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増大特集 生命動態システム科学 Ⅱ.数理生物学 8.ネットワーク
(1)時間情報コードによる細胞制御システム
著者: 久保田浩行1 黒田真也2
所属機関: 1九州大学生体防御医学研究所 トランスオミクス医学研究センター 統合オミクス分野 2東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻
ページ範囲:P.486 - P.487
文献購入ページに移動シグナル伝達経路の特徴の一つは,限られた経路を用いて外界の様々な入力の情報を処理し,細胞を正しい応答へと導くことである。このために生物はシグナル伝達経路の組み合わせ,つまりクロストークによって応答の多様性に対応している。その一方,単一種の分子の時間パターンにも複数の情報をコードできることが近年明らかになってきた(時間情報コード)。つまり,単一種の分子の一過性や持続性,周期性などの“時間パターン”により細胞の応答を選択的に制御できる。このような視点で生物を眺めてみると,実に多くのホルモンが特徴的な血中パターンを示していることに気が付く1)。研究自体の数としては少ないながらも,これらの血中パターンがホルモンの機能に重要であることが報告されている。例えば,インスリンの血中パターンは食後に一過性に分泌される時間単位の追加分泌や,平時から微量に分泌されている日単位の基礎分泌,そして15分間程度の分単位の周期性パターンからなることが報告されている(図)。これらの分泌パターンの重要性は古くから認識されており,例えばインスリンによる肝臓からの糖の放出抑制は15分間程度の周期性刺激のほうが一定刺激よりも効果的に糖の放出を抑制することや,糖尿病患者では上記に説明した三つの分泌パターンの異常が報告されている。つまり,インスリンは血中パターンに情報をコードし,下流の応答を選択的に制御している可能性が高いと考えられる。以上のように時間情報コードによる細胞制御が生命システムの原理の一つであると考えられるが,その詳細な理解への取り組みは始まったばかりである。
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