特集 摂食制御の分子過程
ニューロメジンUとニューロメジンS
著者:
森健二1
寒川賢治1
児島将康2
所属機関:
1国立循環器病研究センター研究所 生化学部
2久留米大学 分子生命科学研究所 遺伝情報研究部門
ページ範囲:P.51 - P.56
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摂食とは生物が生きていくための基本的行動の一つであることから,その制御機構は多くの研究者の興味の対象である。一方,肥満により健康状態が悪化するだけでなく,関連する医療費の高騰が財政を圧迫するなど深刻な社会問題が生じているため,近年では肥満をコントロールする重要性が指摘されている。肥満はエネルギーの摂取(摂食)と消費(運動)のバランスの破綻により発症することからも,その一翼を担う摂食の制御機構の解明が求められている。古くからの研究により,摂食調節が脳で行われる中枢説と,胃などが関与する末梢説とが提起され,さらには脳の領域破壊や電気刺激実験により,視床下部に満腹中枢と摂食中枢が存在することが示されたが,分子レベルでの制御機構は長らく不明であった。しかしながら,最近になり視床下部における神経ペプチドネットワークによる中枢性調節,胃および腸管で産生されるペプチドホルモンによる末梢性調節などが示され,摂食調節機構の全貌が明らかになりつつある。
本稿では,われわれがこれまでに発見してきた神経ペプチドであるニューロメジンU(neuromedin U:NMU)とニューロメジンS(neuromedin S:NMS)について,摂食・エネルギー代謝調節における役割を解説する。