icon fsr

文献詳細

雑誌文献

生体の科学61巻6号

2010年12月発行

文献概要

解説

経皮吸収型薬物送達の新展開

著者: 塩塚政孝1 野々村禎昭1 松田良一1

所属機関: 1東京大学大学院 総合文化研究科

ページ範囲:P.636 - P.640

文献購入ページに移動
 古代ギリシャの医学者ガレノスが蜜蝋やオリーブオイルを混ぜクリームを開発して以降,薬物の皮膚への投与は古くから行われてきたが,これらは主に皮膚表面もしくは皮膚直下の組織に対する表在性皮膚疾患や細菌感染症治療のためのものであった。近年,局所効果だけでなく全身暴露を期待した薬物の投与部位として皮膚が注目され,皮膚表面から皮下の血管内に薬物を移行させ,全身的薬効を得ることを目的とした経皮薬物送達システム(Transdermal Drug Delivery System:TDDS)に関心が集まっている。経皮投与は,(1)初回通過効果(摂取された薬物は消化管で吸収され,門脈を経由して肝臓で代謝されるため,体循環血液中に到達する割合と速度が低下する現象)や消化管障害を回避できる,(2)長時間にわたり一定の血中濃度を保持することができる,(3)経口摂取が困難な薬物や患者への適用が可能で,投与が簡便なためコンプライアンス(服薬指示の遵守)の向上が見込める,といった利点が挙げられる1)

 1965年に宇宙飛行士の酔い止めにスコポラミンが用いられ,79年にFDAから承認されて以降,現在までにニトログリセリンや硝酸イソソルビド(狭心症),エストラジオール(更年期障害),ニコチン(禁煙)などを含有したものが薬理効果の持続性を意図して利用されている。しかし,薬物が皮膚から吸収されるためには融点が低く(200℃以下),分子量が小さく(500Da以下),適度に脂溶性を示すというような物理化学的条件を整える必要があった2)。皮膚は本来,生体外からの異物侵入に対する防御の働きがあり,化学物質を容易には透過しないため,単独適用しても充分な薬効が得られないものも多く,経皮吸収型製剤として開発される薬物の選択は厳しい制約を受けてしまう。そこで,薬物の皮膚透過性を改善するために種々の経皮吸収促進法の開発が盛んに行われており,TDDSのもつ多くのメリットが活用されつつある。

参考文献

20:272-282, 2007
2:1261-1268, 2008
17:1063-1072, 2008
48:181-183, 1967
3:115-124, 2004
16:4, 2010
2:23-33, 2005
19:969-988, 2009
33:339-351, 2009
17:1354-1359, 2000
104:375-381, 1999
134:751-758, 2003
147:463-470, 2010
128:2240-2247, 2008
32:268-274, 1984
50:267-272, 1998
59:99-105, 1999
9:341-348, 2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?