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文献詳細

雑誌文献

生体の科学65巻3号

2014年06月発行

文献概要

特集 器官の発生と再生の基礎

網膜の発生研究と再生医療への応用

著者: 渡邉哲史1 大森義裕1 古川貴久1

所属機関: 1大阪大学蛋白質研究所 分子発生学研究室

ページ範囲:P.220 - P.225

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 網膜は眼の後部に位置するシート状の組織であり,視覚を司る。網膜において,眼に入った光は電気信号に変換され,情報処理された後,視神経を通して脳へとその情報が送られる。6種類のニューロン(杆体視細胞,錐体視細胞,双極細胞,水平細胞,アマクリン細胞,神経節細胞)および1種類のグリア細胞が整然とした層構造を持っている。発生学上,脳に由来し中枢神経系の組織でありながら,脳に比べシンプルな細胞構成と細胞形態を持つことから観察に適しており,in vivoでの実験操作を施しやすい。このような特徴から,古くはカハールによるゴルジ染色による網膜の観察を通したニューロン説の提唱やレトロウイルスを用いた系統解析によるニューロンとグリアが共通の前駆細胞由来であることの発見など,神経科学における重要な知見が網膜研究を通して見いだされてきた。したがって,網膜は中枢神経系の発生や機能の研究モデルとして適した組織であると言える。

 遺伝学的な解析が進み,網膜初期発生にかかわる転写因子や分泌因子など重要な因子が多く明らかにされている。最近では分子メカニズムについての知見を活用し,ES細胞などの多能性幹細胞から網膜細胞および組織を誘導する研究が進んでいる。本稿では網膜初期発生とその分子機構について述べた後,多能性幹細胞からの網膜細胞誘導に関するこれまでの知見について述べる。また,ヒトの場合,感覚情報の大部分を視覚に依存していることから,網膜変性疾患による視覚異常は日常生活に大きな支障を来す。網膜変性疾患の有効な治療法がないため,細胞移植による治療に向けた再生医療研究は注目を集めている。これに関して,後半では網膜変性疾患に対する細胞移植の基礎研究について今まで報告された知見を概説する。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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