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特集 使える最新ケミカルバイオロジー A.細胞を操作する化合物
環状化を用いたペプチド機能の光制御
著者: 梅澤直樹1 樋口恒彦1
所属機関: 1名古屋市立大学大学院薬学研究科創薬生命科学専攻精密有機反応学分野
ページ範囲:P.102 - P.107
文献購入ページに移動ペプチドは,種々の酵素活性やタンパク質-タンパク質間相互作用の阻害,様々な受容体への結合能などの生理活性に加え,バイオミネラリゼーションやペプチドの自己集合を利用したナノ材料など,多彩な機能を持つ。これらの機能を光で制御できれば,幅広い領域の研究に役立つと期待される。光を用いて機能を制御できる“光応答性ペプチド”が幾つか報告されており5,6),その設計原理から二つのグループに大別できる(図1)。まず,ケージド化合物のように,活性に重要な官能基を光分解性保護基で保護する方法がある(図1A)。この方法は光応答性ペプチドにもよく用いられ,セリンやアスパラギン酸,リシン,リン酸化アミノ酸などの側鎖が光分解性保護基で保護されうる。しかし,幾つか問題点がある。まず,フェニルアラニンやロイシンなど,既存の光分解性保護基では保護できない官能基が活性に重要な場合,この戦略は適用できない。主鎖のアミド結合を光分解性保護基で保護した例もあるが,立体障害の少ないアミノ酸近傍に限られるなど,その適用は限定的である7)。また,ペプチドでは活性に重要な官能基の数が多く,複数存在していることも少なくない。その特定にかなりの労力が必要になると予想される。次に,適切な位置関係にある側鎖官能基を“光異性化する分子”でクロスリンクし,活性コンフォメーションを制御する方法がある(図1B)2,8)。この手法には,活性を可逆的に制御できるという大きなメリットがある。しかし,結晶構造解析などから活性コンフォメーションがあらかじめわかっており,どこにどの長さのクロスリンカーを入れればよいかの指針がある程度明らかになっている必要がある。また,“活性型”にも立体的にかさ高いクロスリンカーが存在しているため,標的タンパク質との相互作用様式によっては活性が大きく低下する可能性がある。以上のような問題点を抱えているが,“可逆的な活性制御”という魅力は大きく,現在活発に研究が進められている2,8)。
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