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文献詳細

雑誌文献

生体の科学61巻3号

2010年06月発行

文献概要

特集 SNARE複合体-膜融合の機構

植物のSNARE複合体と膜融合

著者: 上田貴志1

所属機関: 1東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻

ページ範囲:P.269 - P.275

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 本誌「生体の科学」の読者には,基礎医学研究に従事される方が多いと伺った。そのような場でせっかく植物の話題を提供する機会を与えて頂いたのであるから,ここでは植物にユニークなSNAREの機能についてご紹介できればと思う。膜融合の実行因子であるSNARE分子は,これまでにゲノムの解読がなされた全ての真核生物に保存された非常に普遍的な分子装置であり,その膜融合の実行因子としての機能も高度に保存されている。一方で,前節までで述べられてきた通り,動物においてSNAREは,非常に多様な生命現象に関わっていることが明らかとなっている。シナプスや内分泌系におけるSNAREの機能は,動物が長い進化の歴史の中で新たに編み出し,洗練させてきた,その結果の産物である。

 しかしながら植物には,シナプスもなければ動物のような内分泌系も存在しない。SNAREの活躍の場が,動物と比較し限られているのではないだろうか。心配はご無用である。はるかなる昔,動物との共通祖先から分かれ独自の進化の道のりを歩み始めて以来,その体制やライフスタイルに合わせて,植物もSNAREの機能を改変し続け,洗練を重ねてきた。その全貌を知るところまでには未だほど遠いものの,真核生物に共通する膜融合装置を使い,植物がいかにしたたかに,かつあざやかに生きているのかが,近年になって次々と明らかにされている。われわれが草むらで何気なく踏みつけてしまう植物。踏みしだかれた植物が,再び天に向かい成長してくる,まさにそこで,SNAREは八面六臂の活躍を繰り広げているのである。SNAREや膜融合といった,動物と共通するキーワードから植物を眺めることにより,植物をより身近に感じて頂くことができるのではないであろうか。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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