解説
カイコを用いた創薬研究
著者:
松本靖彦1
浜本洋1
西田智2
関水和久1
所属機関:
1東京大学大学院薬学系研究科 微生物薬品化学教室
2株式会社ゲノム創薬研究所
ページ範囲:P.613 - P.620
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日本は高齢化社会を迎えており,医療費が社会問題となっている。日本人の死因は,悪性新生物(がん),心疾患,肺炎,脳血管疾患,老衰の順である(厚生労働省,平成24年人口動態統計,第6表)。この人口動態統計において感染症や生活習慣病という項目はないが,感染症が悪性新生物や肺炎を引き起こし,糖尿病や高血圧などの生活習慣病が心疾患や脳血管疾患の原因となることは,一般的によく知られている。よって,感染症や生活習慣病に対する治療薬の開発が望まれている。それにより医療費負担の軽減が果たされると期待されている。わが国の国民医療費の増加には,薬価(薬一単位の値段)が高いことが一因となっている。薬価の算定において,類似薬が存在する場合は,市場での公正な競争の確保のために既存類似薬の一日薬価に合わせることになっているが,類似薬のない新薬では,研究費などの費用に合わせて薬価が算定されるので,薬価が高い薬が上市されるケースがある。少ない研究費で新薬を開発することは,企業の利益のみならず,国民の経済的な負担の軽減の観点からも重要である。そのためには,創薬が困難である理由について考えて,問題点を抽出し,対応策を提案する必要がある。本稿では,まず創薬における課題とその問題点の克服のための昆虫の利用について概説する。更にこれまでに筆者らが行った,カイコを用いた創薬のための基盤研究である疾患モデルの確立とその利用法について解説する。