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特集 顕微鏡で物を見ることの新しい動き
高速原子間力顕微鏡歩行運動中のミオシンVの可視化
著者: 安藤敏夫1
所属機関: 1金沢大学理工研究域 数物科学系
ページ範囲:P.551 - P.557
文献購入ページに移動 機能動作中のタンパク質分子を高い解像度で直接見ることができれば,その機能発現機序の理解は格段に進むに違いない。そのような観察を可能にするには,以下の五つの条件すべてを満たす顕微鏡が必要である。① 高空間分解能,② 高時間分解能,③ 液中試料観察能,④ 実体観察能,⑤ 低侵襲性。ここで実体観察とはプローブを介さずに実体であるタンパク質分子そのものを直接観察することを意味する。これまで利用されてきた顕微鏡は,この五つの条件のうち,いずれかの条件を満たさない。例えば,超解像蛍光顕微鏡1,2)では,④の条件を満たさない。タンパク質分子に付けた蛍光分子の発光位置を高空間分解能で決めることはできても,原理的にタンパク質分子そのものは可視化できない。電子顕微鏡では試料を真空中に置かなければならず,それゆえ,時間分解能を持たない。液中試料も観察可能な電子顕微鏡の開発が進められているが3),高いコントラストと空間分解能を得るに必要な強度の電子線照射は一瞬にして生物試料を破壊してしまう。
原子間力顕微鏡(atomic force microscope;AFM)は液中にある試料を高い空間分解能で直接可視化できる唯一の顕微鏡であるが,1画像を撮るのに分のオーダの時間が必要であるため,実質的に時間分解能を持たない。しかし,この限界は原理的なものではないため,高速化するための研究が1993年ごろに開始され,初期装置4)の種々改良を経て,2008年ごろに実用レベルの高速AFMが完成した5)。高速性に加え,低侵襲性も同時に満たされた結果,上記五つの条件がすべて満さることとなった。それゆえ,動作中のタンパク質分子を動画映像として見ることが初めて可能になり,例えば,アクチン線維上を歩くミオシンV6),光に応答するバクテリオロドプシン7),回転軸のないF1-ATPaseの構造変化の回転伝搬8),セルラーゼのセルロース分解に伴う一方向運動9)などが観察され,この新規顕微鏡の有効性,革新性が続々と実証されている(総説を参照10,11))。本稿では現状の高速AFMの性能を概説し,ミオシンVの高速AFM観察に焦点を当てて,この新規顕微鏡の威力を示す。
原子間力顕微鏡(atomic force microscope;AFM)は液中にある試料を高い空間分解能で直接可視化できる唯一の顕微鏡であるが,1画像を撮るのに分のオーダの時間が必要であるため,実質的に時間分解能を持たない。しかし,この限界は原理的なものではないため,高速化するための研究が1993年ごろに開始され,初期装置4)の種々改良を経て,2008年ごろに実用レベルの高速AFMが完成した5)。高速性に加え,低侵襲性も同時に満たされた結果,上記五つの条件がすべて満さることとなった。それゆえ,動作中のタンパク質分子を動画映像として見ることが初めて可能になり,例えば,アクチン線維上を歩くミオシンV6),光に応答するバクテリオロドプシン7),回転軸のないF1-ATPaseの構造変化の回転伝搬8),セルラーゼのセルロース分解に伴う一方向運動9)などが観察され,この新規顕微鏡の有効性,革新性が続々と実証されている(総説を参照10,11))。本稿では現状の高速AFMの性能を概説し,ミオシンVの高速AFM観察に焦点を当てて,この新規顕微鏡の威力を示す。
参考文献
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