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文献詳細

雑誌文献

生体の科学62巻6号

2011年12月発行

文献概要

特集 コピー数変異

コピー数変化を使った早期胃癌の進展リスク評価

著者: 杉原洋行1 仲山貴永1 向所賢一1

所属機関: 1滋賀医科大学 病理学講座 分子診断病理学部門

ページ範囲:P.541 - P.545

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 ここでは癌に関連した遺伝子コピー数の後天的な変化を扱うが,われわれはそれをgermlineでの多型とよく似た形で使っている。一般に癌の発生には遺伝子変化がランダムに蓄積する中で,特定の遺伝子セットに変化が出揃うことが必要で,それらが出揃った時点では他の多くの遺伝子変化が共存している。そのため,同じ種類の腫瘍であってもその中の任意の二つが全く同じ遺伝子構成を示すことはない。したがって,個人に固有のgermlineでの多型を親子鑑定に使うように,われわれは個々の腫瘍に固有の遺伝子コピー数変化のパタンを使って,腫瘍間で系譜がつながっているかどうかを推定することができる1)。また,個人の疾患発症リスクを個人に固有の遺伝子多型情報から解析するように,早期癌の進展リスクを個々の腫瘍に固有の遺伝子コピー数変化から評価することもできるのである。

 しかし,もし早期癌が常に進行癌の早期を反映しているのであれば進展は必然であり,そのような研究にあまり意味はないだろう。実際には胃癌のようなわが国に多い癌でも,早期で見つかるものと進行期で見つかるものとが同じ系譜に属しているかどうかは,まだよくわかっていない。かつて小児の神経芽細胞腫の早期発見のために,尿のスポットテストによるマススクリーニングが広く行われていた2)。しかしその後,マススクリーニングで乳児期に見つかる早期の神経芽細胞腫と,1歳以降に見つかる進行期のそれとの間で,染色体構成や予後が大きく異なることがわかった3)。神経芽細胞腫に関しては,早期がんと進行がんが系譜上不連続であるために,早期がんを減らしても進行がんが減らないことがわかり,このマススクリーニング事業は休止を余儀なくされ,現在に至っている。一方,肺の前癌病変(高度異型腺腫様過形成)と肺腺癌との間や,未分化型胃癌での早期癌(印環細胞癌)と進行癌(低分化腺癌)との間には系譜の連続性が示されている4,5)。ただ,胃癌全体としては,早期での治療が進んでいるにもかかわらず死亡数の減少はあまりみられないという6)。このことがどの程度,早期癌と進行癌との間の系譜の不連続性に関係するのかは興味深い問題である。ここでは,われわれがこれまで行ってきた胃癌のゲノムコピー数変化の解析を紹介し,早期胃癌の中のどのようなものが進展しやすい,あるいはしにくいのかについて考えてみたい。

参考文献

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21(suppl):83,2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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