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文献詳細

雑誌文献

生体の科学65巻1号

2014年02月発行

特集 精神疾患の病理機構

栄養と統合失調症

著者: 吉川武男1 前川素子1

所属機関: 1理化学研究所 脳科学総合研究センター 分子精神科学研究チーム

ページ範囲:P.60 - P.64

文献概要

 統合失調症は生涯罹患率が約1%と,決して少なくない精神疾患である。思春期あるいは思春期以降に顕在発症するが,いったん発症すると再然,寛解を繰り返し,早期介入の啓蒙が進み治療薬の改良が進んだ現在でも,慢性に経過し発症前の社会的機能の欠損が残る(残遺状態)ことが多い(図1)1)。このような理由により,罹患者およびその家族の苦悩ばかりでなく,疾患による労働力低下は今後の少子高齢化社会において改善すべき重要な課題の一つである。しかし,現状では発症メカニズムについては未解明な点が多い。

 統合失調症をはじめ精神疾患は,他の“ありふれた身体疾患”と同様,多数の遺伝的要因と環境要因が複雑に相互作用して発症すると考えられている。統合失調症の遺伝要因に関しては,全ゲノム関連(single nucleotide polymorphism;SNP,一塩基多型)解析,ゲノムコピー数多型(copy number variation;CNV)解析,新生変異(de novo mutation)解析,エピゲノム解析と,近年飛躍的に発展したが,① 一つひとつの遺伝要因の発症に対する効果は弱い,② 記述診断の“病名”間に共通する遺伝要因がある,③ 関連するSNPだけで8,000以上あると推定されるが2),天文学的な数のサンプルを収集して解析する以外すべてを同定するのは不可能である,つまり純粋遺伝学的アプローチだけでは現実的に全貌解明は不可能,④ 統合失調症の遺伝率は80-90%3)とされるが,現在の方法論では推計を混じえてもそれらを全部説明できる遺伝要因が見つからない(missing heritability),など具体的な複雑性が浮かび上がっている。統合失調症は精神疾患全体の一つの“extremity”と考えるのが妥当であろう。一方,発症率を上げる環境リスク要因は,脳の発達期(胎児期,周産期)の微細侵襲が多く(図2),統合失調症の関連遺伝子が神経発達に関係したものが多い事実と合わせて,統合失調症の“神経発達障害仮説”の根拠となっている4)。つまり,統合失調症は脳の発達期における軽微な障害が素地となって,その後のセカンドヒット,サードヒットなどが重なって,思春期以降の顕在発症に繋がるシナリオが考えられている。一つひとつの環境要因の効果も弱いが,栄養の面を切り口に考えた場合,病因異質性の大きい統合失調症の,病理集約点の一つを見いだせる可能性も考えられるため,本稿ではわれわれの未発表データを含めて栄養,特に脂質の面から考えてみたい。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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