特集 細胞接着の制御
遺伝子ZEB1による上皮細胞接着分子の発現と細胞増殖の制御
著者:
佐藤光夫1
長谷川好規1
所属機関:
1名古屋大学大学院医学系研究科 呼吸器内科学講座
ページ範囲:P.259 - P.264
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ZEB1(別名TCF8,δEF1,ZFXH1A)はZEB2(別名SIP1,ZFXH1B)と共にZEBファミリーを構成するzinc finger転写因子である。ZEB1により,多くの遺伝子が発現抑制もしくは一部は発現誘導される。ZEB1の主な働きとしては,接着分子であるE-cadherinを抑制することにより,上皮間葉細胞転換(epithelial to mesenchymal transition;EMT)を誘導するEMT誘導転写因子としての機能がある。EMTは当初,胎生期の組織,臓器形成を制御するプログラムとして発見されたが,後に創傷治癒,臓器線維化,癌の浸潤,転移にも関与することが明らかとなってきた1)。これらのEMTにおいて,ZEB1は中心的な役割を果たしている。特に癌においては抗癌剤抵抗性,癌幹細胞性など浸潤,転移以外の様々な悪性形質獲得にも寄与することが示されつつある2-9)。本稿では,特にZEB1による上皮細胞接着分子の発現と細胞増殖の制御についてわれわれの報告も含めた最近の知見を中心に概説する。