実験講座
ES細胞を用いないジーンターゲティング:CRISPR/Casシステム
著者:
葛西秀俊1
饗場篤1
所属機関:
1東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 動物資源学部門
ページ範囲:P.621 - P.627
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近年のゲノム編集の目覚ましい進歩は,遺伝子改変技術に大きな変革をもたらしつつある。ゲノム編集とは人工ヌクレアーゼなどを用いたDNAの二重鎖切断と,それに伴う修復メカニズムに基づいて,ゲノムの標的部位に変異を導入する画期的な技術である。現在,代表的なシステムとして,ZFN(zinc finger nuclease),TALEN(transcription activator-like effector nuclease),CRISPR/Cas(clustered regularly interspaced short palindromic repeat/CRISPR-associated)が広く利用されている。ZFNおよびTALENは,DNA結合モチーフと制限酵素Fok IのDNA切断ドメインを融合した人工ヌクレアーゼであり,これらはCRISPR/Casに先駆けて開発された。これらのシステムはマウスのみならず,既にラット,ゼブラフィッシュ,線虫,植物においてゲノム改変の成功例が報告されている。ZFNおよびTALENシステムの原理や方法の詳細については,既に本誌に掲載した総説を参考にされたい1)。一方,CRISPR/Casシステムは標的配列の認識にタンパク質のDNA結合ドメインではなく,短いRNA断片を用いる。ZFNおよびTALENと同様に変異導入効率が高いうえに実験デザインが極めて容易であることから,急速に世界中に広まりES細胞を用いたジーンターゲティングに取って代わろうとしている。本稿ではCRISPR/Casシステム用いた遺伝子改変動物の作製方法および,発展的・応用的な利用方法について概説する。