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特集 糖鎖のかかわる病気:発症機構,診断,治療に向けて
文献概要
上皮-間葉転換(epithelial-mesenchymal transition:EMT)とは,一定の極性を持って基底膜上に規則正しく配列した上皮系の細胞がその細胞極性を失い,間葉系細胞に変化することを指す1)。EMTは1980年代初めにElizabeth Hayらによって提唱された現象であり,個体発生において重要な役割を担っている。これまでに,初期胚発生における原腸陥入,神経冠細胞(neural crest cells)の発生,心臓,腎臓,口蓋などの器官形成過程におけるEMTの役割が明らかとなっている2)。また,生体のホメオスタシス維持において,分化した正常上皮細胞が炎症や外傷などの際にトランスフォーミング成長因子(TGF-β)などの刺激で容易にEMTを惹起することも知られている3)。一方,近年,上皮がん細胞の浸潤・転移能の獲得機構にEMTの関与が知られている4)。がん細胞は腫瘍の悪性化に伴ってその発生初期に明確な細胞極性を失い,上皮から間質への局所浸潤・増殖,さらに血行性あるいはリンパ性転移を経て遠隔転移という過程をたどる。すなわち,がん細胞のEMTを理解することはがんの浸潤・転移機構をより理解できるようになり,また,その制御因子の解明は抗がん剤の開発に役に立つことが期待される。本稿では,N -結合型糖鎖による細胞接着分子であるインテグリンの機能制御,およびがん転移やEMTへの関わりについて最新知見を交えて筆者らの研究を紹介する。
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