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特集 脳科学のモデル実験動物
道具的学習と行動制御のためのモデル実験動物
著者: 小林和人1 深堀良二1 甲斐信行1 岡田佳奈1 小林とも子1
所属機関: 1福島県立医科大学 医学部附属生体情報伝達研究所 生体機能研究部門
ページ範囲:P.47 - P.52
文献購入ページに移動動物の行動は学習や経験に依存して環境に適合するために変化する。道具的学習(オペラント学習)は行動の結果得られる強化因子(報酬など)が動物の行動に影響を与える学習の様式であり,反応が強化因子を得るための手段(すなわち道具)になっているという意味から,このように表現される。道具的学習は意思決定,行動選択などの多くの随意的な行動の基盤であると考えられている。この学習のプロセスでは,刺激-結果,反応-結果,刺激-反応の3種類の連合が形成されるというモデルが提唱されている1)(図1)。刺激と結果の連合は古典的条件付けにより形成され,この過程には反応の有無は関与しない。動物は反応と結果の随伴性を学ぶことによって,刺激と反応の連合を獲得し,目標達成型の学習行動が形成される。さらに,訓練を繰り返すことによって,刺激-反応の連合が強まり,報酬を与えない場合でも行動が誘導される刺激-反応学習(習慣学習)の形成に至る。目標達成型と習慣型の学習は,報酬の消去に対する応答によって区別され,前者は報酬の消去によって減弱するが,後者は報酬の消去によっても変化なく維持される2)。
従来の損傷および薬理学的な研究から,道具的学習の獲得と実行にはさまざまな脳領域が関与することが示されてきた1,3)(図2)。特に,反応と結果の連合学習には,腹側線条体(側坐核)と連関する神経回路が重要な役割を持ち,この回路の異常は薬物依存とも深い関係を持つ4,5)。目標達成型行動には,前頭前野皮質や海馬から腹側線条体へ入力する回路6,7)や前頭前野皮質と背側線条体内側部を連関する回路が関与する8,9)。習慣学習には背側線条体の外側部と運動野や感覚運動野皮質と連関する回路が関与する8,9)。最近の研究により,目標達成型行動から習慣学習への遷移は,中脳腹側部と背側・腹側線条体を相互に結ぶスパイラル構造によって媒介される可能性が示唆されている10)。
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