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特集 脳科学のモデル実験動物
記憶学習の精緻な理解に向けてのモデル動物:ハエ
著者: 上野耕平1 齊藤実1
所属機関: 1東京都神経科学総合研究所 神経機能分子治療部門
ページ範囲:P.17 - P.23
文献購入ページに移動 新たな餌や配偶者を求めて動き回る動物にとって,環境への速やかな適応は欠かせない能力である。それを支えるのが脳神経細胞による記憶である。記憶には様々な型が存在するが,比較的単純な記憶の一つに連合学習による記憶がある。特定の反応を引き出す非条件刺激(unconditioned stimulus:US)と,そのような反応を引き起こさない条件刺激(conditioned stimulus:CS)を同時に動物に呈示すると,次第にUSによって引き起こされる反応がCSのみでも引き起こされるようになる。これがパブロフによって示された古典的条件付けによる連合学習である。パブロフの犬であれば,餌がUS,唾液の分泌が特定の反応であり,ベルの音がCSである。一度CSのみによって引き起こされるようになった反応は,時間が経過しても失われずに保持される。すなわち記憶される。
体長わずか数ミリのショウジョウバエ(Drosophila melanogaster )も連合学習ができることが30年以上前にQuinnらによって初めて示された。彼らは,USとして電気ショック,特定の反応としては忌避行動を,そしてCSとして匂いを用いた。ある匂いと共に電気ショックを与えると,その匂いを忌避するようになるのである1)。匂い条件付け連合学習を用いたショウジョウバエの研究によって,数多くの記憶変異体が同定され,それらの記憶能力を詳細に比較することで,小さなハエの脳が持つ哺乳類に劣らぬ複雑な記憶機構が明らかにされてきた。
体長わずか数ミリのショウジョウバエ(
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