連載講座 老化を考える・5
老化と癌化におけるテロメア長
著者:
田久保海誉1
相田順子1
仲村賢一1
石川直1
新井冨生1
下村七生貴1
所属機関:
1東京都健康長寿医療センター研究所 老年病理学研究チーム
ページ範囲:P.63 - P.68
文献購入ページに移動
加齢に伴い癌の発生率は急激に増加する。東京都健康長寿医療センター(旧,東京都老人医療センター)では,最近の病理解剖5667例の平均年齢は80歳(通常の病院より20-25歳程度高齢)であり,これらの全症例の病理解剖時の担癌率(癌を体内に持っている率)は61%である。以上は通常の肉眼的,組織学的検索の結果である。さらに詳細な組織学的研究からは,前立腺では約半数に癌を見出し,乳腺でも5%以上に臨床的に知ることのできなかった癌が剖検時に発見される。厚労省統計によると,年齢階級別死亡率において悪性腫瘍が第1位でなくなるのは90-94歳である。高齢者ではきわめて高頻度に癌が発生し,癌が原因で死亡するが,90歳以上では担癌状態でも他の死因で増加することがわかる。なぜ高齢者に癌が好発するのか。単に加齢に伴う遺伝子変異の蓄積が閾値を超えることが原因とは考えられてはいない。なぜなら,小児には肉腫が高頻度で癌腫(9%)が少なく,成人では癌腫の頻度が高い(86%)。単なる変異の蓄積ではこの頻度の逆転を説明することができない。この原因としては,テロメア機能不全,DNAメチレーションや微小環境の変化があげられている。
われわれは,高齢者に担癌率の高い原因を加齢に伴うテロメアの短縮による染色体の不安定性に求めたいと考えている。われわれ以外の多くのグループからも,老化と癌化を直接的に結びつけるものとして,テロメアとテロメレースが注目されている。本総説では,テロメアと加齢,老化と発癌の関係について述べ,あわせていくつかのテロメア長測定法の紹介を通じて,われわれの原著論文を紹介したい。