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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学62巻3号

2011年06月発行

雑誌目次

特集 インフラマソーム

インフラマソームの概念とASCタンパク

著者: 相良淳二

ページ範囲:P.174 - P.181

 ほとんどのサイトカインは通常の分泌タンパクと同様に,合成されると小胞体とゴルジ装置を経由して細胞外に分泌される。しかし,インターロイキン(IL)-1βとIL-18は前駆体として合成され,異常がなければ前駆体のままで細胞質にとどまる。そして,感染などによって細胞が危険な状態になると切断/活性化されて細胞質から細胞外に放出される1)。本解説のテーマであるインフラマソーム(inflammasome)とはIL-1βとIL-18前駆体を切断/活性化する分子装置のことである。この名称は‘inflammation’とギリシャ語で「体「を表す‘soma’に由来する。インフラマソームの概念がスイスのTschoppのグループから提唱されたのが2002年であるが,この概念は免疫学に対して強いインパクトを与えた2)。免疫の分野ではIL-1βとIL-18前駆体の切断酵素はインターロイキン変換酵素と呼ばれ,非常に有名な酵素であったにもかかわらず,長い間その活性化調節機構は謎であった3)。しかしインフラマソームの概念によってその謎解きの糸口が示されたのである。事情は後で述べるが,現在ではインターロイキン変換酵素という名称は廃れてしまい,カスパーゼ-1(caspase-1)という呼び方が一般化した。この解説ではインフラマソームの概念を要約するとともに,その構成員であるASCについて少し詳しく説明したい。

 インフラマソームの問題はリウマチや蕁麻疹など炎症疾患と深くかかわっており,最近ではⅡ型糖尿病との関係が指摘され大きな注目を集めている4,5)。今後,原因不明の自己免疫疾患に対する新たな治療法開発が期待できる分野でもある。研究の歴史を振り返ると,インフラマソーム研究はアポトーシスの関連分野として発展してきた経緯がある。その証拠にインフラマソームの研究者にはアポトーシス研究から移った人達が多い。また,カスパーゼ-1という呼び方はアポトーシス研究に由来する言葉である。本解説ではあえてインターロイキン変換酵素という古い呼び方も用いた。その趣旨は免疫や医学関係の研究者に対して話題提供ができたらとひそかに望むからである。

細菌感染によるNLRP3およびNLRC4を介したインフラマソーム活性化

著者: 小泉由起子 ,   比嘉直美 ,   鈴木敏彦

ページ範囲:P.182 - P.187

 病原細菌の感染に伴って誘導される炎症などの宿主応答は,細菌感染症発症に至る病態形成プロセスと,その後の免疫応答を理解するうえで重要な生体反応である。これは宿主の防衛反応であると同時に発症機序にも大きく関与する。したがって,病原細菌の感染による病態の理解には病原体側・宿主側の両者の観点から感染・発症機序を解明していくことが鍵となると考えられる。

 近年の研究の進展により,宿主自然免疫系システムの病原体パターン認識機構の一つnucleotide-binding oligomerization(NOD)-like receptors(NLRs)が,カスパーゼ-1活性化を介した炎症性サイトカイン産生・炎症誘導機構として注目されている。この機構は細菌,ウイルス,寄生虫などの病原体感染のみならず,自己免疫性の慢性炎症性疾患の病態形成にも関与していることが報告されている。NLRの中でもNLRP3およびNLRC4は多くの病原体の感染を認識して活性化する。また,AIM2はウイルスや細胞内寄生菌の感染において病原体の2本鎖DNAを認識する(土屋・光山先生の項202頁参照)。ところが最近,一部の菌ではNLRによる活性化機構に干渉し,免疫反応を回避する機構を持つことがわかってきた。このように,病原体と宿主の間には複雑な攻防が行われていることがNLR研究からも垣間みることができる。

自然免疫系におけるDNAセンサーとインフラマソーム

著者: 髙岡晃教 ,   鈴木絵里加 ,   浦山優輔 ,   木口舞美

ページ範囲:P.188 - P.201

 脊椎動物における感染防御システムは自然免疫と適応免疫の二つの局面から構成されている。感染初期の自然免疫系の活性化は,パターン認識受容体によって病原体の構成分子を認識することで引き起こされる1,2)。ウイルスや細菌由来の核酸がターゲットとなり,RNAのみならずDNAもパターン認識受容体である特定のセンサータンパク質によって認識されることで,細胞内のシグナル経路が活性化され,自然免疫応答が誘導される3-5)。また,これらの核酸センサーによって自己の核酸も認識の対象となることで,自己免疫疾患や炎症性疾患の病態形成にかかわっていることも明らかとなってきている4)。これまで自然免疫系におけるRNA認識機構の研究が先行している一方で,DNA認識機構の研究は不明な点が多く残されている。

 その状況下,細胞質DNA認識にかかわる分子が最近,複数同定され,下流のシグナル経路が次第に明らかになってきた6-8)。自然免疫系におけるDNAセンサーの下流のシグナル経路はRNAシグナル経路と類似しており,基本的には炎症性サイトカインなど遺伝子発現を誘導するNF-κB(nuclear factor-kappa B)経路,Ⅰ型インターフェロン(interferon:IFN)誘導につながるIRF(IFN regulatory factor)経路,さらにインフラマソームの活性化を引き起こす経路などの主要経路が挙げられる4,9,10)

AIM2(absent in melanoma 2)はインフラマソームの活性化に関与する

著者: 土屋晃介 ,   光山正雄

ページ範囲:P.202 - P.207

 インフラマソームの概念が提唱されて10年ほどが経過したが,ようやくその活性化機序,生理学的役割,各種疾患との関連づけなど非常に幅広い分野で研究が行われ,興味深い知見が次々に報告されてくるようになった。近年のトピックの一つとしてあげられるのがAIM2(absent in melanoma 2)インフラマソームの発見であろう。AIM2は細胞質内で二本鎖DNAを認識する受容体であり,カスパーゼ1の活性化を介して炎症性サイトカインの産生や炎症性プログラム細胞死を誘導する。本稿ではAIM2に焦点を当て,その同定の経緯から生理的役割についての最近の解析まで,これまでの知見を紹介していきたい。

ミクログリアの産生するカテプシンBの機能的多様性―プロIL-1βのプロセシングと慢性疼痛への関与

著者: 中西博

ページ範囲:P.208 - P.212

 プロテアーゼは本来の消化酵素としての「分解作用「だけではなく,生体の種々の機能を担う生理活性物質を生み出すための「モデュレーター作用「を有している。典型的なエンドソーム-リソソーム系プロテアーゼであるカテプシンBは,エンドソーム-リソソーム系での機能に加え,リソソーム崩壊に伴って漏出した細胞質での機能,あるいは分泌に伴う細胞外での機能を有するという知見が急速に蓄積している。特に最近,リソソーム崩壊に伴って細胞質に漏出したカテプシンBがNOD受容体(NLR)ファミリーのNLR protein 3(NLRP3)活性化ならびにインフラマソーム形成において重要な役割を果たすことが発見され,注目されている。本稿では,急速な展開をみせている脳内免疫担当細胞のミクログリアにおけるカテプシンBの新たな生理的ならびに病理的機能について概説する。

エンドトキシンショック関連肝障害におけるTRIF-NLRP3依存的なインフラマソーム形成の重要性

著者: 内山良介 ,   今村美智子 ,   筒井ひろ子

ページ範囲:P.213 - P.220

 宿主のマクロファージや樹状細胞はパターン認識受容体で病原体などの構成成分を認識し,さまざまなサイトカインやケモカインを産生することで初期感染防御に貢献するとともに獲得免疫系の細胞を活性化する。パターン認識受容体はその局在部位により大きく二つに分類することができる。一つは形質膜上に存在し,おもに細胞外やファゴソーム,エンドソーム内のリガンドを認識する受容体(Toll様受容体Toll-like receptor;TLRやC型レクチン受容体C-type lectin receptor;CLR),もう一つは細胞質内でリガンドを認識する受容体(NOD様受容体nucleotide-binding domain and leucine-rich repeat―containing receptor,or NOD-like receptor;NLR,RIG-Ⅰ様受容体RIG-Ⅰ like receptor;RLRやDNAセンサーのAIM2など)である1)(図1)。

 代表的なパターン認識受容体であるTLRは,リガンドを認識すると細胞内シグナル伝達を介して転写因子NF-κBやIRFを活性化し,炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-αなど)やⅠ型IFN(IFN-α/βなど)を産生する。これらのサイトカインは産生されると即座に分泌され機能することができる。一方で,IL-1ファミリーに属する炎症性サイトカインIL-18やIL-1βは上記サイトカインと同様に感染防御において重要であるが,その産生機序は上記のものとは異なっている。IL-18やIL-1βは細胞外分泌のためのリーダー配列を欠いており,さらに細胞質内ではサイトカインとして機能しない前駆体として産生・貯蔵される。サイトカインとして機能するためには,この細胞質内の前駆体がシステインプロテアーゼの一種caspase-1により切断される過程が必要である。このcaspase-1は通常,細胞質内で不活性型の状態にあり,その活性化誘導にはインフラマソームというタンパク質複合体が必要である。このインフラマソーム形成には細胞質内に局在するNLRなどのパターン認識受容体が必須である。近年の研究により,これらの受容体が細胞質内のリガンドを認識し複合体形成を誘導する分子機序が明らかにされつつある1-3)(図1)。

インフラマソームの自発的活性化を病態とする自己炎症症候群

著者: 神戸直智 ,   佐藤貴史 ,   西小森隆太

ページ範囲:P.221 - P.227

 1999年Kastnerらは,1週間以上持続する発熱と結膜炎・眼周囲浮腫・皮膚炎といった特徴を示し,アイルランドを示す古い地名にちなんでfamilial Hibernian feverと呼ばれていた疾患に,TNF受容体(TNFRSF1A)の遺伝子異常が関与していることを発見し,TNF受容体関連周期性症候群(TNF receptor-associated periodic syndrome, MIM #142680)として報告した1)。その際に,彼らは同じく周期的に発熱をきたし,1997年に原因遺伝子(MEFV)が報告された家族性地中海熱(familial Mediterranean fever;FMF, MIM #249100)や,オランダ・フランスの家系で周期熱をきたす疾患として報告されていた高IgD症候群(hyper IgD and periodic fever syndrome, MIM #260920)とともに,自己炎症症候群(autoinflammatory syndrome)の概念を提唱した。

 自己炎症症候群は周期熱を特徴とし,獲得免疫系の異常と考えられる自己免疫疾患を特徴づけている自己抗体や自己反応性T細胞などを認めず,自然免疫にかかわる遺伝子異常に基づく疾患と狭義には定義される。免疫学の分野で昨今注目される自然免疫系がポストゲノム時代を反映するように,遺伝子上のアミノ酸置換を起こすたった一つの変異によって破綻し特徴的な臨床症状を呈することに加え,本疾患群が臨床の場で注目されるのは,抗サイトカイン療法が奏功する点である。さらに,疾患概念が臨床の場で受け入れられるのに伴い,これまで膠原病類縁疾患として分類されているものの自己抗体を認めず,好中球機能異常などに伴って発熱や皮膚症状,関節炎などを認めるStill病やベーチェット病などへもその疾患概念が拡大しつつある2)

インフラマソームの活性とシリカ粒子の性状

著者: 吉岡靖雄 ,   中川晋作 ,   堤康央

ページ範囲:P.228 - P.232

 ナノテクノロジーは,物質をnm(ナノメートル)レベルで制御することにより,その物質の機能を飛躍的に向上させることを目的とした超微細加工技術であり,近年,広範な産業技術分野に革新的発展をもたらし得るテクノロジーとして脚光を浴びている。ナノテクノロジーを駆使して創製されるナノマテリアル(1次粒子径が100nm以下)は,従来までのサブミクロンサイズ以上の素材にはない有用機能を発揮し得ることから,工業用用途はもちろんのこと,化粧品基材・食品添加物として実用化されつつあり,次世代を担う新素材として期待されている1-4)

 一方で近年,ナノマテリアル特有の革新的機能が想定外の健康影響を発現してしまうことが懸念されている5-9)。特に生体に取り込まれた粒子状異物排除の根幹を担う免疫担当細胞がナノマテリアルを異物として認識した際に過剰反応や機能不全を起こす可能性が報告されており,ナノマテリアルが未知の免疫撹乱作用を呈する危険性が指摘されている7,8)。これらは,ナノマテリアルへの長期・多量曝露が炎症性疾患や自己免疫疾患,あるいは感染症罹患率の増大など予期せぬ毒性を引き起こす可能性を示している。このような背景のもと,ナノマテリアル産業発展のためにも,ナノマテリアルの安全性評価や安全なナノマテリアルの開発・実用化が急務となっているが,その体内動態・生体影響をはじめとする安全性情報は世界的にも乏しいのが現状である。したがって,ナノマテリアルを活用した豊かな社会の構築のためにも,今こそ,どの程度われわれはナノマテリアルに曝露されているのかといった曝露実態の解明や,生体内に取り込まれたナノマテリアルがどの程度組織に分布するのかといった定量的な体内動態評価,さらに,健康影響に及ぼす閾値追求など詳細な安全性評価が待望されている。

インフラマソームのNLRP3遺伝子多型とアレルギー疾患

著者: 玉利真由美 ,   冨田かおり ,   広田朝光

ページ範囲:P.233 - P.236

 アレルギー疾患は遺伝要因と環境要因とが複雑に関与して引き起こされる炎症性疾患であり,複数の要因が相乗的に作用し疾患を引き起こすと考えられている1)。このうち遺伝要因の解明は,ヒトゲノム研究の進展に伴い急速に進んでいる。人口の1%以上の頻度で存在する遺伝暗号の違いは遺伝子多型と定義され,それらが病気へのかかりやすさや,重症度,薬剤の効果や副作用の出やすさなどに関与していると考えられている。遺伝子多型の代表的なものが一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)であり2),それらの情報基盤の整備とSNPsタイピング技術の向上により,症例対照関連解析が迅速に行われるようになった3)。症例対照相関解析とは疾患群と非疾患群とでSNPのアレル頻度の差を統計学的に検定する方法により,その遺伝子多型と形質(発症しやすさ,血清IgE値,重要度,発症年齢など)との関連を明らかにする手法である。多因子疾患の場合,集団レベルでは非常に強い影響をもつSNPも個体レベルでは一つの関連遺伝子の疾患に対する影響は単一遺伝子疾患よりも小さい。しかしながら,疾患発症のプロセスの解明やほかの類縁疾患との共通の遺伝要因の検証などを通じ,病態の科学的解明が進むことが期待される。

 一方,近年の免疫学の進歩により自然免疫,粘膜免疫機構の解明が進み,上皮細胞,樹状細胞,好塩基球などにおける免疫応答が獲得免疫(アレルギー感作)への橋渡しやアレルギー炎症に重要な役割を果たすことが明らかになってきた4)。これら分子レベル,細胞レベル,マウスモデルを用いて得られた免疫学的知見と,実際のヒト疾患の病態との関連について,症例対照関連解析を行うことにより検討することができる。環境と遺伝要因とが共同して発症に関与する機構が遺伝子多型・分子レベルで明らかになりつつあるといえよう。本稿ではNLR family, pyrin domain containing 3(NLRP3)の遺伝子多型と食物誘発アナフィラキシーおよびアスピリン喘息との関連を中心に述べる。

オートファジーとインフラマソーム

著者: 齊藤達哉 ,   審良静男

ページ範囲:P.237 - P.244

 バルク分解機構であるオートファジーは,古くなったオルガネラのターンオーバーを促進し,さらに傷害を受けたオルガネラを積極的に除去することによって,細胞の恒常性を維持している。オートファジー関連遺伝子Atg16L1の一塩基多型がクローン病の発症と相関するとの報告を受けて,オートファジーを介した細胞内成分の分解が炎症反応制御において果たしている役割が注目されている。マクロファージにおけるオートファジー不全は,インフラマソームと呼ばれるcaspase-1を活性化する複合体を介した炎症性サイトカインIL-1βとIL-18の過剰産生を惹起することが,筆者らの研究から明らかになっている。また,オートファジー不全のマクロファージでは,オートファジーによって行われているミトコンドリアの品質管理が破綻しているために,NALP3インフラマソームの過剰な活性化が引き起こされることが最近の研究成果から明らかになってきた。一方で,IPAFインフラマソームの活性化がオートファジー不全を引き起こすことも,鈴木らの研究から明らかになってきている。本稿では,これらのインフラマソームを介した炎症反応とオートファジーの関連性について概説する。

 オートファジーは細胞内成分のバルク分解機構であり,細胞内のアミノ酸プールの維持やオルガネラのターンオーバーの制御を介して,細胞の恒常性維持に重要な役割を果たしている(図1)1-2)。また,オートファジーは不溶性蛋白質や傷害を受けたミトコンドリアの排除にもかかわっており,細胞内品質管理機構としても重要である。さらに,オートファジーは細胞内に侵入した細菌の排除を行うことにより,感染防御にもかかわっている。現在までに数多くのオートファジーに必須の因子が酵母における遺伝学的な解析から同定され,オートファジー関連因子Atgと名付けられている。オートファジー関連因子は酵母から哺乳類に至るまで広く保存されている。

移植心の拒絶反応とインフラマソーム

著者: 伊藤研一 ,   瀬戸達一郎

ページ範囲:P.245 - P.248

 免疫療法剤の進歩に伴い,心臓移植は末期心不全患者の治療として臨床的位置を確立している。しかし,免疫療法剤の進歩にもかかわらず,急性拒絶反応は依然として心臓移植後1年以内の致死率にもっとも影響を及ぼす因子となっている1-3)。移植心の拒絶反応は,通常は組織学的には炎症細胞の浸潤と細胞壊死やアポトーシスを含む心筋細胞傷害壊死を伴う4,5)。さらにこれまでの研究から,心臓移植後遠隔期の合併症で生命予後に関与する移植心冠動脈病変(cardiac allograft vasculopathy;CAV)の発症に急性拒絶の有無が影響することが示されている5)。このように移植された心臓組織での炎症反応は,移植心の拒絶反応の進展に大きく関与していると考えられている。

 Interleukin(IL)-1βは様々な免疫反応や炎症反応に関与する炎症性サイトカインの一つである6)。IL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインは,動脈硬化や再狭窄の進展といった生体内の広範な免疫応答や炎症反応などを制御している。IL-1βはIFNγ,IL-5,IL-6などと同様に正常の心臓では低発現であるが,移植心においては同種同系移植においても同種異系移植においても,移植後の組織で発現の増加が認められている7,8)。また,IL-1βは適応免疫反応を促進することが知られており,周術期の虚血再灌流障害と同種免疫反応の増強を媒介することが知られている9,10)。さらには,IL-1βは虚血再灌流障害の際に生ずる急性炎症の進展に中心的な役割を果たし11,12),心移植後早期のalloantigen非依存性の炎症機転の重要なメディエーターの一つと考えられている13)。活性型のIL-1βやIL-18の産生には,インターロイキン変換酵素であるcaspase-1(またはIL-1β-converting enzyme;ICE)によるその前駆体のプロセシングが必要であり6),最近の研究ではcaspase-1がインフラマソーム(inflammasome)と名付けられたアダプター分子の多量体により活性化されていることが報告され,免疫学においてもインフラマソームの重要な役割が示されつつある14)

ショウジョウバエにおける炎症応答と組織再生

著者: 小幡史明 ,   倉永英里奈 ,   三浦正幸

ページ範囲:P.249 - P.256

 ショウジョウバエにおいて,炎症応答時におけるインフラマソーム様のタンパク質複合体形成についての報告はいまだないが,組織傷害におけるカスパーゼの活性化と,カスパーゼ活性化依存的に産生されるサイトカイン様タンパク質についての報告がなされている。腸組織再生は,サイトカイン様タンパク質であるUnparied(Upd)やEGFRリガンドがカスパーゼやJNK経路依存的に傷害細胞で産生され,腸幹細胞におけるJAK/STAT経路やEGFR/Ras/MAPK経路を活性化して増殖を誘導する。一方で,この増殖は組織サイズの制御に関与するHippo経路によって,収束されることが明らかになった。また,ヒトの肝臓同様に高い再生能力を有しているショウジョウバエ成虫原基をモデルとした研究により,損傷部位におけるカスパーゼ活性化依存的に誘導される代償性増殖の機構が報告されている。

 近年,ガンや神経変性疾患,自己免疫疾患などにおいて,組織傷害を発端とした炎症の誘発,修復困難および炎症収束不全による慢性的な炎症状態の継続が関与することが明らかとなってきており,その基本的な分子メカニズムの解明が期待されている1)。しかしながら,組織を構成する異種細胞間での複雑なクロストークを介した炎症応答を,特に個体レベルで明らかにするのは容易ではない。近年,遺伝学的な研究手法が高度に発達したショウジョウバエを用いて,様々な外的要因による組織傷害時にどのように自然免疫系が活性化し,炎症応答・組織再生が引き起こされるかを個体レベルで解析するアプローチが注目されている。本稿ではショウジョウバエで報告されているサイトカイン様タンパク質について紹介し,加えてこの数年で目覚ましいスピードで研究の進んだ,組織傷害による炎症応答と組織再生のメカニズムについて,その知見を概説する。

連載講座 老化を考える・6

加齢による臓器障害

著者: 加賀美弥生 ,   丸山直記

ページ範囲:P.257 - P.261

 老化が重大な関心事となったのは,生物学的な役割を終えた繁殖期より後の長期生存が多数の人間にとって可能になった結果である。生体を維持するためのシステム,すなわち酸素呼吸による代謝や免疫などは,正しく制御されなければ同時に自身を損なう害をもたらす存在でもある。野生における進化の過程では,集団の維持に必要な繁殖期までは有害性が有益性を超えないよう制御されてきたのであろう。しかし,その繁殖期を過ぎると,加齢に伴い制御が十分に行われないことにより蓄積された有害性が有益性を凌ぐことになる(図1)。このことが加齢による臓器障害の概観である。様々な事柄が加齢に伴う臓器障害に関与しているが,本稿ではこのような観点から,これまでのわれわれの研究を例に,活性酸素や分子修飾の有益性と有害性による臓器障害について解説したい。

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財団だより/次号予告

ページ範囲:P.263 - P.263

あとがき

著者: 藤田道也

ページ範囲:P.264 - P.264

 インフラマソームの概念はカスパーゼ-1(インターロイキン変換酵素)を活性化するタンパク複合体として,2002年に初めてスイスのグループによって提唱されました。その感染と免疫における重要性がその後認められるようになり,さらにインフラマソーム自体の活性化機構(ATM2,NLRP3,オートファジー不全)の解明も進んでいます。本特集ではそれらについて関連分野の先生方に解説していただきました。

 去る3月11日東北・北関東沿岸を襲った巨大地震による被害の大きさは,地震そのものによるより誘発された津波と原発事故によることは明らかです。そのどちらにおいても「想定外」という表現(言い訳のように聞こえました)が用いられました。防潮堤も原発も想定「内」では100%安全でした。想定をどこに設定するかは人為的なものです。今回の災害は自然が人間に与えた厳しい教訓なのかもしれません。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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