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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学64巻5号

2013年10月発行

雑誌目次

増大特集 細胞表面受容体

序にかえて

ページ範囲:P.381 - P.381

 増大特集「細胞表面受容体」をお届けします。一昨年,昨年と「細胞核-構造と機能」,「細胞の分子構造と機能-核以外の細胞小器官」など細胞構造と機能を特集した増大号を3回続けて編集してまいりましたが,本企画は今回の増大特集で一応の終止符を打つことになりました。

 「細胞の構造と機能」はかつて大流行したトピックスでした。その後,各小器官の構造と分子機能が多様な角度から微細に追求されるようになり,「小器官の構造と機能」といった大まかな把握の仕方は鮮度を失っていきました。本誌では,あえて温故知新とも言うべき方向で今一度小器官の微細構造と分子機能を取り上げましたが,その目標をかつてその概念が流行した時代以後の,しかも国内の研究による進展に光を当てるという企画の実現に置いてまいりました。

ヘッジホッグ受容体Ptch1の機能

著者: 元山純

ページ範囲:P.382 - P.383

 12回膜貫通型の膜蛋白質であるパッチド1(Patched1:Ptch1)は細胞表面にあるヘッジホッグ(Hedgehog:Hh)の受容体であり,膜蛋白質であるスムースンド(Smoothened:Smo)と共にHhシグナルの受容に必須である。Hhは分泌蛋白質であり,脊椎動物や無脊椎動物での発生や出生後の組織構築・維持に必須である。Hhシグナル伝達についての全般的な総説は最近発表されたので,ここでは脊椎動物のHhシグナル伝達の基本メカニズムとHh受容体Ptch1の機能について解説する1)

グリア細胞Na/Ca2+交換系の病態生理学的役割

著者: 田熊一敞 ,   吾郷由希夫 ,   松田敏夫

ページ範囲:P.384 - P.385

 細胞内カルシウムイオン([Ca2+i)は,細胞の生存・分化,膜興奮,シナプス活動など多様な生理機能に関与するセカンドメッセンジャーである一方で,過剰な[Ca2+i上昇は様々な病態発現に寄与することが知られている。細胞膜Ca2+輸送タンパク質の一つであるNa/Ca2+交換系(NCX)は,他の2種の細胞膜Ca2+輸送タンパク質(Ca2+チャネルおよびCa2+-ATPase)と異なり,細胞内外の両方向性にCa2+を輸送する能力を有しており,細胞膜を介したNa濃度勾配・電気化学的勾配に依存して,細胞外へのCa2+排出(順モード)と細胞内へのCa2+流入(逆モード)が切り替わることが知られている。また,NCXは他の輸送系タンパク質に比べてCa2+輸送能が大きく,[Ca2+i恒常性の維持において,より重要な役割を担うと考えられている1)

 筆者らはこれまでに,脳の主要グリア細胞であるアストロサイトにおけるNCXの存在を明らかとし,in vitro虚血-再潅流障害モデルでの遅発性アポトーシスにおけるNCXの病態的意義を明らかにしてきた1,2)

食塩感受性高血圧におけるβ2アドレナリン作動性受容体とナトリウム再吸収調節系(WNK4経路)

著者: 下澤達雄

ページ範囲:P.386 - P.387

 もし日本が100人の村であると高血圧患者が29人,糖尿病患者が6人,脂質代謝異常が17人程度になると言われており,高血圧患者が圧倒的に多いことがわかる。高血圧症は単一の要因からなるものでなく,その原因は様々で高血圧患者の90%以上は原因不明の本態性高血圧症と言われている。この本態性高血圧症は食塩摂取により血圧が上昇するタイプ,すなわち食塩感受性と食塩摂取により血圧が上昇しない食塩非感受性に大別できる1)。疫学調査からは食塩感受性高血圧は非感受性高血圧に比べ心血管予後が悪いこともわかっており2),食塩感受性の発症機序や診断法,より良い治療法の開発は急務と言える。なかでも発症機序については古くから研究されており,Guytonの圧利尿曲線理論(図1)が広く受け入れられ,圧利尿曲線の傾きを変える因子としてレニンアンジオテンシン系,交感神経といった体液性因子,あるいは加齢,各種遺伝多型候補が知られている。われわれは交感神経活動に着目して腎臓におけるナトリウム再吸収にかかわるチャネルの制御メカニズムを明らかにした3)

β2-アドレナリン作動性受容体のハプロタイプと脱感作 

著者: 高橋英気

ページ範囲:P.388 - P.389

 β2-アドレナリン作動性受容体(β2ADR)は肺では気道上皮や気道平滑筋などに分布し,交感神経終末や副腎髄質から分泌されるカテコラミンが結合して肺の生理機能の維持や種々の病態に重要な役割を発揮する。β2ADR刺激により細胞内c-AMPの上昇やKチャネルが活性化し,細胞内Ca濃度低下,protein kinase-A活性化,膜過分極を介して収縮した平滑筋が弛緩する。また,リンパ球などの炎症細胞ではIL-2やIL-6産生抑制,IL-2受容体発現抑制などを介し,炎症反応を抑制する。β2-アドレナリン作動薬(β2作動薬)には短時間作用型(short acting β2-agonist;SABA)と長時間作用型(long acting β2-agonist;LABA)があり,気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬物治療の主役を担っている。しかし,喘息患者がSABAを多用すると脱感作を起こし副作用や死亡率が増加すると報告され,β-agonist controversyと呼ばれ問題となった。その理由として,喘息の気道炎症により放出されたpro-inflammatory cytokinesによってβ2ARがダウンレギュレーションする一方で,β2作動薬自体が気道炎症を悪化させるため,薬理学的耐性や脱感作が起こり,さらに多量の薬を使用するという悪循環につながったことが考えられた1)。その後,β2ADRの遺伝子型によりβ2作動薬に対する脱感作の起こり方が違うという仮説に基づいて多くの実験や臨床研究がなされている。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系と網膜神経細胞死

著者: 廣岡一行

ページ範囲:P.390 - P.391

 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の研究は進み,RAA系は水電解質代謝や血圧調節に重要な役割を果たしていること,脳・心・腎の臓器障害に重要な役割を演じていることは臨床レベルでも確立しており,その病態生理および阻害薬の薬理学的機序に注目が集まっている。本稿では網膜神経細胞死(網膜障害)におけるRAA系の役割について,われわれの最近の研究成績を中心に述べる。

バソプレッシン受容体V1aR,V1bRの生理作用

著者: 中村和昭 ,   田上昭人

ページ範囲:P.392 - P.393

●V1aRとV1bR

 アルギニンバソプレッシン(AVP)は9アミノ酸残基からなる神経ペプチドで,視床下部室傍核および視索上核において産生される下垂体後葉ホルモンである。AVP受容体はV1a,V1b(V3)およびV2の三つのサブタイプに分類される。V1a受容体(V1aR)は血管平滑筋,肝臓,副腎,中枢神経系,子宮筋,血小板,腎臓に分布し,中枢神経系では特に中隔,大脳皮質および海馬に分布している。V1b受容体(V1bR)は下垂体前葉,大脳皮質,扁桃体,海馬,膵臓に分布している。V1aR,V1bRおよびV2RのいずれもGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり,V1aRおよびV1bRは三量体Gタンパク質Gqと共役し,イノシトール代謝回転とそれに伴う細胞内Ca2+濃度の変化がシグナル伝達機構である。AVPは同じく9アミノ酸残基からなる下垂体後葉ホルモンであるオキシトシン(OXT)と近縁のホルモンであり,両ホルモンは2アミノ酸のみ異なる。受容体間の相同性も高く,ヒトにおいてはAVP/OXT受容体間で42-55%の相同性を有する。さらに,受容体は種間において高度に保存されており,同一受容体の種間での相同性は90%を超える。ヒトにおいて,V1aR,V1bR,V2RおよびOXT受容体(OXTR)はAVPと同程度の親和性で結合する。一方,AVPの各受容体とOXTの結合は弱く,AVP受容体に対するOXTのKi値はOXTRに対するKi値の100倍あるいはそれ以上である。このようなリガンド間ならびに受容体間の高い相同性およびリガンド/受容体結合様式は,GPCRがどのようにそのリガンドおよび受容体ごとに特異な機能を発揮しているかを検討する良いモデルとして研究が進められてきた。これまでの検討から,AVP受容体の細胞外領域および膜貫通領域がリガンド-受容体の結合特異性に重要であることが示されている1)

 V1aR遺伝子欠損マウス(V1aR-/-マウス)およびV1bR遺伝子欠損マウス(V1bR-/-マウス)は,様々な表現系を呈し,その解析からV1aRおよびV1bRを介するAVPの新たな生理作用が明らかになってきている1)

バソプレシン2型受容体の突然変異に起因する疾患

著者: 佐々木成

ページ範囲:P.394 - P.395

●バソプレシン2型受容体(V2R)

 抗利尿ホルモンであるバソプレシンの受容体は3種類の異なったタイプ(V1a,V1b,V2)が存在し,7回膜貫通性のG蛋白質結合受容体(GPCR)スーパーファミリーに属し,互いに40-50%の相同性を示す。V2R蛋白質はアミノ酸371残基からなり分子量は40.5kDaである。N端は細胞外に,C端は細胞内に存在し,C端側には幾つかのリン酸化部位が存在する(図1)。V2Rは主に腎臓の集合管に存在し尿濃縮に必須の働きをする1)

 図2に示すように,バソプレシンは集合管主細胞の側底膜に存在するV2Rに結合し,V2RのC端側に結合するG蛋白質(Gs)を活性化する。活性化されたαサブユニット(Gαs)はアデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化し,細胞内cAMPを増加させる。そしてcAMPはプロテインキナーゼAを活性化させる。AQP2は腎集合管の管腔膜に特異的に存在する水チャネルであり,ここでの水透過性を決定している。AQP2はプロテインキナーゼAによって直接リン酸化される蛋白質であり,このリン酸化が引き金になってAQP2は細胞内の貯蔵小胞から管腔膜へ移動し水透過性を増加させ,尿濃縮を亢進させる2)

バゾプレッシン2型受容体とアクアポリンの内耳内局在

著者: 工田昌也

ページ範囲:P.396 - P.397

 細胞膜は脂質二重層からなり水の透過性は低い。そこで多くの水が細胞膜を透過するには,水チャネル(アクアポリン;AQP)が必要である。AQPは1992年に発見され,哺乳類では現在13種類のAQPアイソフォーム(AQP0-AQP12)が確認されており,水を選択的に透過させるclassical aquaporins(AQP1,2,4,5),水のほかにグリセリンや尿素などの小分子を透過させるaquaglyceroporins(AQP3,7,9,10),いずれにも分類されがたいunorthodox aquaporins(AQP6,8,11,12)の三つのグループに分けられている。その構造は細胞膜を6回貫通し,N末端とC末端は細胞内に伸びており,細胞内のloop Bと細胞外のloop Eは脂質二重層に入り込み,チャネルの透過路を形成し,その部分には,アスパラギン-プロリン-アラニンからなるNPAボックスが存在し,水の透過性を規定している。AQPは“チャネル”とは言え,水の透過は両方向に可能で,浸透圧や静水圧が原動力となり受動的に行われる。生体内で水の移動が盛んに行われる器官には,いずれかのAQPアイソフォームが分布していることが多い。

ケモカイン受容体の協働作用による効率的なリンパ球移動の誘導

著者: 小林大地 ,   宮坂昌之 ,   早坂晴子

ページ範囲:P.398 - P.399

 ケモカインは間質細胞,血管内皮細胞,上皮細胞,神経細胞,白血球などの種々の細胞から産生される低分子量塩基性分泌タンパク質であり,サイトカインの一種である。ケモカインは7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)を介して細胞内にシグナルを誘導する。特定のケモカインは特定のケモカイン受容体に選択的に結合し,ケモカインとケモカイン受容体の組み合わせにより,細胞応答性が調節される。免疫細胞や周囲の組織が発現するケモカインは恒常状態や炎症状態における免疫組織への免疫担当細胞動員調節に重要な役割を果たす。

 ケモカインの中ではCCL19,CCL21,CXCL12の三つがリンパ節および小腸パイエル板の特殊な血管である高内皮細静脈(high endothelial venule;HEV)の周囲や二次リンパ組織実質内に発現1)し,血管系から二次リンパ組織へのリンパ球移動に中心的な役割を果たす。CCL19/21はHEV内皮細胞を含むリンパ節のストローマ細胞により産生され,リンパ球に発現する受容体CCR7に結合する。一方,CXCL12はリンパ節の種々のストローマ細胞で産生され,リンパ球に発現するCXCR4に結合する。CCL19/21が二次リンパ組織で欠損するplt/pltマウスやCCR7欠損マウスでは,二次リンパ組織内でのT細胞減少や局在異常がみられる。CXCR4を欠損したリンパ球ではCCR7リガンド非存在下におけるリンパ節への移動効率が低下する1)

カンナビノイド受容体の視覚による制御

著者: 米田泰輔 ,   畠義郎

ページ範囲:P.400 - P.401

 遺伝情報によって大枠ができあがった神経回路は,周囲の環境や経験によって再編成を受ける。例えば発達期哺乳類において片眼からの視覚入力を遮断すると,その眼は弱視となり大脳皮質一次視覚野(V1)ニューロンは遮蔽眼に対する反応性が低下する。この眼優位可塑性と呼ばれる現象は,臨界期と呼ばれる発達中の一時期に強く観察される。近年この現象に,CB1カンナビノイド受容体(CB1)が必要であることが報告された1)

 内因性カンナビノイド(eCB)システムはポストシナプスからプレシナプスへと逆行性にシナプス伝達を抑制する調節系として知られおり,プレシナプスに存在するCB1が主な受容体として働く2)。eCBシステムはシナプス可塑性を含む多様な現象に関与し,発達期齧歯類のV1においては,CB1がⅡ/Ⅲ,Ⅴ層における興奮性シナプスでのシナプス長期抑圧(LTD)や,Ⅱ/Ⅲ層抑制性シナプスでのLTDへ寄与することが報告されている3,4)。LTDは眼優位可塑性と分子メカニズムを共有することが示唆されており,さらにCB1がⅡ/Ⅲ層の眼優位可塑性に必要であることも報告された1)。これら発達期可塑性への関与から,CB1発現は発達や視覚経験に伴い変化する可能性が考えられる。近年われわれの研究により,発達と視覚経験依存的なCB1発現制御機構が明らかになった5)

ETB受容体を介した視神経保護の可能性―炎症反応の観点から

著者: 奥英弘

ページ範囲:P.402 - P.403

●アストロサイトの活性化とEndothelin

 アストロサイトは視神経など中枢神経系を構成する主要なグリア細胞である。アストロサイトは神経伝達,細胞外環境の維持,血液脳関門の構成など神経機能維持に重要な作用を果たしている。様々な中枢神経傷害で活性化され,glial fibrillary acidic protein(GFAP)など,骨格蛋白質発現亢進に代表される形質変化を来す。

 反応性アストロサイトはintercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)やvascular cellular adhesion molecule-1(VCAM-1)などの接着分子を発現し,また,サイトカインやNGF,bFGFなどの神経栄養因子を分泌する。これらの反応は神経修復過程に重要な役割を果たすが,一方でneuro-inflammationを惹起する。反応性アストロサイトはミクログリア・マクロファージなどの炎症性細胞と共に,TNF-αや一酸化窒素などの細胞傷害性分子を分泌し,神経傷害を増強する側面を持ち,過剰な反応はグリア瘢痕を生じ,二次的な軸索障害につながる。Endothelin(ET)は血管収縮ペプチドとして発見されたが1),神経ペプチドとしても機能し,特にアストロサイトの活性化に深く関与している。

GABA受容体シナプスシグナル伝達と自閉性障害

著者: 神保恵理子 ,   桃井隆 ,   桃井真里子

ページ範囲:P.404 - P.405

 自閉性障害の特徴的な症状は社会行動性の異常,常動性行動である。脳発達障害である自閉性障害の発症には,遺伝的要因が関与する。われわれの解析や各国で行われている大規模な病因候補遺伝子解析により,自閉性障害患者において,シナプス機能に関連する遺伝子の異常が報告されている。本稿ではシナプス接着蛋白質CADM1の遺伝子変異を伴う自閉性障害とGABA受容体との関与について述べる。

グルカゴン受容体とグルコースによる発現調節―転写因子ChREBPを介した経路

著者: 飯塚勝美 ,   武田純

ページ範囲:P.406 - P.407

 グルカゴンは膵α細胞から分泌されるペプチドホルモンであり,糖新生やグリコーゲン分解の促進,脂肪細胞での脂肪分解といった絶食時における血糖維持作用が知られている。それ以外にも消化管蠕動運動の抑制作用,熱産生の亢進作用,食欲抑制作用などが挙げられる。

 健常人では血中のグルカゴン濃度は空腹や低血糖時に高く,摂食による血糖上昇と共に速やかに低下する。一方,糖尿病になるとインスリン分泌が低下して血糖値が上昇しているにもかかわらず,グルカゴン分泌は抑制されておらず,奇異性分泌は食後血糖の上昇にも関与する1)。したがって,グルカゴン分泌およびグルカゴン作用を低下させることは糖尿病患者の血糖値を低下させるのに合理的な治療法であろう。実際,臨床で汎用されているインクレチン薬の作用には,グルカゴン分泌抑制がある。また,代表的な糖尿病治療薬であるメトホルミンはインクレチン分泌増強に加えて,肝臓におけるグルカゴン受容体経路を抑制し,空腹時血糖を低下させる作用が最近明らかにされた2)。したがって,グルカゴン受容体経路の解明は糖尿病の病態解明だけでなく,拮抗薬の開発も含めて創薬の観点からも重要である。

グレリン受容体(GHS-R)とアンタゴニスト

著者: 上野真吾 ,   坂田一郎 ,   坂井貴文

ページ範囲:P.408 - P.409

●グレリン(ghrelin)とは

 グレリンは1999年に単離・同定された28アミノ酸残基からなるペプチドホルモンであり,3番目のセリン残基が中鎖脂肪酸で修飾された特徴的な構造をしている1)。グレリンは胃で最も多く産生されるが,他の消化管や膵臓,下垂体,そして生殖腺などで発現していることも報告されている。グレリンは成長ホルモン分泌亢進,消化管運動調節,血糖値調節,体温調節など様々な生理作用を有するが,なかでもグレリンの摂食亢進刺激作用は強力であることや唯一の末梢から分泌される摂食亢進ホルモンであることから,研究が盛んに進められている2)。胃から分泌されたグレリンは摂循環血中を介して間脳視床下部に直接作用し,NPY/AgRPニューロンを活性化することによって摂食を刺激する。このほかにも胃グレリン産生細胞の近傍に存在する求心性迷走神経末端に発現しているグレリン受容体に結合して,シグナルを中枢へ伝えることによって最終的にNPY/AgRPニューロンを活性化して摂食を刺激する経路も存在する。血中グレリン濃度は絶食による交感神経系の興奮で上昇し,摂食により速やかに減少することが明らかとなっている。

長鎖脂肪酸受容体GPR40(FFAR1)とその機能

著者: 徳山尚吾

ページ範囲:P.410 - P.411

●GPR40(FFAR1)とは

 遊離脂肪酸(free fatty acids;FFAs)は,生体にとってエネルギー産生や細胞膜構成成分として必須の栄養素であり,細胞内の様々な機能調節におけるシグナル分子としても重要な役割を果たす。近年,オーファンG蛋白質共役型受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)のリガンド探索によって,FFA受容体(FFA receptor;FFAR)ファミリーの存在が明らかになってきた。これらの受容体の中で,GPR41(FFAR3)およびGPR43(FFAR2)は短鎖脂肪酸によって活性化され,GPR84は中鎖脂肪酸によって活性化される。さらに,GPR40(FFAR1)およびGPR120は食餌由来の脂質から取り込んだ中鎖と長鎖の脂肪酸に対して高い親和性を示し,それらが結合することによって活性化される7回膜貫通型のGPCRの一つである1)。GPR40(FFAR1)は膵臓β細胞に高発現しており,インスリン分泌を調節することが明らかになっており,脂肪酸シグナルの新しいターゲット因子として糖脂質代謝の恒常性維持あるいは糖尿病,脂質代謝異常における生理的・病態生理学的役割が注目されている2)。一方,GPR40(FFAR1)は末梢部位に加え,中枢部位においても幅広く発現していることが,ヒトやサルを用いた実験で確認されており,神経新生や記憶に関与するとの報告がある。われわれもGPR40(FFAR1)がマウスの脳内各部位において存在することを明らかにし,GPR40(FFAR1)を介した新たなる疼痛制御機構についての検討を加えている。

G蛋白質共役型受容体119(GPR119)の組織発現と創薬の展望

著者: 冨田努 ,   細田公則 ,   小鳥真司 ,   藤倉純二 ,   中尾一和

ページ範囲:P.412 - P.413

 近年,リガンドが不明なオーファン受容体として同定されたG蛋白質共役型受容体119(GPR119)が細胞内cAMP濃度上昇と関連し,膵島でインスリン分泌増強に関与する可能性が報告された。さらに,GPR119のリガンドが内因性脂質であるオレオイルエタノールアミド(OEA)であると報告され,OEAは摂食抑制との関連が知られていたことから,GPR119の臨床的意義が注目されてきた。GPR119は膵臓,消化管の内分泌細胞で高発現が示唆され,インスリンおよびインクレチンなどの分泌増強を介した機構を想定して,糖尿病・肥満治療での新規標的として種々のGPR119アゴニストが開発されつつある。GPR119は,近年臨床応用されたインクレチン関連薬の標的,グルカゴン様ペプチド-1受容体(GLP1R)と同様にGs共役型受容体だが,GLP1Rとは違い経口可能な低分子アゴニストの開発が容易と考えられている。本稿ではGPR119の遺伝子発現を中心に論じ,さらにその機能,低分子GPR119アゴニストの薬理作用の知見を紹介したい。

アミノ酸活性化GPCRによるインクレチン分泌制御機構

著者: 大屋愛実 ,   坪井貴司

ページ範囲:P.414 - P.415

●消化管における栄養素の感受機構

 消化管は摂取した食物を消化し,栄養素を吸収する器官である。その一方で他臓器の機能を制御するホルモンを分泌する。インクレチンとは食物摂取に伴い消化管から分泌され,膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンである。これまでにglucose-dependent insulinotropic peptide(GIP)とglucagon-like peptide-1(GLP-1)の二つがインクレチンとして機能することがわかっている。具体的にはGIPは上部小腸に存在する小腸内分泌K細胞(以下,K細胞)から,GLP-1は下部小腸に存在する小腸内分泌L細胞(以下,L細胞)から分泌される。このK細胞およびL細胞は開放型の内分泌細胞であり,小腸粘膜の基底膜上に存在する。頂部は小腸管腔側にまで達しており,その頂部を覆う微絨毛が管腔側の栄養素を感受するような構造をしている。

 これまでの研究から,糖および脂質を中心とした栄養素がインクレチンの分泌因子であることがわかっている。L細胞においてはナトリウム依存性グルコーストランスポーター(sodium dependent glucose transporter 1;SGLT-1)を介したグルコースの細胞内流入とATP感受性Kチャネルの閉口が,糖依存性GLP-1分泌を制御する。しかし,非代謝性糖類でもGLP-1分泌を引き起こす可能性があることから,Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)の一種である甘味受容体(Tas1R2とTas1R3のヘテロダイマーで構成される)のGLP-1分泌への関与も示唆されている。脂質に関してはGPCRの一種であるGPR40(長鎖脂肪酸受容体,またはFFAR1とも呼ばれる),GPR119およびGPR120がGLP-1分泌を制御していることがわかっている。このように,3大栄養素のうち,糖と脂質のL細胞における感受機能については解明が進んでいるが,アミノ酸の感受機構については不明な点が残されている。そこで本稿ではアミノ酸を感受することによって活性化するGPCRを介したL細胞におけるGLP-1分泌機構について概説する。

代謝調節型グルタミン酸受容体の活性化によるNMDA受容体サブユニットのチロシンリン酸化促進

著者: 高木教夫

ページ範囲:P.416 - P.417

●グルタミン酸受容体

 グルタミン酸は脳の主要な興奮性神経伝達物質であり,記憶や学習などの脳高次機能の発揮に深く関与している。神経伝達物質グルタミン酸は,このような生理学的に重要な機能を担う一方,脳梗塞やアルツハイマー病などに限らず種々の精神疾患の病態にもかかわると考えられている。それら多様な情報伝達を担う受容体はイオンチャネルを内在するイオンチャネル型受容体とGタンパク質に共役する代謝型受容体に大別され,翻訳後修飾やタンパク質相互作用により受容体機能が精密に制御されている。

分子シャペロンGRP78による黄体化ホルモン受容体発現調節

著者: 小暮佳代子 ,   中村和人 ,   峯岸敬

ページ範囲:P.418 - P.419

 分子シャペロンの一つであるGlucose-Regulated Protein, 78kDa(GRP78)は小胞体(ER)内に存在し,タンパク質の成熟に関与することが知られている。これまでにGRP78がER内でゴナドトロピンレセプターに働きかけて,その成熟に関与するとの報告があったことから1),われわれはGRP78がLHレセプター(LHR)の発現調節に関与するかどうかについて検討した。

 初めにLHRを恒常的に発現しているHEK293 cellに,GRP78をクローニングした発現ベクターをトランスフェクションすることにより,GRP78の発現量を変化させた。その結果,GRP78発現量が増すにつれてGRP78とLHRのアソシエーションが増加し,また,LHRの細胞内のタンパク量も増加した(図1A)。この現象はすべてのレセプターに当てはまるものではなく,FSHレセプターに対してはむしろ減弱させる結果となった(図1B)。さらにわれわれはGRP78による細胞内LHRタンパク発現の変化が細胞膜表面の機能的なLHRの発現につながることを確かめるために,ビオチン化の実験を行って確認した。

嗅覚受容体の機能解析

著者: 白須未香 ,   東原和成

ページ範囲:P.420 - P.421

●嗅覚受容体

 1991年BuckとAxelによって,数百~千種類もの多重遺伝子族としてラットの嗅上皮から発見された嗅覚受容体は,90年代後半にかけて実際に匂いの受容を担うことが証明された1)。嗅覚受容体は平均して約310アミノ酸からなるGタンパク質共役型受容体(GPCR;G-protein coupled receptor)で,嗅神経細胞膜上に7回膜貫通型の構造をとる。そのうちの3~6番目の膜貫通領域に存在する疎水性アミノ酸が空間的なポケットを形成して,嗅粘液中に溶け込んだ匂い物質と疎水的相互作用によって結合すると考えられている。匂い物質が受容体に結合すると,細胞内のGタンパク質Gαolfを介して,アデニル酸シクラーゼⅢ(ACⅢ;adenylate cyclase Ⅲ)が活性化し,cAMP濃度の上昇が起こる。上昇したcAMPによってCNGチャネル(CNG channel;cyclic nucleotide-gated channel)が開き,細胞内へNaやCa2+の流入が起こり,細胞が脱分極を起こす。さらに流入したCa2+は,Ca2+活性化型Cl-チャネル(CDC channel;calcium-dependent chloride channel)を開口させてCl-を細胞外へ流出させ,嗅神経細胞により大きな脱分極を引き起こし,活動電位が発生する。このように匂い情報は電気的信号へと変換され,嗅神経細胞の軸索を介して一次中枢である嗅球に伝達される1)

TRHおよびPACAP type Ⅰ(PAC1)受容体とプロラクチン産生

著者: 金﨑春彦 ,   宮﨑康二

ページ範囲:P.422 - P.423

 プロラクチンは下垂体前葉のプロラクチン産生細胞(ラクトトローフ)で合成・分泌される。プロラクチンは主としてドーパミンにより抑制的制御を受けて調節されており,乳腺を発育させ授乳期の乳汁分泌を促進するほか,産褥期の排卵を抑制する。また,黄体機能維持や着床促進,免疫に関する機能などを持つとされるが,それらの生理的意義に関しては不明な点が多い。妊娠期,産褥期以外の時期にプロラクチンが過剰に分泌される病態が高プロラクチン血症であり,無月経をはじめとする月経異常や乳汁分泌が生じ,排卵障害に伴う不妊症の原因にもなる。治療にはドーパミンD2受容体アゴニストが用いられる。

 ドーパミンが下垂体プロラクチン産生におけるプロラクチンの合成・分泌を抑制的に制御するのに対し,数々の視床下部因子がプロラクチン放出促進物質として挙げられている。このうちthyrotropin-releasing hormone(TRH)とpituitary adenylate cyclase-activating polypeptide(PACAP)は共にプロラクチン合成・分泌に促進的に作用する視床下部因子である。本稿ではこの二つのペプタイドおよびその受容体であるTRH受容体,PACAP type Ⅰ(PAC1)受容体のプロラクチン産生細胞における機能について概説する。

プロテアーゼ活性化受容体PAR-2の局在と活性化

著者: 大島忠之 ,   単晶 ,   三輪洋人

ページ範囲:P.424 - P.425

●PAR受容体

 Protease activated receptor(PAR)はGタンパク質共役7回膜貫通型受容体スーパーファミリーに属し,プロテアーゼによって特異的に活性化されるユニークな受容体として1991年に発見された1)。一般的に受容体は外因性のリガンドが結合することで活性化されるが,PARでは細胞外N末端がプロテアーゼにより特定部位で切断されることにより新たなN末端が露出し,このN末端が内因性のリガンドとしてその受容体の細胞外ドメインに結合することで活性化される(図1)。PARにはPAR1からPAR4までのサブタイプがあり,PAR1,PAR3,PAR4はトロンビンによって活性化される。一方,PAR2はトロンビンでは活性化されず,トリプシン,肥満細胞由来トリプターゼ,活性化好中球由来プロテアーゼ3,膜結合型セリンプロテアーゼ1などの内因性酵素によって活性化される。また,トリプシンはPAR2のみではなく,PAR4のアゴニストでもある。

脊椎動物の排卵にかかわるプロスタグランジン受容体サブタイプEP4bの役割

著者: 萩原茜 ,   荻原克益 ,   高橋孝行

ページ範囲:P.426 - P.427

 プロスタグランジン(PG)は哺乳類の排卵,黄体の退縮,着床,妊娠の維持,出産などにかかわることが知られており,PGの作用が十分に発揮されない状況では生殖活動に重大な影響がもたらされることになる。

 アラキドン酸から合成されるPG類は,ロイコトリエン類やトロンボキサン類と共に,プロスタノイド類と呼ばれる。PG類にはPGF,PGI2およびPGE2がある。これらのPG類はアラキドン酸からサイクロオキシゲナーゼ(COX)の作用によりPGG2が産生される第一段階の反応と,次に,このPGG2を基質として,それぞれのPGに特異的な合成酵素がかかわる第二段階の反応を経て合成される。これらのPG類(PGF,PGI2およびPGE2)のほかにPGE1の存在も知られている。PGE1はアラキドン酸ではなく,ジ-ホモ-γ-リノレン酸を出発物質として合成されるPGである。哺乳類の生殖機能との関連で活発に研究されてきたPG類はPGE2およびPGFである。黄体形成ホルモン(LH)サージによって誘起される卵胞の卵丘細胞-卵複合体(cumulus-oocyte complex;COC)の拡張とそれに続いて起こる排卵に,いずれのPGE2とPGFが関与するかは種によって異なる。マウス,ラット,ウサギではPGE2が,ブタやヒツジではPGFが,それぞれ主たる役割を果たしていると思われる。PGの作用が発揮されるためには特異的な受容体が細胞表面に表現されることが必要である。哺乳類の生殖器官に発現するPG受容体として,PGE2に対する受容体4種(EP1,EP2,EP3およびEP4)とPGFに対する受容体2種(低親和性タイプと高親和性タイプ)が知られている2)。COX-2遺伝子とPGE2受容体EP2遺伝子の欠損マウスの解析から,LHサージによって卵胞に誘起されるCOCの拡張のプロセスにPGが重要な役割を果たしていることが明らかになった。

スフィンゴシン1-リン酸受容体シグナリング

著者: 北野将康 ,   関口昌弘 ,   佐野統

ページ範囲:P.428 - P.429

 スフィンゴシン1-リン酸(Sphingosine 1-phosphate;S1P)は脂質代謝の過程で産生されるリゾリン脂質性メディエーターの一つで,細胞内でセカンドメッセンジャーとして作用するほかに細胞膜表面のG蛋白質共役型受容体(GPCR)を介して種々の細胞での増殖,分化,遊走やアポトーシスなどの多彩な細胞応答を引き起こす。近年,S1PはS1P受容体を介して血管新生,腫瘍新生,自己免疫や炎症などの病態形成に密接に関与することが明らかにされている。本稿ではS1P/S1P受容体シグナルと自己免疫疾患である関節リウマチ(RA),シェーグレン症候群(SS)の病態における関与を中心に筆者らの研究成果をもとに概説する。

霊長類苦味受容体の多様化

著者: 今井啓雄 ,   筒井圭

ページ範囲:P.430 - P.431

 2000年以降にうま味受容体(TAS1R1/TAS1R3),甘味受容体(TAS1R2/TAS1R3)などの一連のGPCR型受容体ファミリーに属する味覚受容体が発見された。味覚の中でも毒物などの生理活性物質を検知するために重要な苦味はTAS2Rsという遺伝子群によってコードされている1)。ヒトゲノム中ではTAS2Rは主に7番と12番染色体に位置し,合計25個の遺伝子と10個あまりの偽遺伝子が報告されている。最近のゲノム研究の進展により個体別の遺伝子解析が進むと,TAS2Rの変異にも個人差・地域差が存在し,味覚の個人差に影響を与えている可能性が示唆されてきた。また,これらの変異部位を手がかりに,苦味物質の結合部位についても解析が進んできている。有名なのはTAS2R38の遺伝子型とフェニルチオカルバミド(PTC)の受容能の相関で,3か所のSNPが関与していることがわかってきたが,分子メカニズムは不明なままである。

 TAS2RはGα-gustducinと共役し,PLCβ2,TRPM5などを介して細胞内Ca2+イオンの上昇を引き起こす。そのため,TAS2Rの機能解析には,主にHEK293細胞でgustducinのC末端44残基を用いたG16/gust44との共発現によるカルシウムイメージング法が用いられ,ヒトのTAS2Rについては天然・人工の化合物との網羅的な相関が見いだされつつある1)

甘味タンパク質ソーマチンと甘味受容体との応答特性

著者: 桝田哲哉 ,   谷史人

ページ範囲:P.432 - P.433

●甘味タンパク質ソーマチン

 ソーマチン(タウマチン)は西アフリカ原産の植物の果実から抽出される207個のアミノ酸残基からなる一本鎖タンパク質である。ヒトの甘味閾値は50nMであり,ショ糖に比べてモル比で10万倍と非常に強い甘味を呈する。ソーマチンには五つのバリアントが存在し,ソーマチンⅠ,Ⅱが構成成分の大半を占める。結晶化のモデルタンパク質としても用いられ,筆者らも近年,1Åの高分解能でソーマチンの構造を決定することに成功した。ソーマチンは三つのドメインからなる(図1)。ドメインⅠは典型的な11個のβ-ストランドで構成され,残りの二つのドメインはジスルフィド結合に富むドメインⅢとドメインⅡからなる1)。筆者らは酵母の発現系を用いて部位特異的変異体を作製しソーマチンの甘味発現部位について解析を行い,クレフト部位を含む面に存在する複数の塩基性アミノ酸残基,とりわけ67番目のリジン残基,82番目のアルギニン残基がソーマチンの甘味発現に重要な役割を果たすことを明らかにした2)

第5の脳下垂体後葉ホルモン受容体:V2bR

著者: 兵藤晋 ,   山口陽子 ,   海谷啓之 ,   今野紀文

ページ範囲:P.434 - P.435

●新規受容体V2bRの発見

 バソプレシンのV2型受容体は,哺乳類をはじめとする陸上脊椎動物の腎臓において水の再吸収に必須であり,その異常は腎性尿崩症という深刻な疾患を引き起こす。バソプレシンが抗利尿ホルモンと言われるゆえんであり,脊椎動物が陸上生活に適応できた理由の一つである。ではV2型受容体はいつどのようにして生じ,その機能を獲得してきたのだろうか? この謎を解き明かすべく,われわれは肺魚やメダカといった硬骨魚類1),さらには軟骨魚類のゾウギンザメを用いてバソトシン(バソプレシンと相同な分子で,哺乳類以外の脊椎動物が持つ)受容体の研究を行ってきた。その過程で第5の脳下垂体後葉ホルモン受容体であるV2bR(Rは受容体の意)を発見した2)

 ゾウギンザメでは5種類の後葉ホルモン受容体遺伝子を見いだし,構造ならびに細胞内情報伝達系の解析から,そのうちの3種類がオキシトシン受容体,V1aR,V1bRであることがわかった。残りの2種類は分子系統解析からV2型受容体と推測されたが,CHO細胞に受容体を発現させてバソトシンを作用させたところ,V2型受容体の特徴であるcAMPではなく,V1型受容体の特徴である細胞内Ca2+濃度が上昇するという予想外の結果であった。硬骨魚類のメダカでも相同な受容体を発見し,機能解析で同様の結果を得た。メダカにはcAMPをセカンドメッセンジャーとするV2型受容体が別に存在する1)。他の動物でのオーソログの検索,分子系統解析,さらには周辺遺伝子構造を比較するシンテニー解析により,今回発見した受容体がV2型受容体に近縁な新規受容体であることを証明し,既知のV2型受容体をV2aR,新規受容体をV2bRと呼ぶこととした(図1)2,3)

温度受容体TRPチャネル

著者: 富永真琴

ページ範囲:P.436 - P.437

 TRP(transient receptor potential)チャネルはショウジョウバエの光受容器異常変異株の原因遺伝子として同定され,現在,七つのサブファミリー(TRPC,TRPV,TRPM,TRPML,TRPN,TRPP,TRPA)に分けられている。一つのサブユニットは六つの膜貫通領域とイオン流入のポアを形成する領域を持ち,四量体で機能的なチャネルを形成すると考えられている(図A)。ヒトではTRPNを除く六つのサブファミリーに27のチャネルが存在する。

 最初の温度受容体TRPチャネルであるカプサイシン受容体TRPV1の1997年の発見以降,16年間で九つのTRPチャネル(TRPV1,TRPV2,TRPV3,TRPV4,TRPM2,TRPM4,TRPM5,TRPM8,TRPA1)に温度感受性があることが示された。2011年にはTRPM3の温度感受性も報告された。これらはTRPV,TRPM,TRPAサブファミリーにまたがっており,それぞれの活性化温度閾値は最も低いTRPA1(17℃以下)から最も高いTRPV2(52℃以上)まで幅広い(図B)。43℃以上の高温刺激と15℃以下の低温刺激は痛みを惹起することから,その温度域に活性化温度閾値があるTRPV1,TRPV2,TRPA1は侵害刺激受容体としても捉えうる。温度受容体TRPチャネルの大きな特徴は,温度以外にも多くのリガンドや他の物理刺激に応答する“多刺激受容体”として機能することである2-5)

血球貪食症候群とCD47の発現低下

著者: 竹中克斗 ,   赤司浩一

ページ範囲:P.438 - P.439

 免疫監視機構において,自然免疫系のマクロファージは異物や老化した細胞,傷害を受けた細胞を認識し,貪食によって除去する主要な免疫監視機構の一員である。近年,マクロファージの貪食を負に制御するメカニズムが明らかにされ,注目を集めている。この制御機構は,マクロファージ上に発現する受容体SIRPA(signal regulatory protein alpha)と,ほぼすべての細胞に発現するリガンドCD47がその役割を担っている。SIRPA-CD47系は生体内で“marker of self”あるいは“don't eat me”シグナルとして,マクロファージによる貪食を回避する役割を担っている1,2)。白血病造血幹細胞や固形癌細胞はマクロファージの貪食による免疫監視機構を逃れるため,CD47を高発現させていることが報告されている3)。このように,SIRPA-CD47系シグナルのバランスの変化はマクロファージによる免疫監視を破綻させ,種々の病態を引き起こすことが予想される。本項ではCD47発現低下と血球貪食症候群について概説する。

原子間力顕微鏡で捉えたNMDA受容体の動態

著者: 鈴木勇輝 ,   竹安邦夫

ページ範囲:P.440 - P.441

●グルタミン酸受容体

 グルタミン酸は哺乳類の中枢神経において,基本的かつ重要な神経伝達物質である。現在,高等動物の中枢神経系における速いシナプス伝達の大部分はグルタミン酸作動性であると考えられている。グルタミン酸受容体はイオンチャネルの開口によって情報伝達を行うイオンチャネル型(iGluR)と細胞内セカンドメッセンジャーに共役した代謝型(mGluR)とに大別され,前者はさらにアゴニストの選択性に基づいて,NMDA型とnon-NMDA型(AMPA型,K型)に分類される。NMDA受容体は他のiGluRと異なる特徴を有している。non-NMDA型受容体がKやNaを透過するのに対し,NMDA受容体は高いCa2+透過性を示す。さらにNMDA受容体は細胞外のMg2+によりチャネル活性が阻害され,その活性化にはMg2+の除去に加えてグルタミン酸とグリシンという2種のリガンドの結合が要求される。non-NMDA型受容体が通常の速い興奮性シナプス伝達に働いているのに対し,NMDA受容体は記憶・学習の基礎的現象であるシナプス可塑性に中心的役割を果たしている。NMDA受容体は脳虚血,ハンチントン病,パーキンソン病,アルツハイマー病などの病態時における神経細胞死にも深く関与していることが示唆されており,治療薬のターゲットとしても注目され,その構造と作動機構の理解が求められている。

NMDA受容体に対する自己免疫抗体

著者: 筒井幸 ,   神林崇 ,   田中恵子 ,   清水徹男

ページ範囲:P.442 - P.443

●抗NMDA受容体脳炎の発見

 抗NMDA受容体脳炎は2007年,「抗NMDA受容体抗体を有する卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍性脳炎」としてDalmauらによって提唱された1)。若年女性に多く認められ,腫瘍を伴う際は卵巣奇形腫の割合が高いことが知られているが,最近は非腫瘍随伴例のほうが多いと認識されつつある。発熱や頭痛などの非特異的な感冒様症状の後,統合失調症の緊張型の初発を想定させる精神症状を呈する。その後,病期が進むにつれ,意識障害や中枢性の低換気,不随意運動,激しい自律神経症状などの様々な身体症状を生じる。Dalmauらは本疾患の成因が抗Hu抗体などを代表とする古典的な細胞内抗原に対する抗体ではなく,神経細胞の表面抗原抗体(抗NMDA受容体抗体)であることを突き止めた1)

ATP受容体P2X4と神経障害性疼痛

著者: 井上和秀

ページ範囲:P.444 - P.445

 ATPは細胞内でリン酸化基質として細胞機能を維持する一方,細胞外ではUTP,UDPなどの他のヌクレオチドと共に各種ATP受容体を介して細胞間情報伝達物質として機能する。ATP受容体はイオンチャネル型受容体(P2X)とGタンパク質共役型受容体(P2Y)に大別される。現在,サブタイプはそれぞれ7種類(P2X1-P2X7)および8種類(P2Y1,2,4,6,11~14)が報告されている。P2X受容体サブタイプは細胞膜2回貫通型分子(約400-600アミノ酸残基)であり,3分子がホモあるいはヘテロに会合して,非選択的カチオンチャネルを形成する。モルヒネも効きがたい難治性疼痛の代表である神経障害性疼痛は“人類史上最悪の痛み”と言われているが,その発症メカニズムとして脊髄後角の活性化型ミクログリアに発現するP2X4受容体の役割が注目されている。

新たな脂肪蓄積遺伝子ALK7

著者: 泉哲郎

ページ範囲:P.446 - P.447

●ALK7に関するこれまでの知見

 Transforming growth factor-β(TGF-β)スーパーファミリーは共にキナーゼ活性を有するⅠ型およびⅡ型受容体の複合体を介して細胞内にシグナルを伝達する。リガンド結合により活性化されたⅡ型受容体キナーゼはⅠ型受容体細胞質内領域にあるGSドメインをリン酸化する。これにより活性化されたⅠ型受容体キナーゼはSmadと総称される分子をリン酸化して,これを細胞質から核内に移行させ,特定遺伝子の発現を制御する。ヒトおよび哺乳類では,7種のtype Ⅰ受容体,5種のtype Ⅱ受容体の存在が知られている。ALK7はactivin receptor-like kinase(ALK)と総称されるⅠ型受容体の7番目という呼称からもわかるように,他のⅠ型受容体とのアミノ酸配列相同性より,1996年にクローニングされた。脳,特に小脳,前立腺,脂肪組織などでの発現が報告されたが,リガンド不明のオーファン受容体として,その機能は不明であった。アフリカツメガエル胚での発現実験により,中内杯葉や左右の形成にかかわるnodalという分子の受容体であることが2001年に提唱されたが,ALK7ノックアウトマウスが発生異常を示すことなく,生存・繁殖可能であることが2004年に報告され,ALK7はnodalシグナルに必須ではないことが明らかとなった。

ホスファチジルセリン受容体CD300aとその機能

著者: 中澤優太 ,   小田ちぐさ ,   澁谷彰

ページ範囲:P.448 - P.449

 ペアレセプター1)(paired activating and inhibitory receptors)と称される分子群が,近年報告され,免疫系細胞の機能制御に重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。これらは細胞外構造はよく保存され,互いに類似しているが,細胞内構造が異なるために,一方は活性化シグナル,他方は抑制性シグナルを伝える分子群である。われわれは骨髄球系細胞の免疫応答に関与する新規分子として,CD300分子群(myeloid-associated immunoglobulin like receptor;MAIR,CLM,LMIR)を同定し,その機能を報告してきた2,3)。CD300分子群は細胞外に免疫グロブリン様ドメインを一つ持つⅠ型膜貫通型糖タンパク質である。データベースを用いた解析により,細胞外領域が互いに類似する分子九つでファミリーを形成していることが判明している。そのうちの一つであるCD300aは314個のアミノ酸から成り,その細胞内領域には四つのITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)と呼ばれるモチーフを有することから抑制性シグナルを伝達すると考えられている3)(図A)。これまでにモノクローナル抗体による解析から,CD300aはマクロファージ,樹状細胞,肥満細胞,顆粒球などの骨髄球系細胞に発現していることが判明している。しかし,これまでリガンドの存在が明らかでなく,生体での機能は明らかにされていなかった。

多様化したカドヘリン様膜分子群クラスター型プロトカドヘリンの生理機能

著者: 平林敬浩 ,   八木健

ページ範囲:P.450 - P.451

 神経回路形成時に個々の神経細胞が他の莫大な数の神経細胞の中から適切な相手を選別し,シナプス結合を形成するためには多様化した細胞膜分子群による選択機構が存在するという仮説があるが,その実態は明らかになっていない。

 クラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)は脊椎動物の脳神経系で発現する多様化膜分子群であり,ゲノム上の比較的狭い領域に特殊なクラスター構造を持つプロトカドヘリン分子群である。この遺伝子クラスターは三つの遺伝子クラスターから構成され,それぞれプロトカドヘリン(Pcdh)α,Pcdhβ,Pcdhγ分子群を発現する。マウスではこれまでにPcdhαが14分子種,Pcdhβ,Pcdhγが共に22分子種存在することが知られており,Pcdhα,Pddhγの各分子種は分子種ごとに異なる多様化した一つの可変領域エクソンと三つの共通領域エクソンがスプライシングされ一つの分子種が発現している。一方,Pcdhβ遺伝子クラスターはイントロンを持たない分子種ごとの一つのエクソンから構成されている1)。また,すべてのcPcdhタンパク質は細胞外領域に六つの細胞外カドヘリンモチーフを六つ(EC1-EC6)有する1回膜貫通型タンパク質で,中枢神経系,特に発達中の軸索やシナプス膜画分に多く存在している。

RET遺伝子異常と癌

著者: 佐々木秀文

ページ範囲:P.452 - P.453

 Rearranged during transfection(RET)はRETファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase:RTK)であり,1985年に名古屋大学の高橋らにより,ヒトT細胞リンパ腫より抽出したDNAをNIH3T3マウス線維芽細胞へトランスフェクションする過程で組換えを起こす癌原遺伝子として発見された。RET遺伝子はヒト第10染色体長腕(10q11.2)に存在し,RET受容体型チロシンキナーゼをコードしており,生理的には種々の神経細胞,腎臓の発生にも重要な役割を果たしている。RETは四つのカドヘリン様ドメイン,システインリッチ(CR)ドメイン,細胞内TK領域ドメインからなる。リガンドであるグリア細胞由来神経因子(glial cell-line derived neurotrophic factor;GDNF)ファミリーが細胞外ドメインに結合すると,CR領域が活性化され二量体を形成することにより自己リン酸化が起こり,Ras-MAPK,PI3-AKTなどのシグナル伝達経路が活性化される。

免疫細胞上の活性化受容体DNAM-1(CD226)

著者: 竹中江里 ,   渋谷和子 ,   渋谷彰

ページ範囲:P.454 - P.455

●免疫システムと免疫系受容体

 免疫とは自己と非自己を識別し,非自己を排除することにより自己を防御するシステムである。免疫細胞は血管・リンパ管・組織をダイナミックに移動しながら,非自己の監視と排除を行う。免疫細胞に発現する免疫系受容体は免疫応答のすべての局面において,細胞接着や細胞内へのシグナル伝達などの重要な役割を担っている。本稿では免疫系受容体の一つ,DNAM-1について概説する。

表皮形成におけるEGF受容体とエピモルフィン

著者: 萩原奈津美 ,   葛野菜々子 ,   平井洋平

ページ範囲:P.456 - P.457

 チロシンキナーゼ型受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)は上皮系,間葉系,神経系など多様な細胞で発現し,活性化されると細胞の増殖や成長・分化を促すシグナルを伝達する。皮膚ではEGFRのリガンドであるEGF,TGF-α,amphiregrin,epiregulinなどによるEGFRの活性化は表皮細胞の多層構造形成や分化に重要な役割を担うことが知られている。近年,エピモルフィン(シンタキシン2)が小腸上皮細胞においてEGFRを間接的にリン酸化し,MAPKの活性化を介して細胞増殖および生存に関与することが報告された1)。エピモルフィンは通常細胞膜の細胞質側でt-SNAREとして小胞輸送を媒介することで広く知られているが,種々の刺激により一部が細胞外へ分泌され,小腸,乳腺,肝臓,毛包など様々な上皮細胞の形態・分化を制御する2)。ごく最近,細胞外エピモルフィンが表皮細胞内でのEGFRの活性化状態を調節し,その影響は細胞が置かれている微小環境の違いによって大きく異なることが示された3)

非小細胞肺癌とEGFR遺伝子変異

著者: 中田昌男

ページ範囲:P.458 - P.459

●EGFRとシグナル伝達

 EGFR(epidermal growth factor receptor;上皮成長因子受容体)の発見は古く,1975年に線維芽細胞において,その存在が初めて報告されている。EGFRはchromosome7p12上にコードされている170kDaの膜蛋白質型tyrosine kinase(TK)受容体であり,類似した構造を持つErbB familyの一つである。ErbB familyにはEGFR(ErbB1)のほかにHer-2/neu(ErbB2),HER-3(ErbB3),HER-4(ErbB4)があり,いずれも三つのドメイン(細胞外領域,細胞膜貫通領域,細胞内領域)から成る構造を有している。EGFRは細胞外領域においてリガンドが結合すると,細胞膜上の他のEGFR(または他のErbB family)と二量体を形成して細胞内領域のTKドメインが活性化され,チロシン残基がATPによってリン酸化される。リン酸化されたチロシンは細胞内の種々の蛋白質を活性化し,様々なシグナルが伝達される。活性化されたEGFRによる細胞内シグナル伝達経路の主なものにはRas-Raf-MAPK経路,PI3K-Akt経路,JAK-STAT経路があり,細胞の増殖,成長,生存,抗アポトーシスなどに関与している1)

EGFR-TKIsの肺特異的障害の分子機構

著者: 栗本遼太 ,   巽浩一郎

ページ範囲:P.460 - P.461

 肺癌はバイオマーカーの研究や分子標的薬の登場により,飛躍的に個別化医療(personalized medicine)が進んだ疾患の一つである。Epidermal growth factor receptor(EGFR)遺伝子変異は,非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer;NSCLC),特に肺腺癌の発生に明らかに関与している遺伝子変異の一つであり,EGFR-tyrosine kinase inhibitors(EGFR-TKIs)は従来の薬物療法に大きな変化をもたらした。その一方,致死的な肺障害が報告されており,その使用に際しては十分な注意が必要である。本稿においてはこのEGFR-TKIsの肺特異的障害の分子機構について概説する。

卵の成熟におけるEGF受容体の活性化と活性化因子

著者: 島田昌之 ,   山下泰尚

ページ範囲:P.462 - P.463

●排卵(卵成熟)と顆粒膜細胞分泌因子の関係

 卵巣には卵胞という構造があり,この卵胞に一つの卵が存在している。卵胞は卵胞膜,それを裏打ちする顆粒膜細胞層,その一部が隆起した卵丘細胞層からなり,卵丘細胞層が卵を覆っている(図)。排卵とは卵胞にある卵が第二減数分裂中期にまで到達した状態(成熟卵)で,受精が行われる卵管へと排出される現象であり,卵胞膜の破裂,顆粒膜細胞層の再構築(黄体化),卵丘細胞層へのヒアルロン酸を主成分とする細胞外マトリクスの蓄積(卵丘細胞層の膨潤)といった一連の変化と共に引き起こされる。

 この排卵現象は脳下垂体が分泌する黄体化ホルモン(luteinizing hormone;LH)により誘導されるが,その受容体は卵胞膜と顆粒膜細胞に存在し,卵や卵と共に卵管へと排出される卵丘細胞には発現していない。したがって,一連の排卵現象(卵成熟を含む)にはLH刺激を受けた顆粒膜細胞が発現・分泌し,卵丘細胞や卵を刺激する二次因子が必要となる。このような背景から排卵期にLHにより顆粒膜細胞が発現・分泌する因子の探索が行われてきた。

EGF受容体の突然変異を検出する新しい鋭敏な方法

著者: 中村朝美 ,   木村晋也

ページ範囲:P.464 - P.465

 がん分子標的療法は標的分子が明確であるためバイオマーカー検索を行うことにより効果予測が可能となる。肺がんでは,EGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)の効果予測因子としてEGFR活性型遺伝子変異(エクソン19欠失,L858R)が用いられる。EGFR遺伝子変異を有する肺がんではEGFR-TKIが高い抗腫瘍効果を示すが,1年前後で獲得耐性を起こすことが問題となっており,獲得耐性の約50%はEGFR T790M遺伝子変異によるものである。このように現在の肺癌診療においてEGFR遺伝子変異の状況を知ることは治療方針を決定するうえで必要不可欠となっている。本項ではEGFR遺伝子変異検査法の歴史と,われわれが新規開発した血漿遊離DNAを用いてEGFR遺伝子変異を検出するための高感度検査系について紹介する。

ヘレグリン(HRG)とErbBの結合とErbBの二量体化

著者: 佐甲靖志

ページ範囲:P.466 - P.467

●ヘレグリンとその受容体

 ヘレグリン(heregulin;HRG)は上皮成長因子(epidermal growth factor;EGF)ファミリーに属する細胞外情報蛋白質である。EGFが細胞増殖を促すのに対しHRGは細胞分化を促す。HRGはまた,神経系の初期発生や統合失調症の発症に関連する因子でもある。

 HRGの受容体は,これもEGF受容体と共にErbB1-B4のファミリーを構成している。B3,B4がHRG受容体であり,本稿ではまとめてHRG受容体(HRGR)と呼ぶ。HRGRは細胞膜を1回貫通する膜内在性蛋白質で,細胞外にリガンド結合部位,細胞内にチロシンリン酸化酵素部位と,それに続く分子認識部位を持つ。ただしB3のリン酸化酵素活性は極めて弱い。リガンド結合によって分子認識部位の複数のチロシンがリン酸化され,情報伝達機能を発揮する1)

視床下部神経細胞でのGnRH受容体刺激によるErbB4の切断反応

著者: 山本秀幸 ,   仲嶺(比嘉)三代美

ページ範囲:P.468 - P.469

 視床下部にはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を産生・放出するGnRHニューロンが存在する。GnRHニューロンにはGnRHに対する自己受容体が存在し,細胞の機能が制御されている。われわれはマウスのGnRHニューロンの培養株細胞であるGT1-7細胞を用いてGnRH受容体刺激後の細胞応答について検討を行ってきた。その過程でGnRH受容体の刺激により,ErbB4の切断反応(以下,切断反応と略する)が起こることを見いだした1)。今回,GnRHニューロン以外で報告されてきた切断反応を説明した後に,われわれの研究結果について紹介する。

ニューレグリン受容体(ERBB4)の異常と精神疾患

著者: 田渕克彦

ページ範囲:P.470 - P.471

 ErbB4は4種類あるErbB受容体タンパク質(ErbB1,ErbB2,ErbB3,ErbB4)の一つで,他のErbBファミリータンパク質同様,1回膜貫通型の受容体チロシンキナーゼの構造および機能を有している。ErbB受容体ファミリーのリガンドは,上皮成長因子(EGF)に属するタンパク質と,ニューレグリンファミリー(NRG)に属するタンパク質に大別されるが,ErbB1のリガンドがEGFファミリータンパク質であるのに対し,ErbB3とErbB4はニューレグリンが主である。ErbB2に対するリガンドは今のところ見つかっていない。ニューレグリンのうち,NRG1-5がErbB4と親和性を有し活性化する。ErbB受容体はリガンドと結合することによって,他のErbB受容体との親和性が高まり,二量体を形成する。この結果,細胞内のチロシンキナーゼドメインが相手方のErbB受容体の細胞内領域をリン酸化し,これによってp85,Src,Shcなどがリクルートされ,シグナル伝達が惹起される。ErbB4は,主にRas-MAPKとPI3K-Akt経路の誘導に関与している。ErbB4のリン酸化はRas-MAPK経路の持続した活性を誘発し,細胞周期の休止や細胞の分化を引き起こすと考えられている1,2)

 ErbBファミリータンパク質は,どのアイソフォーム同士の組み合わせでも二量体を形成できる。そのため,NRGと結合しないErbB1が,ErbB4とヘテロ二量体を形成することによって,NRGがErbB4を介してErbB1をリン酸化し,ErbB1のシグナルを誘発することができる。同様にEGFと結合しないErbB4も,ErbB1との結合を介してEGFによってシグナルを誘発される。ErbBタンパク質の発現量が上昇した場合,リガンド非依存的に二量体が形成され,自己リン酸化を引き起こすことが,一部の癌において知られている1,2)

S100A9受容体としてのEMMPRINとその機能

著者: 日比野利彦

ページ範囲:P.472 - P.473

●S100A9の新規受容体,EMMPRINの発見

 S100タンパク質は分子量1万前後で,2個のEF-handを持つカルシウム結合性タンパク質であり,約20種類のファミリーメンバーが知られている。これらS100タンパク質ファミリーは様々な生理的現象にかかわっているが,未解明の部分が多く残されている。また,S100ファミリーの多くが染色体1q21のEpidermal differentiation complex(EDC)と呼ばれる領域に存在する。この部位にはフィラグリン,インボルクリン,ロリクリン,SPRRといった,表皮の分化マーカーが存在しており,表皮細胞の機能にも関与していると推測される。S100A8,S100A9もこの部位に存在するが,これらのS100蛋白質は炎症のマーカーとして知られている。S100A8とS100A9は,生体内ではヘテロダイマー(S100A8/A9:カルプロテクチン)を形成し,安定に存在すると考えられている。

 われわれはまず,ヒト表皮ケラチノサイトを用いて,S100A8/A9の影響について検討した1)。培養液中にS100A8/A9を添加し,3時間後および24時間後のmRNA発現変化をマイクロアレイ法により検討した。その結果,S100A8/A9添加3時間後では,CXCL1,2,3,およびCXCL8(IL-8),IL-6,IL-1β,TNFαなど,一連の炎症性サイトカイン,ケモカインが強く誘導され,24時間後では,これらに加えて,S100A8/A9そのものと,MMP1,2,10が誘導された。さらに,これらのサイトカインをケラチノサイトの培養液に添加したところ,S100A8/A9の発現亢進と分泌促進が観察された。これらの結果はS100A8/A9と一連の炎症因子との間に,ポジティブ・フィードバック機構が存在することを示している。

EphA3受容体とシナプス可塑性

著者: 松山正剛 ,   角山圭一 ,   松浦健二

ページ範囲:P.474 - P.475

 Eph受容体はチロシンキナーゼ型受容体の中でも最大ファミリーを構成しており,近傍にある細胞のエフリン(ephrin)をリガンドとして細胞表面同士で結合している。そのアミノ酸配列の相違からEphA(EphA1-8,10)受容体とEphB(EphB1-6)受容体に分類される。エフリンとEph受容体は同時にリガンドと受容体の両方の働きができる点が特徴的で,エフリンの一部は受容体に結合すると,その受容体を刺激するだけでなく,エフリン自身も活性化されて,その細胞内部にシグナルを送ることができる(図1)。Eph受容体は神経堤細胞の移動,神経軸索誘導など神経の発生過程において重要な役割を果たし,また,成体動物においては様々なシナプス機能への関与が指摘されている。今回,成体マウス海馬におけるEphA3受容体の遺伝子と蛋白質の発現とその局在,シナプス可塑性のEphA3受容体の遺伝子および蛋白質の発現変化への影響を示すことで,シナプス可塑性におけるEphA3受容体の関与を明らかにする。

エリスロポエチン受容体の心血管保護機構

著者: 佐藤公雄 ,   下川宏明

ページ範囲:P.476 - P.477

 心血管組織の低酸素や虚血環境への慢性的な曝露は,心臓や血管の恒常性を破綻し,心血管病発症を促進する。しかし,心臓や血管には,そうした環境ストレスが加わっても簡単には恒常性が破綻しないように巧妙に仕組まれた保護機構が備わっている。本稿では,その保護機構の一つ,心臓や血管に発現するエリスロポイエチン受容体の役割について最新の研究成果を紹介する。

CCN2/CTGFによるFGF2-FGFR2結合の修飾

著者: 青山絵理子 ,   久保田聡 ,   滝川正春

ページ範囲:P.478 - P.479

 FGFs(fibroblast growth factors)はFGFファミリーと呼ばれる,哺乳類では22種類の構成因子からなる遺伝子群を形成しており,また,その受容体であるFGF受容体(FGF receptors:FGFRs)は4種類の構成因子からなるファミリーを形成している。これらはそれぞれが複数の受容体と結合性を持つことから機能的多様性,重複性に富んでいることで知られている。また,その作用シグナルは様々な細胞の増殖,分化に関与しており,器官形成,創傷治癒,発がん機構など様々な局面において重要な働きを担っている。特に四肢および骨格系の発達において必須の因子であるためFGFおよびFGF受容体の異常による骨格形成不全が数多く報告されている。なかでもFGFR2およびFGFR3の点突然変異による機能獲得型変異(gain of function)はアペール症候群やクルーゾン病などの骨格系の発達異常の原因であることがわかっている1)

 CCN2/CTGF(CCN family protein 2/connective tissue growth factor,以下CCN2)は構造的に類似性を持つCCN familyと呼ばれる一連のタンパク質群に属する,分子量約38kDaの分泌タンパク質である。その遺伝子欠損マウスでは骨形成に異常が生じることや,細胞培養系においてリコンビナントCCN2が軟骨細胞,骨芽細胞,血管内皮細胞,破骨細胞などの増殖,分化を促進することが示されており,CCN2は骨軟骨系の正常な発生や維持に必要な因子として知られている2)。CCN2の注目すべき最大の特徴として,多くの分子との結合を介した独特な作用機構が挙げられる。通常サイトカイン類に代表される分泌タンパク質は,特異的なパートナーである膜タンパク質とリガンド・受容体の関係を形成し一定の生理活性を示す。しかし,これまでのCCN2結合因子の研究から,CCN2は特定の受容体に対するリガンドとして働くのではなく,他の生理活性因子やその受容体などの膜タンパク質と結合することで,それらのシグナルを制御することが明らかになってきている。本稿ではCCN2によるFGF2/FGFR2の結合およびシグナル促進作用に関して筆者らの知見3)を中心に概説する。

CCN2/CTGFのシグナル/トランスサイトーシス受容体としてのLRP1

著者: 河田かずみ ,   久保田聡 ,   滝川正春

ページ範囲:P.480 - P.481

●低密度リポタンパク質(LDL)受容体関連タンパク質1(LRP1)の機能

 LRP1はLDL受容体ファミリーに属する。この分子は40以上のリガンドを持ち,シグナル伝達やエンドサイトーシスを介して,脂質ホメオスタシス,細胞外タンパク質の分解,成長因子/サイトカイン活性,細胞外基質の構成および免疫反応などに機能する1)。その多様な機能は胚発育にとって必要不可欠であり,Lrp1従来型ノックアウトマウスは胎生初期に発育異常により死亡する2)。分子機能面ではLRP1が古典的WNT/β-cateninシグナル経路活性を抑制し3),プロテインキナーゼC(PKC)を活性化することが知られている4)

GABAA受容体γ-subunitを介した機能変異

著者: 上野伸哉

ページ範囲:P.482 - P.483

 イオンチャネルをコードする遺伝子変異によってチャネル機能異常を来し,特発性てんかん,不整脈,周期性四肢麻痺の病因となることが明らかとなり,近年,これらの疾患群を“Channelopathy”とする概念が確立した。さらにチャネル自体の変異のみならず,チャネル調節タンパク質の異常によるチャネル機能変異も知られるようになった。本稿ではGABAA受容体γ-subunitの変異および調節タンパク質欠損によるチャネル異常を示す。

ビトロネクチン受容体としての終脳特異的接着分子テレンセファリン

著者: 吉原良浩

ページ範囲:P.484 - P.485

●終脳特異的樹状突起性細胞接着分子テレンセファリン(TLCN)

 1.構造 TLCNは免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーに属するⅠ型膜蛋白質であり,アミノ末端のシグナルペプチド,九つのIgドメイン,細胞膜貫通領域,約60アミノ酸の細胞内領域,で構成されている1)。TLCNのIgドメインは,免疫系での細胞間相互作用において重要な機能を担うIntercellular adhesion molecule(ICAM)-1,-2,-3,-4と非常に高い相同性を示す。TLCNは神経細胞に発現する唯一のICAMファミリー分子であり,ICAM-5とも呼ばれている。

 2.発現 TLCNの発現の特徴を,マクロからミクロな視点で眺めていくと以下のように要約される。① 終脳セグメント特異的な発現,② スパインを有する神経細胞に特異的な発現,③ 樹状突起選択的な局在。① と ② は転写レベルでの調節によるものであり,TLCN遺伝子転写開始点から上流1.1kb以内に発現調節エンハンサーが同定されている。③ については,TLCN蛋白質細胞内領域のC末端(17アミノ酸)が樹状突起選択的ソーティングモチーフとして機能する2)(図A)。

インスリン受容体チロシンキナーゼドメインに変異を有するRabson-Mendenhall症候群の1例―遺伝子変異と治療反応性の考察

著者: 阿部裕樹

ページ範囲:P.486 - P.487

 Rabson-Mendenhall症候群は1956年に報告されたインスリン受容体異常症の1型である1)。非常にまれな疾患であり,高度のインスリン抵抗性を呈し,ケトーシスにより早期に死亡することもまれではない。本症はインスリン受容体遺伝子(INSR)の変異が原因となって発症することが知られている。今回われわれはインスリン受容体βサブユニットのチロシンキナーゼドメインに新規変異を有するRabson-Mendenhall症候群の一例を経験し,recombinant human insulin like growth factor-I(rh-IGF-I)を用いて治療を行ったが,治療に対して抵抗性を示した。本症の治療への反応性につき自験例・文献を基に考察する。

神経発生における細胞接着分子L1の役割

著者: 上口裕之

ページ範囲:P.488 - P.489

 L1は免疫グロブリンスーパーファミリーに属する1回膜貫通蛋白質である1)。Xq28に存在するヒトL1遺伝子は脳神経系の発生に重要な役割を担っており,L1遺伝子の変異は伴性劣性遺伝性水頭症とMASA症候群(精神発達遅滞,失語症,けい性歩行,母指の内転屈曲)などの原因となり,これらの疾患を連続したスペクトラムととらえL1症候群と総称する。病理組織学的には錐体路低形成,脳梁低形成,小脳虫部低形成などを示し,特発性水頭症と比較して脳室腹腔シャント術後の機能予後は不良である。L1ノックアウトマウスも類似の神経発生異常を示し,L1症候群の発症機序の研究に利用されている。

免疫系細胞表面のペア型受容体

著者: 黒木喜美子 ,   前仲勝実

ページ範囲:P.490 - P.491

 ペア型受容体とは非常に相同性の高い細胞外ドメイン(リガンド認識部位)を持ちながら,細胞内にimmunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif(ITIM)を持つ抑制型受容体とimmunoreceptor tyrosine-based activation motif(ITAM)を持つ(あるいはITAMを持つサブユニットと会合する)活性型受容体からなる受容体群である(図A)。実際の免疫機能はペア型受容体群のシグナルバランスによって制御されるため,多くの免疫系疾患の発症に関与する一方で,微生物やウイルス由来分子の受容体として利用される場合も少なくない。抑制型受容体は自己抗原を認識し,免疫細胞の自己応答性を抑制しているのに対し,活性型受容体は病原体などの異物を認識し,免疫制御や生体防御に重要な機能を担っていることを示唆するデータが蓄積してきている。

c-kit変異と消化管間質腫瘍

著者: 宮﨑真一郎 ,   今野弘之

ページ範囲:P.492 - P.493

KIT

 KITはc-kit遺伝子にコードされる1回膜貫通型のtype Ⅲ受容体型チロシンキナーゼである。KITのリガンドはStem cell factor(SCF)であり,SCFとKITの結合によりKITのホモ二量体が形成され自己リン酸化が起こり,細胞増殖・生存にかかわるMAPK経路,PI3K-AKT経路,JAK-STAT経路などにシグナルが伝達される。生体内ではKITはメラニン細胞,肥満細胞,消化管ペースメーカーの役割を担うCajal介在細胞に発現している。c-kit変異には機能獲得型変異と機能喪失型変異がある。前者ではKITの恒常的活性化が起こり,一部の黒色腫,肥満細胞症,消化管間質腫瘍(GIST)の原因となる。本稿ではc-kit変異GISTについて概説する。

LDL受容体とその発現調節

著者: 佐藤隆一郎

ページ範囲:P.494 - P.495

●LDL受容体

 LDL受容体は血液中のリポタンパク質LDLを結合し,細胞内に取り込む1回膜貫通型の細胞表面受容体である。LDL粒子表面には1分子のアポリポタンパク質B100が存在し,これをリガンドとしてLDL受容体は認識する。肝臓から分泌されたVLDLは血管内皮細胞表面に局在するリポプロテインリパーゼの作用により,粒子内のトリグリセリドが分解を受け,粒子サイズを小さくしながらIDL(intermediate-density lipoprotein),LDLへと代謝されていく。この過程でIDL粒子上に存在するアポリポタンパク質EもLDL受容体により認識され,IDLは細胞内へと取り込まれる。

 LDL受容体は血中LDLのクリアランスに重要な位置を占め,本受容体の変異は家族性高コレステロール血症の原因となることは周知の事実である。また,脂質異常症の治療薬スタチンはコレステロール合成の律速酵素HMG CoA還元酵素阻害剤であるが,肝臓において細胞内コレステロールの減少によりLDL受容体発現が上昇することにより,血中LDLのクリアランスを亢進させている。したがって,LDL受容体発現を高いレベルに保つことは脂質代謝改善にとって望むべき方向であり,その制御機構についての知見について概説する。

Met/HGF受容体の制御

著者: 酒井克也 ,   松本邦夫

ページ範囲:P.496 - P.497

●Met受容体を介したシグナル伝達の生理機能

 Met受容体はチロシンキナーゼをシグナル発信器とする細胞膜貫通型受容体であり,肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)をリガンド分子とする受容体である(図1A)。HGFとMet受容体の関係は1:1であり,HGFには受容体を共有するファミリー分子がない。Met受容体の遺伝子欠損マウスの解析から,発生過程において,HGF-Met系シグナルは肝臓,胎盤の形成・成長に必須であることが明らかにされている。また,組織選択的Met欠損マウスの解析から,HGF-Met系はとりわけ肝臓,腎臓,表皮の再生・修復に必須であることが明らかにされている。一方,HGF-Met系を介した生物活性の特徴として,腎尿細管細胞や乳腺上皮細胞に代表される上皮細胞の3-D管腔形成の誘導といったダイナミックな細胞運動や形態形成の誘導が挙げられる。また,強力な細胞死阻止・生存促進活性を持っており,その活性は他の増殖因子と比較しても強力である。これらMet受容体の活性化が,HGF-Met系に特徴的な生物活性につながる生化学的理由として,Gab-1アダプタータンパク質がMet受容体と選択的に強い相互作用をすることが挙げられる(図1A)。

セマフォリン3A受容体としてのニューロピリン1・プレキシンA複合体

著者: 中村史雄 ,   五嶋良郎

ページ範囲:P.498 - P.499

 セマフォリン3A(Semaphorin-3A,Sema3A)はニワトリ胚脊髄後根神経節の神経突起を退縮させる因子Collapsinとして同定された。同時期にバッタ胚の神経伸長制御にかかわる分子FasIVが同定された。CollapsinとFasIVのアミノ酸一次構造の比較によりN末端側に550アミノ酸の相同領域が見いだされたことから,この相同領域をSema領域と命名し,Sema領域を持つ分子群をセマフォリンファミリーとして定義した。

 セマフォリンはその一次構造から無脊椎(1,2),脊椎動物(3-7),ウイルス(V)のクラスに分類される。セマフォリンの多くはプレキシン(Plexin)を直接あるいは間接的な受容体・シグナル伝達分子とする1)。Plexinは細胞外にSema領域を持ち,セマフォリンの遠縁分子と考えられる。また,Plexinは一次構造からA-Dのクラスに分類され,その中に1~数個のメンバーを持つ。ここではクラス3セマフォリンのSema3Aとその情報伝達機構について述べる。

神経栄養因子受容体TrkAの三次元分布

著者: 西田倫希

ページ範囲:P.500 - P.501

●NGF刺激に対する分化PC12細胞の細胞内輸送

 神経栄養因子の一つNGF(nerve growth factor;神経成長因子)は,神経細胞の突起伸長,生存維持などにかかわる分化誘導因子であり,その作用は膜1回貫通型受容体TrkA(tyrosine kinase receptor)と高親和的に結合することで作用する。NGFによるTrkAリン酸化は下流のシグナル分子を活性化する一方,NGF-TrkA複合体はクラスリン依存性あるいは非依存性エンドサイトーシスにより内在化され,エンドソームを経てリソソームで分解される。

 筆者はTrkAを細胞膜に発現する神経系細胞株PC12をNGFで分化誘導し,NGFが分化PC12細胞内のTrkA分布に与える影響を検討した1)。酸性環境で蛍光を発するキナクリンをNGFと共に投与すると,蛍光シグナルが細胞体とバリコシティー(神経突起の途中に形成される数珠状の膨らみ)にゆっくりと集まり,蛍光強度も緩やかに増加し続け,刺激45分後には蛍光スポットは細胞全体に分布した。また,電子顕微鏡観察では,電子密度が顕著に増加したリソソームが細胞体やバリコシティーでみられた。さらにTrkAで標識されたバリコシティー数も刺激後に有意な増加を示した。以上からNGF刺激によるキナクリンとTrkAのバリコシティーへの集積は,リソソームによるTrkA分解が細胞体2)だけで起こるのではなく,神経突起のバリコシティーも関連する可能性を示した。そこで電子線トモグラフィーを使いバリコシティーにおけるTrkAの細胞内分布を検討した。

神経栄養因子受容体TrkBと神経可塑性

著者: 青木誠

ページ範囲:P.502 - P.503

 神経栄養因子の研究はレヴィモンタルチーニらがNGF(nerve growth factor)を同定することによって始まった。それ以後,NGFのほかBDNF(brain derived neurotrophic factor),NT-3,NT-4がこれまでに同定された。神経栄養因子は受容体Trkに細胞表面で結合してシグナル伝達を引き起こす。発生過程で神経栄養因子は神経細胞の生存,軸索の伸張,樹状突起の形成を促進し神経回路網の形成を行う。成体においてもTrkは海馬や脳室下領域において神経幹細胞の増殖や生存を促進することが報告されている。Trkは神経回路形成における役割の他に,シナプス伝達効率を調節することが知られている。成体の脳神経系では大きな神経回路の再編は起こらず,既存神経回路内でシナプス伝達効率の変化が,シナプスの構造に変化を与え,より強固なシナプス結合へと変化する。シナプスの可塑性と呼ばれるこの過程は成体の脳が学習や記憶を形成する際のメカニズムと考えられている。本稿ではBDNF-Trkシグナリングが神経活動によって惹起され,シナプスの形状に影響を与えることについて概説する。

終末糖化産物受容体RAGE

著者: 棟居聖一 ,   山本博

ページ範囲:P.504 - P.505

 終末糖化産物受容体(receptor for advanced glycated end-products;RAGE)は終末糖化産物(advanced glycated end-products;AGE)の受容体として同定された。AGEはタンパク質が還元糖により非酵素的に糖化,修飾されるメイラード反応で生成される最終産物の総称である。AGEは糖尿病患者やその病変部に蓄積していることが明らかにされて以来,AGEとその受容体RAGEとの相互作用に注目された。その後の研究からAGE-RAGE相互作用は糖尿病合併症に原因的に関与することが実証された。さらに最近,RAGEはAGEのみならずアルツハイマー病において脳に蓄積するアミロイド-β蛋白質,癌転移や炎症との関連が明らかにされているHMGB-1/amphoterin,免疫細胞から分泌される炎症仲介分子S100/calgranulin,白血球の細胞表面にあるβ2インテグリンMac-1,アポトーシス細胞上のphosphatidylserine,グラム陰性菌外膜の構成物質であるlipopolysaccharide(LPS)など様々なリガンドと結合することが明らかにされ,Toll様受容体などと同様にパターン認識受容体として糖尿病以外の疾患,自然免疫,炎症,組織の再生など種々の事象に関与する可能性が示唆されている(図)。この稿ではリガンド-RAGE相互作用を中心に受容体としてのRAGEの機能について概観する。

マスト細胞のToll様受容体

著者: 布村聡 ,   岡山吉道 ,   照井正 ,   羅智靖

ページ範囲:P.506 - P.507

 マスト細胞はアレルギー炎症のエフェクター細胞として機能し,外界に直接する皮膚や粘膜などの上皮組織を中心に,広く全身の組織に定着して分布する骨髄幹細胞由来の免疫細胞である。マスト細胞はほとんど全身の臓器,組織に分布するが,特に外界に接する皮膚や,気道,消化管などの免疫応答の盛んな粘膜組織の血管周囲に多数定着している。この位置取りは,細菌やウイルスなどの病原体や外来の異物に直接曝されることを意味し,感染時にはToll様受容体(TLR)を介して,これらの病原体を排除する自然免疫に携わっている。本稿ではマスト細胞におけるTLRの発現,機能,シグナル伝達について最新の知見を交えながら概説する。

喫煙によるTLR3の発現増加―COPD急性増悪のメカニズム

著者: 市川朋宏 ,   小荒井晃 ,   南方良章

ページ範囲:P.508 - P.509

 たばこ煙には多くの有害物質が含まれており,長期間の喫煙が慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)や動脈硬化などの慢性疾患の発症のリスク因子となる。特にたばこ煙に含まれる多種のフリーラジカルやオキシダントにより生体内で酸化ストレスを生じることで疾患の発症や進行を引き起こすと考えられている。近年,Toll様受容体(Toll-like receptors;TLRs)をはじめとした自然免疫応答が有害物質のクリアランスやたばこ煙による生体内での反応のメカニズムに関連していることが明らかになった。われわれはCOPDの病態形成およびその増悪機序について喫煙とTLR3の関連に着目し検討を行ってきた。本稿では喫煙および酸化ストレスがTLR3の発現や自然免疫応答に及ぼす影響について,研究成果も踏まえて概説する。

TLR4多型によるリガンド応答変化

著者: 山川奈津子 ,   三宅健介

ページ範囲:P.510 - P.511

 TLR4/MD-2は,大腸菌をはじめとするグラム陰性菌の細胞膜の構成成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide;LPS)を検出するセンサーである。TLR4がMD-2を介してリガンド分子のLPSを認識すると,LPS依存的にTLR4/MD-2の二量体を形成し,TLR4/MD-2二量体が細胞内へ移行することでシグナルを伝達する。そして炎症性サイトカインやⅠ型インターフェロン産生が誘導され,最終的に外界から侵入してきた病原体は除去されるため,われわれは日々を健康的に暮らすことができている。

TLR4の遺伝子多型と眼科疾患

著者: 布施昇男

ページ範囲:P.512 - P.513

●Toll-like receptor 4(TLR4)

 Toll-like receptor(TLR)は動物の細胞表面にある受容体タンパク質で,種々の病原体を感知して自然免疫を作動させる機能を持つ。自然免疫は様々な病原体に対して抗微生物ペプチドを産生し,初期の生体防御の働きを担うと共に,獲得免疫を賦活し,免疫機構において重要な役割を果たしている1)。TLRファミリーは外因性リガンドを認識し自己,非自己を区別するパターン認識受容体(pattern recognition receptor;PRR)と呼ばれる。PRRは病原の表面に存在するpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)を認識する。ヒトでは10種類がデータベース上で報告されており,それぞれのリガンドも大部分は同定されている。なかでもTLR4は,外因性・内因性のリガンドに対して免疫応答を担うタイプⅠ膜貫通型受容体で,細菌のリポ多糖類(lipopolysaccharides;LPS)を認識する受容体であるが,感染とは無関係に障害を受けた細胞から放出されるHMGB1(high-mobility group box 1)やHSP(heat shock protein)などの蛋白質,フィブロネクチンやヒアルロン酸などの細胞外基質の分解物,サーファクタント蛋白質Aなど内因性のリガンドによっても活性化される2)。TLR4は細胞外leucine-rich repeats(LRR)ドメイン,膜貫通ドメイン,細胞内Toll/interleukin-1 receptor(TIR)ドメインの構造からなる。リガンドが結合してからTLR4受容体の下流の複雑なカスケードが作用する。

敗血症におけるTREM-1の発現

著者: 奥怜子 ,   織田成人 ,   中田孝明 ,   中西加寿也

ページ範囲:P.514 - P.515

 敗血症は感染に起因する全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)であり,ICUにおける主要な死亡原因である。敗血症の病態には,感染に対し過剰に産生された炎症性サイトカインが深く関与する。

 近年,敗血症においてサイトカイン産生を増強させる因子の一つとしてtriggering receptor expressed on myeloid cells-1(TREM-1)が注目されている。TREM-1は好中球,単球やマクロファージなどの骨髄系細胞上に発現する細胞表面分子であり,細菌の存在下でその発現が増強し,toll-like receptors(TLRs)と相乗的に働き炎症性サイトカインの産生を著明に増加させ,感染に対する炎症反応を増幅する役割を担う。

VEGF受容体Flt-1と最近の知見

著者: 澁谷正史

ページ範囲:P.516 - P.517

 われわれヒトを含む脊椎動物は閉鎖血管系を持ち各組織に栄養と酸素を供給しているが,血管系を制御する分子機構については,約25年前までほとんど明らかでなかった。また,1970年代に米国Folkman教授が提唱した「固形癌の増殖は腫瘍血管に依存し,血管は新しい制癌剤の標的となる」との仮説についても,分子基盤が不明であった。しかし,1980年代後半の血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)の発見と,その後にわれわれが単離した新しいチロシンキナーゼ受容体Flt-1をきっかけとするVEGF受容体ファミリーの解析により血管制御に関する理解は飛躍的に高まった1-3)。この稿ではVEGFR1/Flt-1の血管制御における2面性,すなわち,主に遊離型タンパク質sFlt-1による血管新生の抑制とFlt-1キナーゼのシグナル伝達を介したマクロファージなどによる病的血管新生・炎症の促進について述べる。また,産科領域で非常に重要な疾患である妊娠高血圧症候群(preeclampsia;PEと略)とsFlt-1の密接な関係なども報告したい。

Reelin受容体機能の多様性と脊椎動物脳の進化

著者: 勝山裕 ,   寺島俊雄

ページ範囲:P.518 - P.519

 大脳新皮質発生過程で脳室帯で生じたニューロン前駆細胞は軟膜側へ放射方向移動し層構造を形成する。皮質ニューロンの軸索投射が正常であったとしてもニューロンの放射軸方向の配置に異常を持つ変異マウスではヒトの精神疾患症状に類似した行動異常がみられる(Imaiら,投稿準備中)。放射方向へのニューロン移動の異常は小脳低形成も引き起こし,変異動物は小脳性運動失調を示す。細胞外糖タンパク質Reelinは大脳皮質発生時に辺縁帯(marginal zone)にあるCajal-Reztius細胞で発現する。これらニューロンの放射移動にはReelinシグナルが必須である。

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次号予告/財団だより

ページ範囲:P.380 - P.522

事項索引

ページ範囲:P.520 - P.521

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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