特集 器官の発生と再生の基礎
プラナリアにみる個体再生の細胞・分子生物学的基盤
著者:
柴田典人1
李河映1
鹿島誠1
所属機関:
1京都大学大学院 理学研究科 生物科学専攻
ページ範囲:P.259 - P.265
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近年,哺乳類において多能性細胞を用いた再生医療研究が目覚ましい進展を遂げ,応用段階に入りつつある。多くの場合,iPS細胞やES細胞といった分化全能性細胞を,培養系において目的の細胞種や組織に誘導し,それを移植することによって損傷した細胞や組織を再建する方法がとられている。これはわれわれヒトをはじめとする哺乳類が,大きく欠失した組織や器官を再生させることができないためである。哺乳類の各組織には組織幹細胞と呼ばれる幹細胞が存在していることが知られている。限定された組織の損傷や恒常的な維持において,これらの組織幹細胞は必要な細胞を供給する。しかしながら,例えば腕を切断されるような損傷においては,組織幹細胞を用いた再生ができない。一方で,同じ脊椎動物の中には,有尾両生類のイモリのように高い再生能力を持つ種も存在する。このような動物では組織幹細胞や既に分化した細胞が脱分化することで幹細胞化した細胞が,再生現象に寄与することが知られている。究極の再生医療とはイモリのように失った部分を,元々存在する幹細胞を用いて,in vivoで完全に,または部分的にでも再生させることであろう。そのためには,高い再生能力を持つ生物がどのように幹細胞を使って自由に再生しているのかを知ることは,非常に有意義である。再生能力を持つ種は動物界に広く存在している。特に海綿動物や刺胞動物,扁形動物,環形動物,尾索類では,イモリのように失った部分を再生するのではなく,個体の1断片から新たな個体を再生する個体再生を行う驚くべき能力を持つ種が存在している。本稿ではその一例として,われわれが再生研究の実験動物として用いている扁形動物,プラナリアの個体再生の幹細胞を中心とした細胞・分子生物学的基盤の最新の知見を紹介したい。