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特集 小脳研究の課題
道具の使用と小脳の認知モジュール
著者: 今水寛1
所属機関: 1情報通信研究機構・ATR認知機構研究所
ページ範囲:P.312 - P.319
文献購入ページに移動 多種多様な道具を器用に使いこなす点で,ヒトは他の動物と比較にならないほど高い能力を持っている。この能力の由来については,脳科学,心理学,文化人類学,動物行動学,考古学など多くの分野の研究者が関心を持っている。ヒトを対象とした脳科学では脳の損傷部位と患者の行動を調べる神経心理学が,道具使用についての多くの知見を蓄積してきた。神経心理学によると,ヒトの道具使用の能力は手や足で道具を器用に操作する能力と,道具の機能に関する意味概念(何のために使う道具かという知識)の二つの要素に分けられる1,2)。それぞれの要素を脳の場所と厳密に対応づけることは難しいが,最近,多数の脳機能イメージングの論文(35論文)を調べ,二つの要素に対応する脳の場所を総合的に調べた(メタ解析)研究が報告された3)。それによると運動前野と頭頂葉のネットワークは道具を操作する能力に関連し,下前頭回や中側頭回のネットワークは道具の意味概念に関連するという全体像がみえ,神経心理学で描かれてきた脳機能マップと概ね一致していた。また,サルに道具(熊手)を使ってエサを引き寄せることを長期的に訓練した研究では,訓練に伴い頭頂葉の神経細胞活動が変化することが確認されている(総説として文献4))。このような研究の流れの中で,大脳新皮質は常に脚光を浴びていたが,小脳はほとんど注目されることがなかった。しかし,小脳,特に外側部は道具の操作に必要とされる運動前野・頭頂葉と解剖的にも機能的にも密接な関係があり5-7),何らかの形で道具の使用に貢献していても不思議はないと考えられる。本稿では人間が新しい道具の使い方を学習するときの小脳活動を計測した研究を概説し,小脳がどのように道具使用に貢献しているのか考察する。
参考文献
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27)入來篤史:道具を使うサル,医学書院,東京,2004
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