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特集 細胞の少数性と多様性に挑む―シングルセルアナリシス A.シングルセルアナリシスへ向けた技術開発
In Cell NMRに向けた化学―生物学的アプローチ
著者: 高岡洋輔1 浜地格1
所属機関: 1京都大学工学研究科 合成・生物化学専攻
ページ範囲:P.113 - P.118
文献購入ページに移動天然のタンパク質は,その構成要素である20種類のアミノ酸の複雑な相互作用に基づいて,厳密に制御された三次元立体構造を形成する。このような複雑な分子の構造と機能を,原子のレベルで解析できる手法が,核磁気共鳴法(nuclear magnetic resonance;NMR)である。核スピンを有する原子が置かれた環境を厳密に識別できるため,古くから有機化合物の同定のみならず,タンパク質の三次構造解析に汎用されてきた。現在,溶液中のタンパク質の動的な挙動を原子レベルで観察するうえで,NMRが最も強力な手法であることは疑いようもない。
これまでタンパク質の構造解析では,主に試験管に取り出し精製したものが観察対象であった。それによって酵素反応などの様々な生化学的反応のメカニズムが明らかにされてきたが,細胞という本来タンパク質が働く舞台において,それがどういう構造をしているかは,これまで原子レベルの精度を有する解析法が未成熟であったため不明な点が多く残されていた。細胞内は非常に高密度に種々の生体高分子が濃縮された状態であり,この分子込み合い(molecular crowding)の効果は,分子の拡散のみならず,タンパク質の構造や活性に直接影響を与える要因となっていることが最近続々と報告されつつある1,2)。このような状況において,生細胞中のタンパク質の動的構造を高い原子分解能で解析できれば,複雑な生命現象を原子/分子のレベルで語るための一歩として,非常に魅力的である。ただし,細胞のなかには無数の分子が存在する夾雑系であるため,目的の分子だけを抽出して解析するのは困難が伴う。ここではタンパク質のIn Cell NMRの最近の進歩を簡単に紹介したい。
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