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増大特集 生命動態システム科学 Ⅱ.数理生物学 5.細胞
(2)多細胞システムのダイナミクス
著者: 井上康博1 安達泰治1
所属機関: 1京都大学再生医科学研究所 ナノ再生医工学研究センター バイオメカニクス研究領域
ページ範囲:P.466 - P.467
文献購入ページに移動形態形成において組織や細胞に作用する力学的,生化学的刺激により,細胞内ではタンパク質の変形やシグナル伝達反応が起こり,細胞の機能的・構造的な変化が誘起される。さらに,それら細胞の変化は細胞間相互作用によって,周囲の細胞に影響を与え,その結果,組織階層に新しい力学的,生化学的な場を形成し,多細胞集団の協調した運動や変形を生じさせる。このような力学的,生化学的な場の形成過程と細胞や組織の運動,変形は互いに影響し合い,組織の立体形状や細胞の空間的配置などの秩序形成が制御されていると考えられる。しかしながら,細胞階層と組織階層のそれぞれの現象はお互いに原因にも結果にもなり得るため,階層間の現象に単純な因果関係を見いだすことは難しい。このような複雑な現象に対し,どのようなアプローチが有効であろうか。ポイントは,“システム”と“数理”である。上位階層の現象は下位階層の要素間相互作用によるダイナミクスから自発的に生まれる。そこで,細胞を要素として,その集まりである多細胞をシステムとして捉え,細胞個々の振る舞いを数式によって表現することにより,計算機シミュレーションを行い,要素間のダイナミクスから発現する多細胞システムの振る舞いを解析する。このような数理的アプローチでは洗練された実験を基にしても到達できないような思いがけない作業仮説が導出できると期待されている。本稿では主にわれわれの試みている多細胞システムの数理モデリング・シミュレーションについて紹介したい。
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