特集 古典的代謝経路の新しい側面
低酸素適応におけるミトコンドリア複合体Ⅱの役割
著者:
北潔1
坂井千香12
冨塚江利子13
江角浩安4
原田繁春5
所属機関:
1東京大学大学院医学系研究科 生物医化学教室
2国立精神・神経医療センター神経研究所疾病研究第2部
3新潟薬科大学薬学部 衛生化学研究室
4東京理科大学生命医科学研究所 臨床研究部門
5京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 応用生物学部門
ページ範囲:P.304 - P.310
文献購入ページに移動
複合体Ⅱ(コハク酸-ユビキノン還元酵素複合体)はTCA回路の酵素中で唯一膜結合性の酵素であり,細菌では細胞膜,真核生物ではミトコンドリア内膜に局在している。真核生物ではミトコンドリアのマーカー酵素としても知られており,四つのサブユニットすべてが核にコードされている。複合体ⅡはTCA回路と呼吸鎖を直接結ぶ重要な酵素であるが,最近,複合体Ⅱがエネルギー代謝の調節に直接関与し,また,そのサブユニットの変異が褐色細胞腫や傍神経細胞腫などの腫瘍形成にかかわっていることが明らかになってきた1,2)。さらに好気性生物でのコハク酸酸化の逆反応であるフマル酸還元酵素活性を持つ複合体Ⅱが低酸素適応において重要な役割を果たしていることが報告され3),その生理機能の多様性が注目されている。また,これまで呼吸鎖からの活性酸素(reactive oxygen species;ROS)の発生部位は複合体Ⅰ(NADH-ユビキノン還元酵素複合体)と複合体Ⅲ(ユビキノール-シトクロムc還元酵素複合体)と考えられていたが,変異の入らない野生型の複合体Ⅱからも相当量のROSが遊離されていることが報告された4,5)。しかもヒト複合体Ⅱでは,その触媒サブユニットであるフラボプロテインサブユニット(Fp)に二つのアイソフォームが存在し,保存性の低いタイプのFp(Type Ⅱ Fp)を持つ複合体Ⅱが低栄養・低酸素下で誘導され,また,多くの腫瘍組織やがん細胞,さらに胎児の一部の器官や組織で発現されていることが報告された6)。以上のような複合体Ⅱの新しい側面に関する研究の現状について低酸素適応とヒト複合体Ⅱのアイソフォームを中心に紹介する。