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文献詳細

雑誌文献

生体の科学63巻5号

2012年10月発行

文献概要

特集 細胞の分子構造と機能―核以外の細胞小器官 3.ゴルジ体

フコシル化の機序とがんにおけるその異常

著者: 傍嶋智明1 中川勉1 三善英知1

所属機関: 1大阪大学大学院 医学系研究科 機能診断科学講座

ページ範囲:P.418 - P.419

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 ●フコシル化とは

 細胞表面に存在する多くのタンパク質には糖鎖が付加されていて,それらの機能を制御する。多くの糖鎖のなかで,フコシル化(フコースによる糖鎖付加)はがんや炎症と最も関係が深い糖鎖修飾として知られてきた1)。フコシル化は糖鎖の末端に結合するルイス型と,N型糖鎖の根元に結合するコアフコース型に大別される。特に後者の生合成にかかわるα1-6フコース転移酵素(fut8)のノックアウトマウスの研究から,コアフコースは増殖因子の受容体機能に重要であることがわかった2)。フコシル化の制御にはフコース転移酵素だけでなく,ドナー基質であるGDP-フコースも重要である。

 GDP-フコースの合成経路にはde novo経路とsalvage経路の二つの経路が存在するが,細胞内ではほとんどがde novo経路を介してGDP-フコースが合成されており,その経路ではGDP-マンノースから2種類の酵素(GMDS,FX)の働きによりGDP-フコースが合成される(図A)。合成されたGDP-フコースはGDP-フコーストランスポータの作用により糖転移反応の場であるゴルジ体内へ輸送される。がんにおいてフコシル化が増加するメカニズムとして,それぞれのフコシル化関連遺伝子の発現上昇が報告されている。しかし一方で,GDP-フコースの合成にかかわるGMDSの遺伝子異常によってフコースが欠損した場合,がん細胞は免疫監視機構から逃れ,極めて悪性度の高い形質を持つこともわかった3)。そのメカニズムとしては,フコースの欠損によりTRAILやFasを介した細胞死に抵抗性となり,NK細胞からの監視を逃れるという。こうした一見相反するフコシル化の生物学的機能こそが糖鎖生物学研究の魅力であり,複雑に絡んだ糸を解くような感覚に似ている。

参考文献

143:725-729, 2008
102:15791-15796, 2005
137:188-198, 2009
281:29797-29806, 2006
11:2798-2806, 2012

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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