生体の科学63巻5号

2012年10月発行

特集 細胞の分子構造と機能―核以外の細胞小器官 8．膜小胞と封入体

封入体筋炎における核遺残物を含んだ空胞

著者： 中野智¹ 日下博文²

所属機関： ¹大阪市立総合医療センター 神経内科 ²関西医科大学 神経内科

ページ範囲：P.534 - P.535

　●封入体筋炎とは

　封入体筋炎は多発筋炎，皮膚筋炎と同じく骨格筋の炎症性疾患に分類される^1）。50歳以降に発症し，緩徐進行性で，典型的な例では手指筋と大腿四頭筋の選択的かつ著明な萎縮を示す。その発症には自己免疫学的機序が推定されているが，副腎皮質ステロイドなどによる治療に対する反応性が低いことが知られている。確定診断は筋生検で行われ，組織では多発筋炎と同様，筋線維周囲に細胞傷害性T細胞を中心とした炎症細胞浸潤像が見られる。加えて，縁取り空胞と呼ばれるヘマトキシリン-エオジン染色で青色すなわち好塩基性の物質により縁取りされた空胞が筋細胞質に存在する。好塩基性物質は空胞内に顆粒状に認められることもある。電子顕微鏡ではしばしば細胞質，ときに核にフィラメント構造の封入体が見られ，このことにより封入体筋炎の名称が与えられている。しかし，組織学的にはむしろ縁取り空胞が目立つ。本疾患は欧米では有病率が高く，治療抵抗性であることと合わせ，病態解明から治療に至る道が模索されている。

参考文献

1）Nakano S, Kusaka H：Idiopathic Inflammatory Myopathies-Recent Developments, Gran JT（ed）, pp143-162, InTech, Croatia, 2011

18：27-33, 2008

114：673-688, 2003

21：345-352, 2011

56：87-93, 2001