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文献詳細

雑誌文献

生体の科学63巻2号

2012年04月発行

特集 RNA干渉の実現化に向けて

神経細胞遊走のメカニズム解明に向けたsiRNAの利用

著者: 瀧藤尊子1 広常真治1

所属機関: 1大阪市立大学大学院 医学研究科 細胞機能制御学

ページ範囲:P.83 - P.89

文献概要

 哺乳類の大脳皮質は異なる形態と機能を持つ神経細胞が6層からなる層構造をとる。それらの細胞ははじめからその場所で生まれるのではなく,側脳室に面した脳室帯(ventricular zone)と呼ばれる増殖層において神経前駆細胞から生成された神経細胞が,自身の細胞体長の何百倍もの距離を遊走(migration)して,遺伝的プログラムによって定められた大脳皮質内の位置に到達し,厳密に制御された6層構造を構築する1-3)。脳室帯から遊走を開始した神経細胞は,発生の初期に生じたものほど大脳皮質板(cortical plate)内で下の層に留まり,遅生まれの細胞ほど皮質板内で上の層へ到達する。これを“inside-outの原則”と呼び,哺乳類の中枢神経系の形成過程でみられる共通した発生メカニズムである。個々の神経細胞の遊走過程は,1)先導突起伸展,2)核・細胞質移動,3)後方突起収縮を繰り返して最終的に目的地に到着し,神経細胞のネットワーク形成を行う。したがって,神経細胞遊走にかかわる分子の変異は神経細胞の遊走障害,さらには中枢神経系の形成不全の原因となる。

 滑脳症(lissencephaly)は神経細胞の遊走障害によって起こる代表的な脳の形成不全であり4,5),脳の表面に脳回がなく平滑であることを特徴とする。病理学的所見としては,当初より正常6層である灰白質が本症患者では4層しかみられず,原因は主としてヒト染色体17番染色体上のLIS1遺伝子に異常を有する場合と6),X染色体にあるDCXの変異によるものがあり7),前者はLIS1遺伝子領域を含む染色体領域が欠失していることが多く,その場合,特有な顔貌を呈するためMiller-Dieker症候群(MDS)といわれる8)。なかでもLIS1の変異によって生じる滑脳症は研究が進んでおり,LIS1は微小管上を走るモータータンパク質である細胞質ダイニンの制御因子であることが明らかとなった9)。われわれは,LIS1が細胞質ダイニンを微小管上に固定しアイドリング状態にすることを明らかにし,細胞質ダイニンが微小管のプラス端に向かう移動に必須であることを証明した10)

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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