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文献詳細

雑誌文献

生体の科学64巻1号

2013年02月発行

文献概要

特集 神経回路の計測と操作

大脳抑制性神経回路の遺伝学的解析

著者: 谷口弘樹1

所属機関: 1マックスプランク・フロリダ研究所

ページ範囲:P.14 - P.23

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 大脳は動物の認知,行動,学習,記憶などの高次機能を担う最も重要な器官であり,また,その特殊機能を反映して高度に複雑で精緻な構造を示す。脳内には数百億もの神経細胞が存在し,それぞれの細胞は軸索を伸ばしシナプスを介して互いに結合し,神経回路網を構築している。ここで重要なことは,神経細胞はでたらめに相手を選び,神経結合を行うのではなく,決められた相手と適切な数,強度のシナプスを形成し,機能的神経ネットワークを作り上げているということである。この宇宙の神秘,複雑さにも負けず劣らない,生物進化の過程で得られた最高傑作とも言える脳の作動原理,構築原理を明らかにすることが神経科学に与えられた大きな課題である。

 大脳を構成する領域のうち,大脳皮質は人間を含む高等哺乳類で最も発達した構造であり,脳の高次機能を司る最上位中枢と考えられている。大脳皮質を構成する細胞は大きく分けて二種類存在する。一つはグルタミン酸を神経伝達物質として用い,結合相手の後シナプス部位で興奮性シナプス応答を引き起こす興奮性錐体細胞である。錐体細胞は長い軸索を伸ばし,大脳皮質内の層,領野間,もしくは大脳皮質-皮質外の脳領域間をつなぎ,情報の受け渡しを行っている。この細胞種は皮質全体の神経細胞のうち約80%を占めると言われている。他方,gamma-aminobutyric acid(GABA)を神経伝達物質として用い,軸索投射先の後シナプス部位において抑制性シナプス応答を引き起こす細胞群が,残りの20%を構成する抑制性神経細胞である。抑制性神経細胞は限局した範囲内に軸索を伸ばし,錐体細胞もしくは他の抑制性神経細胞を神経支配し,局所神経回路を形成している。抑制性神経細胞の機能として考えうる最も単純なものは,神経回路が過剰に活動しないよう興奮性入力とのバランスをとることである。したがって,抑制機能の欠陥はてんかんで見られるような神経回路が無秩序に過活動する状態になりうる1)。このような抑制性神経細胞のバランサー的役割は間違いなく重要な機能の一つであるが,より本質的役割は神経活動を時間的空間的に制御し,個々の神経細胞または神経細胞集団の活動にリズムやパターンを与えることにある2)

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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