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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学63巻3号

2012年06月発行

雑誌目次

特集 細胞極性の制御

ニューロンの極性形成を概観する

著者: 船橋靖広 ,   中牟田信一 ,   難波隆志 ,   貝淵弘三

ページ範囲:P.152 - P.162

 神経細胞は通常1本の軸索と複数の樹状突起を有する高度に極性化した細胞である。樹状突起は神経伝達物質の受容体を介して受け取った情報を電気信号に変えて細胞体に伝え,軸索は軸索末端から神経伝達物質を放出し他の細胞へ情報を伝える(図1)。このように一つの方向性を持った情報の流れが神経細胞としての機能を成立させている。生体脳においては多数の神経細胞が複雑な神経ネットワークを構築し,情報の受容,統合,伝達を繰り返すことで学習,言語,情動といった高次機能を生み出している。しかしながら,いかにして軸索・樹状突起の運命が決定されるかは,最近まで殆ど理解されていなかった。本稿では,神経細胞の軸索形成を制御する分子機構について,われわれの研究結果や最近の知見を概説する。さらに,近年精力的に研究が進められている生体内での軸索形成機構について最新の研究結果を紹介したい。

樹状突起極性形成に関する最近の知見

著者: 藤島和人 ,   見学美根子

ページ範囲:P.163 - P.170

 ニューロンは軸索・樹状突起という機能的・形態的に異なる突起を形成する。樹状突起の分布,大きさ,枝分かれの密度は,そのニューロンが受ける入力の種類と数を決定する。また,樹状突起の幾何学的な分岐パターン自体がシグナル分子や膜電位の拡散や伝播に影響を与え,ニューロンの発火特性を制御する1)。正確な樹状突起パターンは神経ネットワークの行う情報処理の基盤であり,樹状突起の形成・維持の欠陥はダウン症,脆弱X症候群,Rett症候群など様々な精神疾患に付随する2)

 樹状突起の枝分かれ構造は複雑ではあるが,形成過程は単純なダイナミクス(伸長・枝分かれ・退縮)の繰り返しである。ニューロンは細胞種により個性的な樹状突起パターンを獲得するが,それぞれが固有のダイナミクスの均衡と積み重ねにより形作られると考えられる。

神経上皮細胞の頂底極性制御因子Crb・Moe複合体

著者: 大畑慎也 ,   岡本仁

ページ範囲:P.171 - P.176

 初期神経発生期における神経幹細胞である神経上皮細胞は,脳の内側(頂端/脳室側)から外側(基底/脳膜側)まで伸びる突起を持つ細長い細胞である(図1)。そして,細胞周期に応じて,その細胞核をエレベーターのように移動させ,核が脳室側に位置するときにだけ細胞分裂を行い,自己増殖あるいは神経細胞などへ分化する。機能的な神経系を構築するためには,神経上皮細胞が特定の位置で秩序を以って増殖することが必要不可欠であると考えられる。このような運動を可能にする神経上皮細胞の頂端(apical)-基底(basal)方向の空間的非対称性は,頂底極性(apicobasal polarity)と呼ばれる。頂底極性の形成・維持には進化的に保存された3種類のタンパク質複合体,1)Crumbs(Crb)・Mosaic eyes(Moe)複合体,2)Par複合体,3)Scribble複合体が必須の役割を果たす1)。しかしながら,どのような分子機構で神経上皮細胞が頂底極性を維持し,脳室側だけで細胞分裂をするのかは不明のままで,神経発生学上の中心的課題として残されていた。本稿では,Crb・Moe複合体による神経上皮細胞の頂底極性維持および細胞分裂位置を規定する分子機構に関する筆者らの最新の研究2)を紹介するとともに,今後の課題・展望を議論する。

Wntの細胞内平面極性シグナルによるRhoファミリーの活性化とアクチン細胞骨格制御機構

著者: 大橋一正 ,   辻拓史 ,   水野健作

ページ範囲:P.177 - P.182

 臓器や器官の形態形成において,構成する細胞集団は液性因子や細胞間接着因子によって細胞骨格構造が制御され,秩序立った運動や形態変化を行う。これには,細胞骨格構造が時空間的に変化して極性化することが重要である。上皮組織を構成する細胞は頂端側(apical)と基底側(basolateral)の軸に沿った頂底極性を持ち,組織の内外の区別をつけるとともに,頂底方向と直交する平面内にも細胞内平面極性(planar cell polarity:PCP)と呼ばれる極性を持ち組織や器官の形を決定している。細胞内平面極性は,ショウジョウバエの翅毛の生える向きが根本から先端にかけて同じ方向に生えていることからその概念が提唱された(図1)1)。これは,翅毛を生やす細胞が翅表面の細胞シート内で極性を持って並んでいることを意味する(図1)。また,ゼブラフィッシュやアフリカツメガエルの胚発生の研究から,原腸形成時の収束伸長(convergence extension)と呼ばれる個々の細胞が中心に向かって移動・集積することで中胚葉全体を伸長させる現象に,細胞内平面極性の制御が重要であることが示された(図1)2,3)。また,神経細胞の非対称分裂や移動,軸索・樹状突起の伸展やガイダンスにおいても細胞内平面極性は重要であることが明らかとなってきている(図1)4)

 このように,細胞内平面極性の制御は細胞の内部構造の非対称化を伴う細胞応答であり,細胞外からの液性因子や細胞接着によるシグナルを受けて細胞集団が協調的に秩序ある組織を作り上げていく過程における基本的な制御機構であると考えられる。本項では,細胞内平面極性形成において重要な細胞外シグナル分子であるWntに注目し,その細胞内シグナル伝達経路とアクチン細胞骨格を制御するRhoファミリーの活性化を中心に,その制御と機能を解説する。

軸索形成に必要なDLK-JNK経路と微小管制御

著者: 平井秀一

ページ範囲:P.183 - P.188

 個体を形成する細胞は様々な種類の極性を有するが,これらは恒久的なものではなく,組織形成や病変の過程でダイナミックに転換する。正常な組織形成の過程における細胞極性転換は種々の細胞極性の“形成と崩壊”の“タイミングとバランス”のうえに成り立つもので,細胞極性の異常を伴う様々な病変は,このタイミングとバランスが狂った結果として捉えることができるのではないだろうか。ここでは大脳皮質錐体細胞(投射ニューロン)の分化過程,特にその軸索形成の過程におけるJNKの役割を中心に,細胞極性転換を支える分子機構について考察する。

普遍的細胞極性制御システム:PAR-aPKCシステムの作用機構

著者: 鈴木厚

ページ範囲:P.189 - P.195

 様々な細胞の示す多様な“非対称性(極性)”が,進化的に保存されたPAR-aPKCシステムによって普遍的に制御されているという事実が確認されてから早や10年近くが経過する。見かけ上まったく異なる細胞の非対称性(極性)が,その本質的な部分で共通の分子基盤を持っていることを示したこの発見の意義は大きい。すでにこのPAR-aPKCシステム内部の作動原理の解明はほぼ終了しており,近年の研究の多くは,PAR-aPKCシステムが異なる細胞極性をいかに制御しているのか,その具体的な分子メカニズムの解明にその中心を移してきている。本稿では,PAR-aPKCシステムの作用機構に関する研究の今日的到達点を,われわれが主として研究してきた哺乳動物上皮細胞の極性形成・維持の機構を中心に概観したいと思う。

Rhoキナーゼによる上皮細胞頂端収縮の制御

著者: 石内崇士 ,   竹市雅俊

ページ範囲:P.196 - P.199

 動物の形態形成過程において,個々の細胞の形はダイナミックに変化する。この細胞形態の変化は秩序立った器官や組織の構築に重要であるだけでなく,細胞極性と関連することによってそれぞれの細胞が特有の機能を発揮することを可能にしている。アクチンや微小管といった細胞骨格は細胞形態と密接に関係するため,形態形成や細胞極性形成の分子機構を理解するうえで,どのような分子がどのようにして細胞骨格の構築・維持のために働いているのかを明らかにすることが重要である。低分子量Gタンパク質Rhoファミリーは特異的な標的タンパク質を介してアクチン細胞骨格を制御することが知られており,近年,Rhoファミリー分子を介したシグナル系の理解が進んでいる。本稿では,Rhoファミリー分子であるRhoの標的タンパク質として同定されたRhoキナーゼ(ROCK)を介した細胞形態,特に細胞頂端部収縮の分子機構について,最近の研究結果を紹介する。

微小管モータータンパク質GAKIN/KIF13Bによる神経細胞の極性制御

著者: 三木裕明

ページ範囲:P.200 - P.204

 神経細胞は軸索や樹状突起と呼ばれる特徴的な突起構造を介して結ばれた細胞集団ネットワークを組織し,情報の処理や統合を行う。このとき,樹状突起は神経細胞への「入力」を受け取って細胞体に伝え,それが十分な大きさに達する場合に細胞体から伸びた軸索が他の細胞へ刺激を「出力」する。つまり刺激情報は方向性をもって神経細胞を伝わっており,軸索・樹状突起の高度な極性化がそれを支える基盤となる。初代培養の海馬由来神経細胞を用いた研究から,未成熟な細胞突起集団から一つの軸索が選択される極性形成のプロセスが明らかとなり1),神経細胞はダイナミックな極性制御研究のモデルとしても用いられるようにもなった。貝淵らのグループによるCRMP2(collapsing response mediator protein 2)を用いた研究を皮切りとして2),神経細胞極性制御の分子レベルでの解析が急速に進み,Parファミリーなど進化的に保存された極性制御因子群が神経細胞の極性化に重要な役割を果たすことが明らかとなっている。神経細胞の極性化に関しては本誌別稿に詳しく述べられているが,本稿では特に極性制御キナーゼPar1と微小管モータータンパク質GAKIN/KIF13B(guanylate kinase-associated kinesin/kinesin superfamily 13B)の軸索形成における役割について概説する。

極性輸送とRas関連タンパク質Rab8

著者: 原田彰宏

ページ範囲:P.205 - P.211

背 景

 1.細胞極性とは

 小腸などの消化管の内腔の表面を覆う上皮細胞は方向性(極性)を持ち,腸の場合は内腔側(食物が通る側)をapical面,血管が走る側をbasolateral面と呼ぶ(図1)。この二つの面は接着帯(adherens junction),密着帯(tight junction),デスモゾームからなる細胞接着複合体によって仕切られ,apical面,basolateral面の細胞膜には異なったタンパク質が局在する。また,脳,脊髄の神経細胞も極性を持ち,電気刺激を送る側の軸索(axon),受け取る側の樹状突起(dendrite)からなる。これらaxon,dendriteも細胞膜に異なるタンパク質を持つ(図1)。

Ras変異上皮細胞と正常上皮細胞の細胞間相互作用

著者: 加藤洋人 ,   藤田恭之

ページ範囲:P.212 - P.217

 哺乳類におけるがん発生は,正常細胞内の複数のがん遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が蓄積することによって起こることが知られている。発がんの初期段階において,最初の変異は殆どの場合,正常上皮細胞層の一つの細胞に起こる。しかし,その際に正常上皮細胞と新たに生じた変異細胞の境界でどのような現象が起こるのかについては殆どわかっておらず,がん研究のブラックボックスとなってきた。ところが,正常上皮細胞と変異細胞の間で生じる相互作用によって様々な現象が誘起されることが,最近の研究で明らかになってきた。例えばRas変異細胞やSrc変異細胞が正常上皮細胞に囲まれると,変異細胞内の複数のシグナル伝達経路が活性化され,変異細胞は上皮細胞層の頂端(管腔)側へ弾き出されるように逸脱していく。また,正常上皮細胞とある種の変異細胞は生存を争い,変異細胞がアポトーシスによって細胞層から除外されていく。重要なことに,変異細胞のみを単独で培養したときには上皮細胞層からの逸脱やアポトーシスは起こらなかった。これは,周囲の正常細胞の存在が変異細胞のシグナル伝達や動態に大きな影響を与えうることを示している。同様の現象はゼブラフィッシュやマウスのin vivoモデルシステムでも観察された。この総説では,この新たながん研究分野を紹介し,これらの研究がどのように新規のがん予防・治療につながっていくか論説する。

 われわれの体内において,各々の細胞は隣接する細胞や環境から様々な情報を受け取り,それに対して適切に反応していくことにより,調和のとれた“細胞社会”を形成している。しかし,がんの初期段階でそれらの一つの細胞のがん遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が起こると,変異細胞は隣接した正常細胞と異なる形質を獲得し,“細胞社会”の規律正しい増殖・分化の和を乱し始めると考えられる。しかし,実際に新たに生じた変異細胞と周囲の正常細胞の間で何が起こるかについては現在のところ殆どわかっていない。正常細胞は隣接する細胞に起こった変化を認識することができるのだろうか。また,それに対応して何かアクションを起こすのだろうか。一方,変異細胞は周囲の正常細胞に何か悪さを始めるのだろうか。

上皮細胞の極性形成におけるクラシックカドヘリンおよびp120-カテニンの役割

著者: 鈴木信太郎 ,   藤原美和子

ページ範囲:P.218 - P.223

 多細胞生物は様々な機能を果たすためにいろいろな極性構造を有している。なかでも上皮組織における上下方向の極性は多細胞生物の示す代表的な極性の一つである。上皮細胞の極性形成には様々な分子が関与しているが,細胞間接着分子も重要であり,Ca2+依存性の細胞間接着タンパク質であるクラシックカドヘリン(以下カドヘリン)が重要な役割を果たしているものと考えられている。カドヘリンはもともと形態形成過程において中心的な役割を果たしている接着タンパク質として同定されたことから,これまで様々な角度から詳しい研究が行われてきている。その結果,カドヘリンの機能は単なる特異的な接着にとどまらず,タイトジャンクションやデスモソームなど他の接着構造体や上皮細胞の極性の形成・維持,さらには神経系の特異的ネットワークの形成などに関与していることが明らかにされている。しかし,これらの分子的作用機構は必ずしも十分解明されているわけではない。この総説では主に,上皮細胞の極性形成におけるカドヘリンおよびそこに結合するp120-カテニンの役割について概説する。

非古典的Wntシグナルによる極性と幹細胞性維持の制御

著者: 遠藤光晴 ,   南康博

ページ範囲:P.224 - P.228

 非古典的Wntシグナルは平面内細胞極性(planar cell polarity:PCP)経路とCa2+経路に大別され,β-カテニン依存的な古典的Wntシグナルと区別される。多様なWntシグナル伝達経路のなかで特定のシグナル経路が活性化されるメカニズムとしては,液性因子であるWntが結合する受容体の違いが関与することが明らかになっており,Rorファミリー受容体型チロシンキナーゼ(RTKs)はWnt5aの受容体として働くことでPCP経路を活性化し,形態形成などにおいて細胞の極性,運動などを制御する。一方で,RorファミリーRTKsは線虫からヒトまで種を越えて保存された構造を持っており,脳神経系での発現が共通する特徴であるが,脳神経系での機能については不明であった。本稿では,まずRorファミリーRTKsを介した非古典的Wntシグナルによる細胞極性制御について概説した後,最近明らかになった神経幹細胞の幹細胞性維持におけるRorファミリーRTKsの役割について,筆者らの最新のデータを紹介しながら解説する。

ピロリ菌CagAの発癌活性と細胞極性破壊

著者: 畠山昌則

ページ範囲:P.229 - P.235

 胃癌は部位別癌発生の第4位,部位別癌死亡の第2位を占め,毎年全世界で約70万人が胃癌で命を落としている。なかでも,日本・韓国・中国などの東アジア諸国は世界的にも胃癌発症が際立って高く,わが国では毎年10万人が新たに胃癌と診断され,約5万人が胃癌で死亡する状況が続いている。ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)はMarshallとWarrenによりヒト胃粘膜から単離された微好気性らせん状グラム陰性桿菌である1)。ピロリ菌は全世界人口の約半数の胃に持続感染していると考えられており,わが国におけるピロリ菌感染者は約6,000万人と推定されている。その発見を契機に,ピロリ菌は慢性胃炎ならびに消化性潰瘍の主たる原因として脚光を浴びてきたが,その後の大規模疫学調査およびスナネズミを用いたピロリ菌感染実験などを通して,胃癌発症におけるピロリ菌感染の役割に多くの注目が集まることとなった。こうしたなか,上部消化管の粘膜病変発症にかかわると考えられるピロリ菌病原因子の機能解析が精力的に進められてきた。これら一連の研究をもとに,現在では大多数のヒト胃癌はピロリ菌の持続感染を基盤に発症すると考えられるようになってきた。とりわけ,CagAタンパク質を産生するピロリ菌はCagA非産生ピロリ菌に比較してはるかに強い胃粘膜病変を惹起し,臨床疫学的に胃癌と最も密接に関連することが明らかとなってきた。本稿では,ピロリ菌CagAの病原生物活性を担う分子機構を概説するとともに,最近明らかにされたCagAによる上皮細胞極性破壊機構と上皮発癌におけるその意義について述べる。

連載講座 老化を考える・11

超高齢社会における高齢者の活用―生涯現役時代に向けて

著者: 笹島芳雄

ページ範囲:P.236 - P.242

 今日,わが国は人口高齢化の世界一の国である。人口に占める65歳以上の割合は23%(2010年)となり,ほぼ4人に1人近くが65歳以上であるという超高齢社会に到達した1)。人口高齢化に伴いさまざまな問題が噴出している。年金財政の悪化,独居老人の増加,高齢生活保護者の増加,要介護者や老々介護の急増,医療保険財政の悪化,高齢者医療の混乱などである。

 人口高齢化は今後も進行し,2020年には人口に占める65歳以上の割合は3割に達すると見込まれている。本稿では激増する高齢者,特に60歳台の活用を念頭において,高齢者雇用問題について考察することとする。

解説

足細胞の生化学

著者: 佐藤大輔 ,   廣瀬智威 ,   大野茂男

ページ範囲:P.243 - P.250

 腎臓の糸球体は腎臓の血液濾過機能の根幹を担うきわめて重要な小器官である。人工透析を必要とする末期腎不全に至る腎疾患の約7割は,糸球体の機能異常に起因する糸球体疾患が進行して引き起こされる1)。高齢化や生活習慣の変化などの要因により,わが国における人工透析患者数は増加の一途を辿り,人工透析の費用が国民の医療経済を圧迫する要因ともなっている2)。しかし,糸球体疾患の発症や進行の機序はいまだに殆ど不明であり,医療の観点からも国民医療経済の観点からも,その発症や進行の機序の解明と診断法・治療法の確立が強く望まれている。

 糸球体における血液濾過の主役は,糸球体毛細血管を覆う上皮細胞である足細胞が作るスリット膜であることがわかってきた。遺伝性の腎糸球体疾患の責任遺伝子の同定を契機として,スリット膜の構成因子やポドサイトの機能発揮にかかわる分子群の同定も大きく進んでいる。しかし,足細胞の形態維持やスリット膜の形成,維持を担う分子機構については,いまだに理解が進んでいない。

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次号予告/財団だより

ページ範囲:P.251 - P.251

あとがき

著者: 藤田道也

ページ範囲:P.252 - P.252

 30年前,細胞極性は形態学の分野の概念でした。その後,ナトリウムポンプの非対称分布の解明から始まって形質膜の分子的非対称性が常識化し,21世紀に入ると細胞極性の研究は細胞内部へ向かい,極性の生成・維持に関与するシグナル系・細胞骨格系とそれらの制御に関与するタンパク成分が研究の対象とされるようになってきました。さらに,分子細胞生物学分野の進歩として,形質膜の局所分化が起こる部位にはタンパク質合成のフルセットをもつアウトポストが形成される(さらにmRNAの定向性輸送が伴う)ことなどが確定されました。今後マイクロRNAの関与も明らかにされていくでしょう。

 細胞極性に関する論文数はこの2,3年爆発的増加を示しています。それには上記の分子的解明が,細胞極性の形成・維持機構のくずれと細胞の腫瘍化の関係にがん研究者の目を向けさせることになってきたことが大きい寄与をしているように思われます。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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