチンリガーゼ,SCF複合体とAPC/C複合体によって制御されている。SCF複合体はG1期からS期,またはG2期にかけて機能するサイクリンやCDKインヒビターなどの因子のユビキチン化を行い,APC/C複合体はM期サイクリンやセキュリンなどのM期進行過程で機能する因子を標的としてユビキチン化を行う。さらに,Cul4-DDB1からなる複合体が細胞周期進行に加えて,DNA損傷が起きた場合に周期進行関連因子のユビキチン化を行うことが明らかになってきた。CDKインヒビターはCDK/サイクリンの阻害因子として機能し,細胞の異常時に周期の停止,または過剰な増殖を抑制することで細胞のがん化を防ぐ重要な因子である。したがって,CDK/サイクリンと同様にCDKインヒビターもその発現と分解が正確に制御されなければならない。本稿では,CDKインヒビターの一つであるp21に着目して,その細胞周期やストレスに応答した役割と,分解制御において最近明らかになってきた多様なユビキチンリガーゼの関わりについて概説する。

ヒストンH2Aのユビキチン化による遺伝子発現の制御

著者: 遠藤充浩 ,   古関明彦

ページ範囲:P.533 - P.540

 真核生物では,全遺伝情報(ゲノム)を含んだ非常に長いDNAが,ヒストンと呼ばれるタンパク質に巻きついた構造(クロマチン)をとっており,それがさらに精巧に折りたたまれて小さな核内に収まっている。コアヒストンと呼ばれる4種のヒストン(H2A,H2B,H3,H4)はそれぞれ2分子集まったヒストン8量体を形成し,それに約146塩基対のDNAが約1.65回巻きついている。この構造はヌクレオソームと呼ばれ,クロマチン構造の最小単位である(図1)1)

 同一個体を形成する細胞ではDNA一次配列は基本的に均一である(一部の免疫細胞を除く)。それにもかかわらず,様々な形質・遺伝子発現様式を有する細胞が存在するのは,クロマチンへの後天的な修飾により遺伝子発現が制御されることに起因すると思われる。DNA配列の変化を伴わず,かつ細胞分裂を経て伝達される遺伝子発現の変化やその仕組みはエピジェネティクスと呼ばれており,具体的にはDNAやコアヒストンの化学修飾がその役割を担っていると考えられている。

Hedgehogシグナル伝達経路活性化によるユビキチン化を介したp53の分解亢進の意義

著者: 阿部芳憲 ,   田中信之

ページ範囲:P.541 - P.545

 Hedgehog(Hh)シグナル伝達経路は個体発生時の器官形成と,成体内にわずかに存在する幹細胞の維持に関わっている。その一方で,Hhシグナル伝達分子の遺伝子変異や発現量の変化によるHh経路の恒常的活性化が皮膚の基底細胞癌,肺癌,胃癌など,様々な癌の発症に関与していることが明らかになっていることから,新規抗癌剤開発の標的としても注目されている。

 われわれは,正常な細胞が癌化へと向かう分子メカニズムを解明する過程で,Hhシグナル伝達経路が活性化すると細胞増殖能が亢進すると同時に癌抑制因子p53のユビキチン化を介した分解が促進することを見出した1)。さらにわれわれの研究成果から,Hh経路異常による細胞の癌化機構だけでなく,p53遺伝子が正常な段階で細胞が癌化に向かう時,p53による排除機構をどのようにすり抜けるかにという問いに対し,新しい知見を提唱できたものと考えている。本稿では,われわれが見出したHh経路活性化によるp53抑制機構を紹介し,この機構のHh経路の恒常的活性化と細胞の癌化および個体発生における意義,および今後の展望について述べる。

脳の脱ユビキチン化酵素活性のユビキチン単量体と二量体による調節

著者: 和田圭司 ,   節家理恵子

ページ範囲:P.546 - P.550

 脱ユビキチン化酵素(DUB:deubiquitinating enzyme)は,ユビキチンプロ蛋白質(proprotein)あるいはユビキチン化された蛋白質からユビキチンを切り出す酵素群の総称である。DUBはエネルギー依存的蛋白分解系であるユビキチン-プロテオソーム系の主要構成メンバーの一つとして位置づけられ,ヒトゲノム上約100種が存在する1-3)。これらは5種のファミリーに大別され,そのうち4種はシステインプロテアーゼであり,UCH(ubiquitin C-terminal hydrolase),UBP/USP(ubiquitin specific protease),OTU(ovarian tumor domain),MJD(ataxin3/Joseph domain)ファミリーから構成される1-3)。残る1種はJAMM(JAB1/MPN/Mov34 metalloenzyme domain zinc-dependent metalloprotease)ファミリーとして知られている1-3)

 われわれはこれらDUBのなかでUCHファミリーについて研究を行っており,今回UCHの内在性活性制御因子としてユビキチン単量体(モノユビキチン)とユビキチン二量体を見出したので概説する。なお,ユビキチン二量体についてはジユビキチンという表現もされるが,ubiquitinと無関係の遺伝子でdiubiquitin(別名ubiquitin DあるいはFAT10)と命名された遺伝子が存在するので混乱を避けるため本項では二量体という表記に統一する。

ヒトT細胞白血病ウイルス1型とユビキチン化

著者: 松岡雅雄

ページ範囲:P.551 - P.555

 ウイルスは極めて小さなゲノムしか有していないが,宿主細胞に感染して自身の複製・生存を図っている。従って,一つのウイルスタンパク質が様々な活性を有し細胞機能に影響を与えていることは理にかなっている。ウイルスは宿主細胞の装置・機構を巧みに使って複製する。転写経路,翻訳,輸送など様々な細胞の機構を利用するが,ユビキチン-プロテアソーム系も,その一つである。本稿ではユビキチン-プロテアソーム系を介したウイルスタンパク質による細胞機能修飾に関して概説し,最近,われわれが見出したヒトT細胞白血病ウイルス1型がコードするHTLV-1 bZIP factorによる作用に関して述べる。

転写因子AhRはユビキチンリガーゼ複合体の基質認識サブユニットとして機能する

著者: 大竹史明 ,   藤井義明 ,   加藤茂明

ページ範囲:P.556 - P.562

 タンパク質分解は多彩な生体機能制御を担っており,その重要性が近年次々に明らかとなっている。ユビキチン-プロテアソーム系は主要なタンパク質分解経路の一つであり,ユビキチンE3リガーゼによる選択的な基質認識を特色としている。しかしながら,細胞内外からのシグナルに応じてユビキチンリガーゼによる基質認識能が制御される機構は不明な点が残されている。

 性ステロイドホルモン・脂溶性ビタミンや環境有害物質などを含む脂溶性低分子リガンドは,多彩な生理作用あるいは薬理・毒性作用を発揮する。脂溶性リガンドの作用の多くは各々特異的なリガンド依存性転写因子を介して発揮されると考えられている。これら転写因子には核内受容体であるエストロゲン受容体(ER)やbHLH/PASファミリーのダイオキシン受容体(Arylhydrocarbon Receptor:AhR)などが含まれ,特異的DNA配列に結合することによって標的遺伝子選択的な発現制御を行うことが知られている1)。近年,転写因子がユビキチン-プロテアソーム系における構成因子としてタンパク質分解に関与する事例が明らかになりつつある2)。本稿では,リガンド依存性転写因子であるAhRがユビキチンリガーゼとして機能するという筆者らの解析結果を含め3),転写制御因子がユビキチンリガーゼの特異性を制御する事例を紹介し,リガンド依存性転写制御系とタンパク分解制御系との相互連関機構の一端について概説する。

造血幹細胞の維持へのユビキチン-プロテオソーム系の関与

著者: 瀧原義宏

ページ範囲:P.563 - P.569

 トロント大学オンタリオ癌研究所におけるMcCullochらによるCFU-Sの発見を基に,機能的側面から造血幹細胞の概念が確立されてきた1)。造血幹細胞は,自己複製能とともに十数種の成熟血球細胞を生み出すことのできる多分化能を合わせ持った細胞と定義され,移植することによって造血組織を再構築し,長期に亘って全ての成熟血球成分を生み出すことができる。そして,多分に概念的かつ仮想的な造血幹細胞の存在を基にヒトに対して造血幹細胞移植が実施され始め,早くも50年以上が経過したが,輝かしい臨床成果を挙げている。

 近年,細胞ソーティング技術の発展に伴って,一つの造血幹細胞からも造血の再構築が可能であることが示され,その存在が機能的側面のみならず,実体を伴った細胞として同定可能となってきた。造血幹細胞は幹細胞研究の中でもっとも古い歴史を有する幹細胞の一つであり,再生医療のプロトタイプともいえる造血幹細胞移植療法は医療としてすでに確立している現状である。相次ぐ各種造血サイトカインの同定とそのシグナル伝達機構の解明によって,造血を支持する分子基盤の理解に関しては画期的な進歩が成し遂げられてきた。しかし,造血幹細胞の同定方法が最近までretrospectiveなアッセイ系に依存せざるを得なかったことや,造血細胞中における造血幹細胞の頻度が低くex vivoで安定に増幅することができないこと等々の理由によって,造血幹細胞の活性がどのような分子基盤によって支持されているのかについては限られた知見しか得られていなかった。

コレステロール恒常性の転写調節と翻訳後調節

著者: 植田和光

ページ範囲:P.570 - P.578

 コレステロールはホルモンや胆汁酸の前駆体として動物にとって必要な化合物だが,何より膜の構成成分として必須であり,増殖サイクルには細胞内に充分量のコレステロールが存在することを確認するためのコレステロールチェックポイントがあるといわれている。しかし,コレステロールの過剰蓄積は細胞にとって有害であり,アポトーシスを引き起こす。つまり,細胞が生きていくためには,膜中のコレステロールは多すぎても,少なすぎても駄目で,濃度がある範囲内に厳密に保たれる必要がある。コレステロールは非常に安定な多環式化合物であり,肝臓や副腎以外ではほとんど異化されない。従来,細胞内コレステロール濃度は,1)合成と2)細胞内への取り込みによって調節されていると考えられてきた。

 しかし,1999年に血中の高密度リポタンパク質/脂質複合体(HDL)がほとんど消失する遺伝病であるタンジール病の原因遺伝子としてABCA1が同定され,ABCA1が薬剤排出トランスポーターMDR1と同じABCタンパク質ファミリーに属することが明らかになった1-3)。HDL形成は末梢細胞から余剰のコレステロールを取り除く唯一の経路であり,細胞内のコレステロール恒常性にとって1)合成,2)取り込みと同程度に,3)細胞外への排出が重要であると考えられるようになった。1)合成,2)取り込み,3)排出の各段階は個別に調節されているだけでなく,それら各段階がクロストークすることによって細胞内コレステロール濃度を絶妙に調節している。ユビキチン化によるタンパク質分解もコレステロール恒常性維持の重要なメカニズムの一つと位置付けられる。

 本稿では,まずコレステロールの1)合成,2)取り込み段階での転写調節と翻訳後調節,およびそれらにおけるユビキチン化の重要性を簡単にまとめる。次に,3)余剰コレステロールの細胞外への排出の鍵を握るABCA1の作用メカニズムをわれわれの研究に基づいて説明し,ABCA1の分解調節について述べる。

神経変性疾患における異常タンパク質の凝集と除去に関与するVCP

著者: 垣塚彰

ページ範囲:P.579 - P.584

 神経変性疾患は疾患ごとに特有の障害部位を有し,障害を受けた領域が担う脳・神経機能が失われる。その結果,疾患ごとに特有の症状(認知症・運動失調・異常運動・筋力低下など)が現れる。症状があまりにも多岐にわたるため,多くの疾患に当てはまる統一的な発症機構は,これまで想定されることはなかった。しかし,いろいろな疾患を注意深く観察するといくつかの共通点が存在することに気が付く。例えば,1)発症が中年以降に起こり進行性であること,2)障害部位は異なるにせよ病理像として共通に神経細胞の変性と脱落(消失・死)を示すこと,3)そして優性遺伝形式をとる疾患が極めて多いことを挙げることができる。さらにハンチントン病などいくつかの遺伝性疾患では,この三つの特徴に加えて,4)世代を経るごとに症状が重篤になり,しかも発症年齢が早くなることが観察され「表現促進現象」と呼ばれていた1)

 近年,マシャド・ジョセフ病やハンチントン病など,九つの遺伝性神経変性疾患の原因遺伝子から作り出される伸長したポリグルタミンが神経変性を引き起こすことが判明し,ポリグルタミン病と総称されるようになってきた1,2)。これらの原因遺伝子は全く異なった遺伝子であったが,患者では原因遺伝子内のポリグルタミンをコードするCAGの繰り返し(リピート)数が健常人に比べ異常に多いこと,また,CAGリピートの数が長くなるほど発症が早くなり,症状が重くなることが明らかになった。さらに,次の世代に少しだけリピート数が長くなって伝わりやすいことが判明し,表現促進現象の実体が解明された。さらに,他の遺伝性神経変性疾患(アルツハイマー病・プリオン病・パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症など)においても,原因遺伝子から作られる異常なタンパク質が細胞内外で凝集・蓄積することによって神経細胞が変性に陥り,脳から脱落していくと考えられるようになってきた1)。本稿では,異常タンパク質の蓄積と神経変性の双方に関わる因子としてVCPをとりあげ,VCPの神経変性疾患の発症における役割に関して最近の知見を紹介する。

F-boxタンパク質による細胞周期制御と発癌

著者: 武石昭一郎 ,   中山敬一

ページ範囲:P.585 - P.592

 細胞周期はサイクリン依存性キナーゼ(cyclin-dependent kinase:CDK)の周期的な活性化により進行するが,このCDKの活性はその制御サブユニットであるサイクリンやサイクリン-CDK複合体に結合してその活性を阻害するCDK阻害タンパク質(CDK inhibitor:CKI)などの量的調節によってコントロールされている。これら細胞周期を調節する因子の量的調節機構は,その多くがユビキチン化依存性タンパク質分解によって行われている1)。特にSkp1-Cul1-F-box-protein(SCF)複合体とanaphase-promoting complex/cyclosome(APC/C)という二つのユビキチンリガーゼ複合体は,多くの細胞周期制御因子のユビキチン化を担っている。このタンパク質分解システムの破綻は,制御不能の細胞増殖やゲノム不安定性を引き起こし,最終的に発癌に至ると考えられている。実際に多くの臨床知見から,細胞周期制御因子のユビキチン化の異常と発癌との関連性が示されている。つまり,このユビキチン化の分子機構を理解することが,細胞周期制御メカニズムの解明や抗癌剤の開発にとって必須であることは疑いない。

 本稿では誌面の都合上,細胞周期に関わる三つのSCF複合体型ユビキチンリガーゼを取り上げるが,それ以外のユビキチンリガーゼと発癌の関係に関しては,別の総説を参照いただきたい2)

Lys63結合型ポリユビキチン鎖の選択的切断メカニズム

著者: 佐藤裕介 ,   深井周也

ページ範囲:P.593 - P.598

 脱ユビキチン化酵素AMSHとAMSH-like protein(AMSH-LP)は,Lys63結合型ポリユビキチン鎖を選択的に切断することにより,ポリユビキチン鎖修飾を受けた受容体の分解を制御し,リサイクリングを促す。本稿では,結晶構造解析の手法と立体構造に基づいた変異体による速度論的解析を用いて,AMSH-LPによるLys63結合型ポリユビキチン鎖選択的な切断機構を明らかにしたわれわれの最近の研究成果を概説する。

連載講座 中枢神経系におけるモジュレーション・15

中枢内高張食塩水負荷に対する自律神経・神経内分泌系の適応反応―内因性バゾプレッシンによる修飾

著者: 河南洋 ,   加藤和男

ページ範囲:P.599 - P.604

 体液(水・電解質)の恒常性維持は主に水・電解質の体外からの摂取と腎臓からの排泄のバランスによって行われている。その際の制御パラメーターは浸透圧と循環血液量であり,これらの値はほぼ設定値(セットポイント)に維持されている。たとえば数日にわたり絶水状態が続くと体液の浸透圧は高まり,循環血液量は減少する。そこで水分を摂取し,尿量を減じることにより,体内に水分を保持し,体液の浸透圧の低下と循環血液量の回復がもたらされる。この調節機構には,調節性行動としての飲水・食塩摂取行動とともに自律神経・内分泌系を介する腎臓の排泄機能の調節が関わっている。生体はこれら複数の調節機構を統合・協調して駆動し,内部環境の恒常性を維持している。

 近年,嗜好や習慣またストレスなどに起因して,食・飲生活の乱れが問題視され,特に生活習慣病の危険因子として警告されている。中でも食塩(NaCl)の過剰摂取は食塩感受性高血圧を誘起する。しかし生体には元来,過剰摂取の食塩をうまく処理し,浸透圧やNa濃度を一定に保つ機構が備わっている。この適応機能の発現には視床下部の室傍核(PVN)と視索上核(SON)が関わっている(図1A)。両部位にある神経分泌ニューロンは下垂体後葉に投射し,バゾプレッシン(AVP)とオキシトシン(OT)を活動電位依存的に体循環に分泌する。さらに,PVNのニューロンの一部は脳幹や脊髄の自律神経節前ニューロンと直接線維連絡を持ち,自律神経系出力を調節している。

 本稿では,中枢内へ高張食塩水(H-NaCl)を負荷することによって中枢性浸透圧受容器あるいはNa受容器を直接刺激した際,自律神経・内分泌系の統合部位である視床下部室傍核(PVN)の大細胞・小細胞ニューロン活動が内因性バゾプレッシン系を介していかに修飾されるかについて,われわれの研究成果を基に解説する。図1BはこのPVNへの主な入力系,核内の亜核,ならびに出力系の概要を示す。

解説

脂質代謝調節の中心的役割を担う転写因子SREBPs

著者: 佐藤隆一郎

ページ範囲:P.605 - P.610

 SREBP(sterol regulatory element-binding protein)はLDL受容体遺伝子発現を制御する因子として精製,クローニングされた転写因子であり,bHLH-Zip(basic helix-loop-helix leucine zipper)構造を持つ。クローニングの結果,二つの異なる遺伝子にコードされるSREBP-1とSREBP-2が同定され,互いに47%のアミノ酸相同性を保持している1,2)。当初,LDL受容体遺伝子発現制御のためにどうして2種類の転写因子が必要なのか不明であったが,その後の研究からSREBP-1は主として脂肪酸代謝,SREBP-2はコレステロール代謝を制御する役割分担を持つことが明らかにされている。しかし,構造の酷似した2種類の転写因子は重複した役割も担っており,それぞれの制御機構の詳細については不明な点もまだ残っている。ここ10年間の研究により,脂質代謝制御にはSREBPのみならず複数の核内受容体が深く関与することが明らかにされている。さらに,それら核内受容体とSREBPは複雑なクロストークを行いつつ,重層的な代謝制御を執り行っている。そのような状況の中,制御機構の中心にはやはりSREBPが位置しており,その詳細な機能解析は脂質代謝のみならずエネルギー代謝などを理解する上でも最重要課題として残っている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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