特集 エピジェネティクスの今
産科的異常とエピゲノム解析
著者:
久須美真紀12
秦健一郎1
所属機関:
1国立成育医療研究センター研究所 周産期病態研究部
2山王病院 リプロダクション 婦人科内視鏡治療センター
ページ範囲:P.573 - P.578
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哺乳類の発生にはエピジェネティックな遺伝子発現制御が必須であり,エピジェネティックな情報の消去と再構築による系統的な制御が,様々な発生時期や分化段階特異的に観察される。特に生殖細胞系列の発生分化過程や,受精後の初期胚発生過程では,ゲノム全体にわたりエピジェネティックな修飾の消去と再構築が観察される。ヒトでも,一部の先天奇形症候群や胎盤形成異常にエピゲノム異常が関連することが知られてはいるが,エピゲノム解析はゲノムインプリンティング異常症の確定診断や,インプリント遺伝子の一つであるp57KIP2の免疫染色が胞状奇胎(後述)の診断に実用化されている程度で,周産期疾患の系統的なエピゲノム解析が行われるには至っていない。また,エピジェネティックな修飾はジェネティックな情報とは異なり環境因子によって変化しうるため,DOHaD(Developmental Origin of Health and Disease)学説のような新たな概念も提唱され1),胎児期・新生児期・乳幼児期の栄養状態に影響を受けるエピゲノム変化や,その結果としての成人期の疾病発症のメカニズムへの関心が高まっている。加えて生活様式の変化に伴う出産年齢の高齢化も,卵子の老化をはじめとする出生前環境悪化の一因となっている。このような背景を踏まえ,本稿では周産期領域におけるエピゲノム異常について,最近の話題を概説する。