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文献詳細

雑誌文献

生体の科学62巻2号

2011年04月発行

特集 筋ジストロフィーの分子病態から治療へ

マイオスタチンの発現抑制による治療

著者: 川上恵実1 田中栄二1 砂田芳秀2 土田邦博3 野地澄晴4

所属機関: 1徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 口腔顎顔面矯正学分野 2川崎医科大学 神経内科 3藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 難病治療学部門 4徳島大学大学院 ソシオテクノサイエンス研究部 ライフシステム部門

ページ範囲:P.146 - P.150

文献概要

 新しいTGF-βファミリーに属するペプチド性増殖因子の一つとして,Growth Differentiation Factor 8(以下GDF8と略す)が1997年に発見された。GDF8遺伝子ノックアウトマウスの表現型は全身骨格筋の著しい肥大であったことから,GDF8は骨格筋増殖抑制因子という意味で,マイオスタチン(Myostatin;以下Mstと略す)と呼ばれるようになった1)。また,自然界でもMst突然変異による筋過形成の家畜牛が発見されている。そのMst遺伝子を解析した報告によると,PiedomonteseではMst遺伝子の1056番目のグアニンがアデニンに突然変異した結果,Mst蛋白の成熟領域内313番目のシステインのチロシンへの置換という変異が検出され,Belgian BlueではMst遺伝子の937番目から947番目までの11塩基欠失によるフレームシフトによりストップコドンが生じ,Mst蛋白の成熟領域を欠失していた2-4)。西ら5)は,Belgian Blueと同様のフレームシフト変異によるMst変異型トランスジェニックマウスを作製し,このマウスの骨格筋が野生型マウスと比較すると明らかに増大していることを報告した。

 Mstは2回の蛋白質分解による切断過程で活性化される。最初にシグナル配列(N末端側の先頭の約20残基のアミノ酸残基)が除去され,次に4ヵ所の塩基性切断部位(RSRR)で切断される。Zhuら6)は,Mstの切断部位RSRRをGLDGに改変したドミナントネガティブ型のMstを発現したトランジェニックマウスを作製し,筋肉の過形成hyperplasiaは生じないが,肥大hypertrophyが生じることを報告した。これらの結果は,骨格筋増殖抑制因子のMstを抑制すれば骨格筋形成が促進することを示唆しており,Mstをターゲットとした抑制による筋ジストロフィー症の治療の可能性があることが示唆された。さらに,ヒトMst遺伝子異常症例が発見され7),症例では筋容積や筋力の増加が認められたことから,Mst抑制による筋ジストロフィー治療応用が期待されてきた。これまで,Mstをターゲットとした基礎研究が行われ,さらに治療法に関する研究が行われ,様々な方法が開発されてきたので,それらについて紹介し,この治療法について議論する。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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