仮説と戦略
胚発生期における遺伝子制御ネットワーク
著者:
久保純12
浅原弘嗣1
所属機関:
1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 システム発生・再生医学研究分野
2東北大学 加齢医学研究所 神経機能情報研究分野
ページ範囲:P.278 - P.285
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複雑に見えるわれわれの体も元を正せば1個の受精卵から始まっている。すなわち動物の体はその構築の過程“発生過程”において,受精卵から分裂によって増殖した細胞がお互いに影響を与えながら変化し,複雑なパターンを自律的に形成している。この発生過程において,それぞれの細胞は徐々に特徴的な細胞へと分化していくが,各細胞の挙動はその細胞の中に発現している遺伝子の種類と量によって規定されると考えられる。例えば筋肉の細胞では,筋肉アクチンやミオシンといったタンパク質が多量に含まれており,これらは筋原線維を構成し,筋収縮という筋肉に特徴的な機能を担うために必須のタンパク質である。これらの遺伝子の発現はMyogeninという転写因子によって制御されている。一方で,例えば神経の細胞では,アセチルコリン受容体やグルタミン酸受容体といった神経伝達を担うための受容体タンパク質を発現しており,遺伝子発現のレベルで筋肉とは全く異なることがわかる。
個々の遺伝子は核内で転写された後,細胞質でタンパク質に翻訳され機能を発揮する。現在,マイクロRNAなどによる転写後調節も多数報告されてはいるものの1),ある細胞における遺伝子の発現を第一義的に規定しているのは転写段階であり,特定の配列を認識し,転写反応を誘導する“転写因子”が重要な役割を担っている。さらにこの転写因子自体も遺伝子である以上,それ自身の転写も何らかの転写因子によって制御されている。例えば,先ほどの筋肉における転写因子,Myogenin遺伝子自体も,筋肉細胞の特異化の段階では,その発現は転写因子MyoDなどによって制御されている。