特集 糖鎖のかかわる病気:発症機構,診断,治療に向けて
糖鎖と炎症性腸疾患
著者:
新崎信一郎12
飯島英樹12
三善英知12
所属機関:
1大阪大学大学院 医学系研究科 機能診断科学
2大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学
ページ範囲:P.122 - P.127
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炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は,慢性・再発性に腸管での発症を引き起こす原因不明の難治性疾患である。小腸・大腸を中心に全層性の炎症性変化を呈するクローン病(Crohn's disease:CD)と,主に大腸の表層粘膜を中心とした炎症像を認める潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)とに大別され,いずれも厚生労働省の特定疾患に指定されている。IBDの原因は不明であるが,遺伝的背景1)や免疫学的異常2),食事抗原の影響などが複合して発症に関与すると考えられている。患者数は増加の一途を辿っており,また10~20代での発症が多いため,患者のQOLを長期的に損なうと同時に,社会的損失の大きい疾患である。近年の生物学的製剤の進歩により,抗TNF-α製剤であるインフリキシマブが誕生したことをきっかけに,特にクローン病において今世紀に入り治療のブレイクスルーが起こったが,無効例や再燃例も多く,IBDの自然史を変えたとはいいがたい。その病因を明らかにすること,そしてより有用な診断・治療法を開発することが喫緊の課題である。
一方,近年の糖鎖解析技術の進歩により,糖鎖構造の変化がさまざまな疾患の病態生理に重要な役割を果たしていることが明らかにされてきている。本稿では,IBDをはじめとした慢性炎症性疾患における糖鎖の果たす役割を,特にわれわれが近年検討を行っている,IBDとIgG糖鎖変化に関する研究成果を中心に概説する。なお,IBDには広義には腸管ベーチェット病や腸結核などを含むこともあるが,本稿では狭義のIBDであるクローン病と潰瘍性大腸炎を対象とする。