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文献概要
増大特集 生命動態システム科学 Ⅱ.数理生物学 3.進化・分子進化
(1)微生物の実験室進化
著者: 古澤力1
所属機関: 1理化学研究所 生命システム研究センター(QBiC)多階層生命動態研究チーム
ページ範囲:P.452 - P.453
文献購入ページに移動■はじめに
多くの進化研究では,ある個体が持つ性質(表現型)は,そのゲノムの塩基配列によって支配されると仮定している。ゲノム配列が変化することによって表現型が変化し,それらの個体が適応度に応じて選択されるというのが進化プロセスの標準的な説明となる。しかし,この仮定はいつでも成り立つわけではなく,同一のゲノム配列を持つ個体であっても,様々な表現型を示す場合があり,それは表現型可塑性と呼ばれる。例えば同一環境であっても細胞内の化学反応の確率的な振る舞いによって,遺伝子発現量などの細胞状態には“揺らぎ”が存在する1)。では,こうした表現型可塑性は,進化のダイナミクスにどのような影響を与えるのであろうか?2)
進化のダイナミクスを解析する難しさの一つは過去に起こった進化イベントを直接観察することはできず,化石やゲノム配列など現在得られる情報から再構成をする必要がある点にある。それらを回避する方法の一つは,定義された初期状態からの進化ダイナミクスを実験室で解析するという進化実験を用いたアプローチであろう。そこで本稿では,われわれのグループが行っているエタノールストレス環境下での大腸菌の進化実験3)の結果を紹介する。
多くの進化研究では,ある個体が持つ性質(表現型)は,そのゲノムの塩基配列によって支配されると仮定している。ゲノム配列が変化することによって表現型が変化し,それらの個体が適応度に応じて選択されるというのが進化プロセスの標準的な説明となる。しかし,この仮定はいつでも成り立つわけではなく,同一のゲノム配列を持つ個体であっても,様々な表現型を示す場合があり,それは表現型可塑性と呼ばれる。例えば同一環境であっても細胞内の化学反応の確率的な振る舞いによって,遺伝子発現量などの細胞状態には“揺らぎ”が存在する1)。では,こうした表現型可塑性は,進化のダイナミクスにどのような影響を与えるのであろうか?2)
進化のダイナミクスを解析する難しさの一つは過去に起こった進化イベントを直接観察することはできず,化石やゲノム配列など現在得られる情報から再構成をする必要がある点にある。それらを回避する方法の一つは,定義された初期状態からの進化ダイナミクスを実験室で解析するという進化実験を用いたアプローチであろう。そこで本稿では,われわれのグループが行っているエタノールストレス環境下での大腸菌の進化実験3)の結果を紹介する。
参考文献
. 297:1183-1186, 2002
2)金子邦彦:生命とは何か 第2版 複雑系生命科学へ.東京大学出版会,2009
. 11:579, 2010
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