特集 SNARE複合体-膜融合の機構
トモシンによるSNARE複合体の制御機構
著者:
山本泰憲1
匂坂敏朗1
所属機関:
1神戸大学大学院 医学研究科 生理学・細胞生物学講座 膜動態学分野
ページ範囲:P.233 - P.241
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神経細胞が次の神経細胞に情報を伝えるシナプス伝達の主たる過程は,神経伝達物質の放出により行われている。従って,神経伝達物質の放出の過程を解明していくことは,シナプスの可塑性ひいては記憶形成の過程を理解する上で重要である。神経伝達物質は,シナプス小胞が普遍的膜融合装置を構成するSNARE複合体の働きによりシナプス前膜へ融合することで放出される。シナプス前膜のアクティブゾーンには非常に多数のシナプス小胞が存在するが,神経線維を伝わってきた活動電位によるCa2+の流入に応答して,神経伝達物質を放出するのは極くわずかな数のシナプス小胞である。一方,Ca2+の流入に応答したシナプス小胞はサブミリ秒単位という非常に速い速度でシナプス前膜に融合する。このことは,大部分のシナプス小胞ではSNARE複合体の働きが抑制されている一方,シナプス小胞の融合時にはSNARE複合体の働きが増強されることを示している。しかしながらその分子機構は不明な点が多い。
われわれはSNARE制御分子トモシンに着目し,神経伝達物質の放出過程におけるSNARE複合体の制御機構の解明に取り組んできた。これまでにわれわれは,トモシンがSNARE複合体形成を調節することで,神経伝達に抑制的に働いていることを明らかにしている。本稿ではそれらの結果を中心に,トモシンによるSNARE複合体の形成制御機構について解説する。