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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学61巻6号

2010年12月発行

雑誌目次

特集 細胞死か腫瘍化かの選択

KLF4-腫瘍化の促進と抑制の二つの機能

著者: 赤荻健介 ,   仲島由佳 ,   山口智絵 ,   柳澤純

ページ範囲:P.556 - P.559

 KLF4はジンクフィンガー(zinc finger)ドメインを持つ転写因子であり,腸管や皮膚をはじめとする生体内の様々な組織で発現し,増殖,分化,ホメオスタシスの維持,アポトーシスといった数多くの生命現象に関与することが知られている。興味深いことに,癌においては発現する組織,または細胞の状態により癌遺伝子と癌抑制遺伝子両方の報告が存在する。近年,これらの腫瘍化に対する二面性を説明する研究がいくつか報告されている。本稿ではKLF4の機能を概説し,癌に対する二面性を過去の様々な報告をもとに論じていきたい。

PHLDA3は新規Akt抑制因子であり癌化を抑制する因子である

著者: 大木理恵子 ,   川瀬竜也

ページ範囲:P.560 - P.567

 日本人の死因第1位は「癌」であり,癌の克服を目指した研究は大きな社会貢献につながる。ここ数十年の分子生物学やゲノム解析の進展を足場に,癌化のメカニズムの解明を目指した癌関連遺伝子(癌抑制遺伝子,癌遺伝子)の研究は大きく進み,多くの重要な遺伝子が明らかにされてきた。しかしながら,肺癌や乳癌のように研究の比較的進んでいるものでさえ,これまでに明らかにされた遺伝子異常で説明できるのは一部にとどまっており,大部分のものについては未解決のままである。ゆえに,これからも地道な癌化のメカニズム解明のための研究が必要とされるといえるであろう。われわれは,癌抑制遺伝子p53の転写因子としての機能を明らかにすることで,癌化メカニズムのさらなる解明が可能になると考え,研究を進めてきた。

癌におけるアポトーシス抑制因子survivin発現の役割とその制御

著者: 黄政龍 ,   劉大革 ,   横見瀬裕保

ページ範囲:P.568 - P.572

 癌の克復は現代医療における重要な命題である。しかしながら未だその目的が十分達成できたとはいえない。その原因として,癌が単一の病気ではなく,多彩な生物学的悪性度をもっていることが考えられる。癌細胞がもつ悪性の生物学的動態として,細胞増殖能の亢進,アポトーシスの抑制,血管新生の亢進,浸潤能と転移能,薬剤耐性の獲得などがあげられる。近年の分子生物学的癌研究の進歩により,遺伝子・蛋白・糖鎖を含む多くの分子が,癌細胞の多彩な機能に複雑に関与していることが判明してきた。これからはこの分子生物学的癌研究を通じて,臨床現場において役立つ癌治療の開発が重要と考えられる。その中で,survivinは腫瘍増殖能やアポトーシス,薬剤耐性などに広く関わる分子であることが明らかとなってきた1)。そこで,このsurvivinの機能と癌における発現異常,さらにはsurvivinをターゲットにした癌治療への展望などについて,これまでのわれわれの非小細胞肺癌における研究成果を含めて述べる。

細胞の生死に関わるmicroRNA

著者: 赤尾幸博 ,   直江知樹

ページ範囲:P.573 - P.578

 2003年にヒトゲノム計画が完了し,ヒトの遺伝子の数が約20000-25000とショウジョウバエと大差がなく,極めて少ないことが判明した1)。したがって,ヒトが有する思考能力や感情といった高度な脳機能はもはや単純に遺伝子の多寡では説明できなくなった。一方,蛋白質の設計図である遺伝子以外の非コード領域(non-protein-coding領域)にその秘密が隠されていることが明らかになってきた。つまり,ヒトでは蛋白をコードする領域であるexonがゲノムのわずか1.2%程度であるのに対してnon-protein-coding領域はゲノムの約98%にも及ぶ。この領域は生物が進化するにつれ増加しており,この領域から大量の転写産物(poly A+RNA)が見つかった。そして,この領域から転写されるRNAは蛋白をコードしないRNA,non-protein-coding RNA(ncRNA)と名付けられた。その中で多くは21-25ヌクレオチドのマイクロRNA(microRNA)であった。現在,ヒトがもつ高度な生命現象や機能はむしろ,このmicroRNAが担っているのではないかと考えられている。

 microRNA(miRNA)はヒトやショウジョウバエのみならず,植物や線虫など広く生物界に存在する。miRNAはゲノムより蛋白をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)と同様,RNAポリメラーゼⅡによって転写される。その後,この一次miRNAは核内のDroshaにより前駆体miRNAとなり細胞質に移送される。その後,DicerといったRNase Ⅲ酵素によりプロセシングを受け成熟型miRNAになり,ついには1本鎖アンチセンスがガイド鎖miRNAとなってRNA-induced silencing complex(RISC)という蛋白複合体と結合し,標的となるmRNAの3’非翻訳領域に相補性をもって結合する(図1)。miRNAは標的となるmRNAの翻訳を抑制し,遺伝子の発現量を調節していることがわかってきた。このRNA干渉効果はmiRNAと標的となるmRNAの相補性の一致率に依存し,相補性が高いほどより強く翻訳を抑制するとされている。

非アポトーシス型細胞死

著者: 辻本賀英

ページ範囲:P.579 - P.584

 細胞死研究は,1990年前後に,アポトーシス抑制因子Bcl-2の発見やアポトーシスシグナルを伝える受容体Fas,線虫のcaspaseであるCed3の発見を契機に,分子レベルでの解析が爆発的に進み,現在成熟期に入りつつある。しかし,いくつかの非アポトーシス型の細胞死機構の存在も報告され始めており,その詳細は未だ不明であるが,解析が進行しつつある。

 がん研究分野に目を移してみると,アポトーシスが「がん研究」分野において重要な課題となって久しいが,この発端はアポトーシス抑制機能を持つBcl-2がん遺伝子の発見である。この発見は,それまで細胞増殖を中心に進んできたがん研究分野に大きなインパクトを与え,発がん過程をアポトーシス抑制という観点から解析することの重要性を提起した。また,アポトーシス(細胞死)はがんの治療の観点からも重要なテーマであり,がん細胞にアポトーシスを誘導する方策が一つの重要ながん治療戦略になっている。しかし,がん治療に利用する細胞死はアポトーシスに限定される必然性はなく,細胞に他の機構が備わっているのであれば,それらを活性化することも重要なアプローチとなるであろう。実際に,効果を示す抗がん剤が,がん組織で主にアポトーシスを誘導しているかどうかは定かでない。

Pimキナーゼによる細胞増殖の促進とアポトーシスの抑制

著者: 藤田直也

ページ範囲:P.585 - P.589

 発生過程や正常組織において,細胞の生存と死(アポトーシス)は厳密に制御されており,このような生存と死のバランスが生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。細胞の生存と死は,細胞に備わっている細胞増殖・細胞生存シグナルと細胞死シグナルのバランスにより決定されている。がんなどの疾病における細胞の異常増殖・不死化の際には,細胞増殖・細胞生存シグナルの異常な活性化が起きている場合が多い。Pim遺伝子は,モロニーマウス白血病ウイルス感染によってもたらされるT細胞リンパ腫において活性化される原がん遺伝子として同定された。Pimキナーゼはサイトカインレセプターなどの下流に位置し,多くのがんで発現増加・活性亢進が起きている。Pim経路は,細胞増殖・細胞生存シグナルを伝達することで有名なPI3K-Akt経路と同様な基質をリン酸化し下流へとシグナルを伝達することから,Pimキナーゼを標的にした薬剤は抗がん剤として臨床応用できる可能性が高いと考えられ,その創薬標的としても注目が集まっている。

RASドメイン含有タンパクRASSF2による腫瘍化抑制機構

著者: 豊田実 ,   丸山玲緒 ,   時野隆至

ページ範囲:P.590 - P.593

 Rasはヒト腫瘍において最も高頻度に活性化している癌遺伝子であり,細胞増殖や細胞形質転換などに関与するシグナルを制御する。一方で,正常細胞で恒常的なRasの活性化を起こすと,細胞は細胞老化やアポトーシスを起こし,Rasが細胞増殖を正にも負にも制御することが示唆される。Rasにはその機能を制御する様々なエフェクター分子が存在する(図1)。BRAFやPIK3CAなどのエフェクター分子はしばしば癌において点突然変異により活性化されている1,2)。RASの負のエフェクターとして,RASSFファミリー遺伝子が存在する。RASSF1は肺癌において高率に欠失している染色体3番短腕p21領域に存在する癌抑制遺伝子として同定された3)。RASSF1は腫瘍増殖を抑制する働きがあるだけでなく,様々な癌においてプロモーター領域の異常メチル化により不活化されている。本稿では,RASSFファミリー遺伝子,特にRASSF2について,癌における不活化の意義や腫瘍抑制の分子機構について概説する。

WT1遺伝子-その機能と癌の発生・進展における役割

著者: 尾路祐介

ページ範囲:P.594 - P.600

 WT1遺伝子は,小児腎腫瘍ウイルムス腫瘍において不活化していることからその原因遺伝子として単離された遺伝子で,従来,癌抑制遺伝子と考えられてきた1)。しかしながらその後の研究により,白血病や多くの固形癌においてむしろ癌遺伝子として機能していることが明らかになってきた。本稿ではWT1遺伝子の機能とその癌の発生・進展における役割について述べる。

ストレス応答キナーゼASK1とASK2によるアポトーシスと炎症の制御と腫瘍化

著者: 佐藤剛裕 ,   一條秀憲 ,   武田弘資

ページ範囲:P.601 - P.607

 癌を引き起こす原因として,紫外線や有害物質などによる物理化学的ストレスや,細菌やウイルスの感染による生物学的ストレスが知られている1,2)。各細胞に備わった様々なストレス応答シグナル伝達系は,ストレスに曝されると直ちに活性化して適切な細胞応答を引き起こす。過大なストレスによって損傷を受けると細胞はその修復を試みるが,大きく損傷を受けた細胞ではアポトーシスが誘導され,損傷細胞の増殖による癌化が防がれる。この一連のストレスに対する生体防御機構は,ストレス応答シグナル伝達系によって精緻に制御されている。一方で,このようなストレス応答シグナル伝達系の多くは炎症応答の誘導にも共通に使われ,創傷や感染の際の防御機構として働く。しかし,本来は生体防御に働く炎症応答も,とくに慢性炎症となった場合には,発癌の大きなリスクファクターとなると考えられている。したがって,アポトーシスと炎症を制御するストレス応答シグナル伝達系は,発癌のメカニズムの解析や癌の治療標的として重要な研究対象となっている。

がん細胞の生死を決めるシアリダーゼとその発現制御への試み

著者: 宮城妙子

ページ範囲:P.608 - P.613

 糖鎖は核酸,タンパク質に次ぐ第3の鎖として,その情報の持つ重要性が高まっている。糖鎖はDNAの直接的な支配下にある前二者とは異なり,糖転移酵素や糖分解酵素によって作られ,それゆえに,糖鎖が付くタンパク質や脂質分子の多様性や迅速な応答性を生み出している。最近の糖鎖研究の進歩によって,糖鎖が分子・細胞間の認識や品質管理などを介して,細胞機能を決定的に調節している証拠が蓄積してきている。

 細胞ががん化すると,この糖鎖に異常が起こる1-3)。主に,細胞表層の糖タンパクや糖脂質の糖鎖に変化が起こる。そのうちでも酸性糖であるシアル酸量の異常は,浸潤や転移などのがんの悪性形質と密接に関連があると従来から指摘されてきた。事実,がん診断によく利用されるシアリルルイスXやシアリルルイスAなど,腫瘍マーカーにはシアル酸を含むものが多い。しかし,どのような機構でシアル酸量異常をもたらすのか,その異常がどのような意味をもつのかなど,いまだ不明の点が多い。

アポトーシス耐性のがんに挑む―V-ATPase阻害剤の新たな可能性

著者: 笹澤有紀子 ,   井本正哉

ページ範囲:P.614 - P.618

 抗がん剤治療は手術,放射線と並んでがん治療の三本柱であり,特に近年その開発は目覚ましい進歩を遂げている。これまでに臨床応用されている主な抗がん剤は,がん細胞のDNAやRNAの合成を阻害することで,あるいは細胞分裂を阻害することで,がん細胞の増殖を阻止したり細胞傷害を与えるものである。しかしこれらは同時に,正常細胞にも作用するため,吐き気,倦怠感,脱毛など患者のquality of lifeを低下させる副作用を伴うものであった。また,抗がん剤が効かないケースも多々あり,患者は長期間副作用に苦しまなくてはならなかった。それに対して,近年盛んに研究開発されているのが「がんの分子標的薬」である。これはこれまでの治療薬とは全く異なる機序で,作用する副作用の少ない抗がん剤として脚光を浴びている。この分子標的薬は,がん悪性化の原因となるタンパク質分子を標的とし,その機能を直接阻害することでがん根治をめざす治療薬である。これらはある種のがんに対しては劇的な治療成績をあげたものの,未だ種類は少なくさらなる開発が求められている。

 われわれは,新しいがんの分子標的治療薬の開発を念頭に,その標的分子としてがん遺伝子の一つであるbcl-2bcl-xLに着目した。これらの遺伝子産物はアポトーシス抑制タンパク質であり,多くのがんで過剰発現している。この過剰発現はがん悪性化に関わるだけでなく,抗がん剤を効かなくする原因にもなっている。そのためこれらの機能を阻害する小分子化合物は強力な抗がん剤となりうると考えられる。本稿では筆者らがbcl-2bcl-xLの機能を阻害する物質として再発見したV-ATPase阻害剤が,がん細胞にどのようなアポトーシスを誘導するのかを紹介する。

胆汁酸による発がんプロモーションとアポトーシス

著者: 佐伯徹

ページ範囲:P.619 - P.623

 胆汁酸は肝臓においてコレステロールから合成され,脂質や脂溶性ビタミンなどの消化吸収を助ける界面活性剤として働く。ヒトの胆汁に見られる主要な胆汁酸はコール酸およびケノデオキシコール酸であり,グリシンあるいはタウリンとアミド結合した抱合アミノ酸として胆汁に分泌される(図1)。

 小腸内に分泌された胆汁酸の大部分は,回腸末端において能動的に再吸収されて肝臓へ戻る。ヒトはコレステロールをCO2とH2Oまで異化する代謝経路を持たないため,コレステロールの主要な代謝産物である胆汁酸の動態は,体コレステロールの恒常性維持(あるいは過剰なコレステロールの排泄)に重要な意味を持つ。また,胆汁酸はシグナル分子としての役割も担うことから,その動態は種々の代謝経路にも影響する。

細胞運命決定に関わるNotchシグナルとその調節機構

著者: 伊藤素行

ページ範囲:P.624 - P.629

1 Notchシグナルとは

 Notchシグナル伝達経路は,線虫からヒトに至るまで進化上よく保存された細胞間のシグナル情報伝達経路である1)。また,脊椎動物で多くの組織の発生過程において重要な役割を果たしていることが知られている(表)。

 Notchシグナル情報伝達経路は,隣接する細胞に発現する膜タンパク質リガンド(Delta, Jagged)と受容体(Notch)の結合により開始され,Notch発現細胞へ情報伝達が行われるが,その際,Notchの細胞内領域は切り離され核内へ移行する(図1)。その情報伝達経路は,受容体の膜内タンパク質切断(regulated intramembrane proteolysis:RIP)を介する点で特徴的である。その後,切断された受容体の細胞内ドメイン(NICD)は核内に移行し,DNA結合タンパク質CSL(CBF1/Su(H)/Lag2),活性化補助因子MAM(Mastermind)と複合体を形成,標的遺伝子の転写を活性化することが知られている(図1)。図に示した情報伝達経路は,多くの生物や組織で共通に機能することが知られている。しかしながら,高等生物では,複数リガンド・受容体が存在すること,それらの発現場所・時期・活性が複雑な調節を受けていること,下流標的遺伝子が組織ごとに異なることなどから,Notchシグナルの生理機能は多岐にわたり組織依存性が高いのが特徴である。

連載講座 老化を考える・4

老化ゲノム機能からポストゲノム機能へ

著者: 遠藤玉夫

ページ範囲:P.630 - P.635

 老化に伴う身体機能の低下は,ヒトにとってごく日常的な現象である。しかしながらその機能低下の程度は個体差があり,この差異は老化の特徴のひとつである。ヒトの老化機構を説明するために,遺伝因子と環境因子の二つの因子が互いに関連しており,両方の因子による説明が試みられている。ヒトは遺伝学的に均一ではないことから,線虫,ショウジョウバエ,マウスなどのモデル動物を用いて分子遺伝学的研究が行われ,寿命の延長や短縮を指標に,老化や寿命を制御する遺伝子が多数明らかにされてきた。また,ヒトにおいて病的な老化を引き起こす遺伝子の単離・同定も進んだ。その結果,ひとつの遺伝子変異により,老化が制御されていることが分子レベルで明らかになった。老化や寿命を分子レベルで議論することが可能になり,この分野は飛躍的に進歩した。

 本稿では,モデル生物で得られた寿命関連遺伝子,ヒト早老症関連遺伝子について解説した後,現在われわれが進めているタンパク質を中心にした研究を紹介した後,老化研究におけるポストゲノム研究の重要性について述べてみたい(図1)。

解説

経皮吸収型薬物送達の新展開

著者: 塩塚政孝 ,   野々村禎昭 ,   松田良一

ページ範囲:P.636 - P.640

 古代ギリシャの医学者ガレノスが蜜蝋やオリーブオイルを混ぜクリームを開発して以降,薬物の皮膚への投与は古くから行われてきたが,これらは主に皮膚表面もしくは皮膚直下の組織に対する表在性皮膚疾患や細菌感染症治療のためのものであった。近年,局所効果だけでなく全身暴露を期待した薬物の投与部位として皮膚が注目され,皮膚表面から皮下の血管内に薬物を移行させ,全身的薬効を得ることを目的とした経皮薬物送達システム(Transdermal Drug Delivery System:TDDS)に関心が集まっている。経皮投与は,(1)初回通過効果(摂取された薬物は消化管で吸収され,門脈を経由して肝臓で代謝されるため,体循環血液中に到達する割合と速度が低下する現象)や消化管障害を回避できる,(2)長時間にわたり一定の血中濃度を保持することができる,(3)経口摂取が困難な薬物や患者への適用が可能で,投与が簡便なためコンプライアンス(服薬指示の遵守)の向上が見込める,といった利点が挙げられる1)

 1965年に宇宙飛行士の酔い止めにスコポラミンが用いられ,79年にFDAから承認されて以降,現在までにニトログリセリンや硝酸イソソルビド(狭心症),エストラジオール(更年期障害),ニコチン(禁煙)などを含有したものが薬理効果の持続性を意図して利用されている。しかし,薬物が皮膚から吸収されるためには融点が低く(200℃以下),分子量が小さく(500Da以下),適度に脂溶性を示すというような物理化学的条件を整える必要があった2)。皮膚は本来,生体外からの異物侵入に対する防御の働きがあり,化学物質を容易には透過しないため,単独適用しても充分な薬効が得られないものも多く,経皮吸収型製剤として開発される薬物の選択は厳しい制約を受けてしまう。そこで,薬物の皮膚透過性を改善するために種々の経皮吸収促進法の開発が盛んに行われており,TDDSのもつ多くのメリットが活用されつつある。

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あとがき

著者: 藤田道也

ページ範囲:P.642 - P.642

 今年は異常気象とやらに見舞われた1年でした。北海道でもエアコンを導入する家庭がふえたと聞きます。本州では10月になっても半袖で過ごしていましたら突然寒気が襲来して,日本から冬がなくなる不安を解消してくれました。

 昨年は4人の,今年は2人の日本人がノーベル賞を受賞しました。昨年は物理学と化学,今年は化学でした。英語が大の苦手という益川さんに象徴されるように,日本の物理学はホームスパンであることがわかります。今回の受賞対象となった有機化学も日本のお家芸です。それに比べるとわれわれの分野である医学生理学賞の受賞数が少ないのが気になります。選考は果たしてフェアなのでしょうか。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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