特集 細胞の少数性と多様性に挑む―シングルセルアナリシス
C.シングルセルアナリシスで見えること
単細胞技術に基づくiPS細胞の標準化
著者:
山根順子1
丸山徹12
藤渕航1
所属機関:
1京都大学iPS細胞研究所
2早稲田大学大学院 先進理工学研究科 生命医科学専攻
ページ範囲:P.154 - P.158
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これまでの生物学の常識を大きく覆した人工多能性幹細胞(iPS細胞;induced pluripotent stem cell)の発見がなされたのが2006年のことである1)。iPS細胞はES細胞と異なり作製段階にヒト胚を破壊する必要がないことから,ES細胞を用いた研究において大きな障壁となっていた倫理問題が生じず,再生医療を一気に加速させる夢の細胞として登場した。体細胞にわずか数因子を導入するのみで多能性を持った細胞を生み出すことができるという報告はあまりにセンセーショナルであり,それ以降様々な細胞種由来のiPS細胞の樹立や,より安全かつ効率的な樹立法が次々に見いだされた。また,iPS細胞を用いた幹細胞生物学としての基礎研究や再生医療,創薬へ向けた応用研究など,多数の報告がなされている。世界中で樹立が試みられ報告されているiPS細胞は,樹立された数だけ質の異なる細胞になっている可能性が指摘され,今度は質の良いiPS細胞を選別する手法を開発するという新たな研究の方向性も生まれた。
iPS細胞は通常コロニー(細胞集団)として維持培養される。しかしながら,コロニーのなかでも均一な状態ではなく細胞の個性があることがわかっており,集団レベルでiPS細胞の解析を続けていくだけでは標準化を目指すことは難しい。そこでわれわれはより解像度を上げた解析が必要になると考え,従来のような“細胞集団”として遺伝子発現レベルを調べるのではなく,“個”としての細胞,つまり“シングルセルレベル”での遺伝子発現を調べ,標準化に向けた試みを行った。