特集 インフラマソーム
インフラマソームのNLRP3遺伝子多型とアレルギー疾患
著者:
玉利真由美1
冨田かおり1
広田朝光1
所属機関:
1理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 呼吸器疾患研究チーム
ページ範囲:P.233 - P.236
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アレルギー疾患は遺伝要因と環境要因とが複雑に関与して引き起こされる炎症性疾患であり,複数の要因が相乗的に作用し疾患を引き起こすと考えられている1)。このうち遺伝要因の解明は,ヒトゲノム研究の進展に伴い急速に進んでいる。人口の1%以上の頻度で存在する遺伝暗号の違いは遺伝子多型と定義され,それらが病気へのかかりやすさや,重症度,薬剤の効果や副作用の出やすさなどに関与していると考えられている。遺伝子多型の代表的なものが一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)であり2),それらの情報基盤の整備とSNPsタイピング技術の向上により,症例対照関連解析が迅速に行われるようになった3)。症例対照相関解析とは疾患群と非疾患群とでSNPのアレル頻度の差を統計学的に検定する方法により,その遺伝子多型と形質(発症しやすさ,血清IgE値,重要度,発症年齢など)との関連を明らかにする手法である。多因子疾患の場合,集団レベルでは非常に強い影響をもつSNPも個体レベルでは一つの関連遺伝子の疾患に対する影響は単一遺伝子疾患よりも小さい。しかしながら,疾患発症のプロセスの解明やほかの類縁疾患との共通の遺伝要因の検証などを通じ,病態の科学的解明が進むことが期待される。
一方,近年の免疫学の進歩により自然免疫,粘膜免疫機構の解明が進み,上皮細胞,樹状細胞,好塩基球などにおける免疫応答が獲得免疫(アレルギー感作)への橋渡しやアレルギー炎症に重要な役割を果たすことが明らかになってきた4)。これら分子レベル,細胞レベル,マウスモデルを用いて得られた免疫学的知見と,実際のヒト疾患の病態との関連について,症例対照関連解析を行うことにより検討することができる。環境と遺伝要因とが共同して発症に関与する機構が遺伝子多型・分子レベルで明らかになりつつあるといえよう。本稿ではNLR family, pyrin domain containing 3(NLRP3)の遺伝子多型と食物誘発アナフィラキシーおよびアスピリン喘息との関連を中心に述べる。