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特集 SNARE複合体-膜融合の機構
タンデムC2ドメイン蛋白質による糖輸送とインスリン分泌の調節機構
著者: 江本政広1 福田尚文1 宮崎睦子1 谷澤幸生1
所属機関: 1山口大学大学院 医学系研究科 病態制御内科学
ページ範囲:P.227 - P.232
文献購入ページに移動インスリンは膵臓から分泌されるペプチドホルモンで,血液中のブドウ糖(グルコース)濃度を低下させる作用を持つ。このホルモンの作用が慢性的に不足すると糖尿病を発症することから,糖恒常性維持の要と考えられる。インスリンの作用はその受容体を介して発現する。受容体を発現している主な臓器は筋肉・脂肪・肝臓であり,インスリン標的臓器といわれる。特に筋肉・脂肪組織では,インスリンの刺激により細胞外のブドウ糖を細胞内に取り込み,エネルギー源として利用し,あるいはグリコーゲンや中性脂肪へ変換して貯蔵している。取り込まれるブドウ糖は水溶性分子であるから,脂質の二重膜を通過するためには,糖を細胞内に輸送する仕組みが必要である。これが糖輸送担体GLUT4(glucose transporter4)であり,前述のインスリン標的臓器の内,筋肉と脂肪組織に多数発現している1)。
この輸送担体の分子構造は,αへリックス構造からなる膜貫通領域を12個持ち,それらが同心円状に2列に並び,中心にブドウ糖を通す間隙(ポア)が位置する(図1A)。GLUT4の細胞内局在を詳細に調べると,直径およそ100nmの小胞膜上に存在し(GLUT4小胞),細胞核周囲のmicrotubule organizing center近傍に多数存在する(定常状態)。インスリン刺激を受けると,GLUT4小胞は約7~10分かけて細胞膜まで到達(トランスロケーション)し,小胞膜と細胞膜とが融合を起こし,細胞膜面に表出する。GLUT4は細胞膜面に表出して,はじめて糖を細胞内に取り込むことができる。インスリン刺激がなくなると,再び小胞膜上に取り込まれ,リサイクリングエンドゾームや貯蔵エンドゾームとして細胞内に繋留される。このように,細胞内小胞と細胞膜間をリサイクルする動的平衡状態が形成されているが,インスリンはGLUT4小胞輸送を外向きに増加させ,ブドウ糖を細胞内に取り込み,血液中の糖濃度を下降させている(図1B)。ヒトにおけるインスリン作用の律速段階は,このGLUT4による糖輸送のステップであり,その調節機構の解明は臨床的にも重要なテーマである。
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