文献詳細
増大特集 生命動態システム科学
Ⅲ.合成生物学 1.人工細胞
(6)マイクロ流体工学による非平衡人工細胞
著者: 瀧ノ上正浩1
所属機関: 1東京工業大学 大学院総合理工学研究科 知能システム科学専攻
ページ範囲:P.502 - P.503
文献概要
生命システムは非生命の物質と比較して驚くほど複雑で動的な現象を示す。これは生命システムがエネルギー・物質・情報の流入と散逸のある“非平衡開放系”だからであることが知られている(図1)。平衡系の場合,均一な構造や結晶のような単純な繰り返し構造しか生まれず,自律的な動きも生まれないが,非平衡系の場合は動物の体表模様のような複雑なパターンの形成,細胞の自律的な走性運動,細胞分裂,心臓の拍動などのリズム現象など多様な動的な現象が生み出される。これはSchrodingerの著書「What is Life?」1)で負のエントロピーという概念で説明され,後にPrigogineらの散逸構造理論2)として理論的に解明された。
近年は,生命システムをモデル化した人工細胞3)や分子ロボット4)などの自律的かつ動的な分子システムを構築する研究が盛んに行われるようになってきている。このような研究によって,生命の動的な特性の物理科学的な理解や高機能な分子デバイスの開発が進むことが期待されている。われわれのグループでは,マイクロ流体工学を利用して,細胞サイズの微小なスケールで非平衡系を制御し,生命システムのように自律的で動的な分子システムとしての人工細胞の構築や分子ロボットの構築を行っている。本稿では特に非平衡な人工細胞ついて紹介し今後の可能性を論じる。
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