特集 脳と心の謎はどこまで解けたか
“嫌な出来事を避ける”ための神経基盤─外側手綱核と前部帯状皮質の役割
著者:
川合隆嗣1235
山田洋34
佐藤暢哉2
高田昌彦1
松本正幸34
所属機関:
1京都大学霊長類研究所統合脳システム分野
2関西学院大学大学院文学研究科総合心理科学専攻
3筑波大学大学院人間総合科学研究科感性認知脳科学専攻
4筑波大学医学医療系生命医科学域
5日本学術振興会
ページ範囲:P.24 - P.28
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動物は過去の経験に基づいて行動を柔軟に変化させる。特に,失敗や怪我といった嫌な出来事を経験した際に,同じ行動を繰り返さないように学習する。この経験に基づく行動修正の神経基盤を明らかにするために,これまでヒトや動物を対象に様々な研究が行われてきた。その結果,期待していた報酬が得られない,または痛みを受けるといった嫌悪的な事象が起こったときに,脳の複数の領域が協調して活動することが明らかとなってきた。本稿では,そうした脳領域の中でも,特に“外側手綱核”と“前部帯状皮質”に着目する。これら二つの領域のニューロンは,共に嫌な出来事に対して強く反応することで知られる。そうした反応は,嫌な出来事を避ける行動を生み出す基盤であると考えられている。更に,外側手綱核と前部帯状皮質は解剖学的に結合してネットワークを形成しており,最近の研究によって,この外側手綱核-前部帯状皮質ネットワークの働きが嫌な出来事を避ける行動の制御に重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた。以下の項では,まず,外側手綱核と前部帯状皮質のそれぞれの機能を説明し,続いて外側手綱核-前部帯状皮質ネットワークの機能を概説する。